

Shigeyuki Jo
城 繁幸
株式会社ジョーズ・ラボ代表取締役。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。人事部に勤務。2004年に退社。以降、成果主義の問題点や雇用や労働における格差是正を訴えている。
城 繁幸さん(コンサルタント・著述家)
『若者はなぜ3年で辞めるのか』をはじめ、成果主義のもたらした問題について発言している城繁幸さん。能力に応じて報酬を得られる成果主義が手放しに賞賛された時代があり、大手企業の多くが成果主義を導入した。だが、城さんは、それは「本来の成果主義ではない」とし、中途半端な成果主義が世代間の格差を生んでいると指摘する。いったい日本の企業で何が起きているのだろう。
年功序列とは、簡単に言うと前年度に比べて増えた予算を社員みんなでわける仕組みです。
私はかつて富士通の人事部に在籍していましたが、人事の仕事の鉄則は「去年までの人件費予算より一円も減らしてはいけない」というものでした。
昨年度の社員に支払っていた人件費の予算が1億円で、今年は1億1000万円になったとします。増えた1000万円をみんなで分ける。これが年功序列の発想です。

そこが問題なのです。かりに予算が1億円よりも増えなかったら、あるいは9000万円に減ったらどうなるか?を考えることなく成果主義を表面的に採用してしまいました。
それでどうなったかと言えば、新入社員のうち半分を非正規雇用にした。もしくは新入社員の給与は、従来ならば勤続年数に応じて昇給していましたが、「成果主義だから、これからは能力の高い順に上位3割しか昇給しません」というふうにしてしまった。
しかしながら、こういったやり方は、本来は成果主義と呼べません。
人件費の予算を1億円とするならば、成果主義とは、毎年その1億円の配分についてゼロから考え直すという仕組みのことです。そうでないと最近入った社員と在籍している社員の生涯所得に大きな差がつくことになります。これがいま問題になっている世代格差の原因のひとつです。
はい。だから現状、成果主義を実施している企業はないと言っていいでしょう。大手企業の9割が成果主義を導入しているとされていますが、私は「なんちゃって成果主義」と呼んでいます。
ゼロから査定をし直すわけでもなく、またいまの法律では解雇や賃下げに制限がありますから、すでに会社にいる人はあまり割を食わないで済みます。
しかしながら、これから新しく採用される人に対して、就業規則を改めておけば、企業に都合のいい条件を押し付けることができます。
たとえば、ある大手テレビ局は昨年度から新入社員に向けて別の賃金規定をつくり、給与を従来の3割減としました。
経営側だけを責めることができないのは、これまで労働組合が絶対に賃下げを認めなかったからです。そこで新卒採用者の給与を下げた。
経営陣と労働組合は、新入社員に経営のしわ寄せを負担させることで利害が一致しています。新規契約には賃下げを盛り込めるので、法律も犯していません。
そうです。さきほど例にあげたテレビ局はまだ良心的です。「生涯賃金が3割下がるから、家のローン組めないよ」と事前に言っているようなものですから。
問題は名の知られた大手銀行やメーカーです。おそらく社員は35歳あたりで「あれ?なんだか給料あがらないな」と思い、ようやく将来就けるポストなどないことに気づくはずです。これからは生涯、平社員のままの人が全体の7割くらいを占めると思います。すでに家のローンを組んでしまった人にとっては、大きな誤算になるでしょう。

そうだと思います。ただ、キャリアデザインという語が普通に使われるようになったのは、良いことだと思います。
日本企業は、これまでなら「なんでもやります」と言うような人を採用しており、採用された人も配属されるまで何をやらされるかわかりませんでした。入社後は辞令一枚で転勤し、定年まで働くのが当たり前。キャリアは会社が与えるもので、自分で作り上げるものではなかったわけです。
「自分でデザインしなくてはいけない」という意識の高まりによって、それ以前とは企業の見方も180度変わったと思います。
先進的な企業は、社内公募制やFA制度、職種別採用といったように自分のキャリアを選べるツールを整えています。しかしながら、大半の企業は、社会動向の変化に追い付いていません。
従来の企業は、ビジネスモデルについて深く考えていなかったと思います。なぜなら考える必要がなかったからです。
日本企業は、車であれ繊維、電器、半導体であれ、ものづくりの発想で生産にかかわってきました。つまり、なるべくたくさんのものをより安く、より高品質につくることを心がけてきました。
それには重箱の隅をつつくような少しずつ改良を加える工夫はあっても、ビジネスモデルは必要ありません。
しかし、その仕組みでは、国際競争に勝てない時代になりました。いかにコストを削っても、中国や韓国、台湾には勝てない。まったく新しいことをしなければならないため、この15年くらいでようやくビジネスモデルについて考えるようになった。
けれども勤続年数の長い人が上層にいる構図は抜本的に変わっていません。いまだに「俺の若い頃は…」という話をする人が重役に就いていて、経営の舵をとっている。これでは新たなビジネスも経済成長も望めません。
「いままでと同じことをしていてはダメだ。新しいビジネスをやらなければいけない!」と思ったのは確かでしょうが、取り組もうとしたとき明らかになったのは、組織内にそういうことを考える部署がなかった。
なぜなら企業のトップは経営だとか戦略についてまともに考えてこなかったからです。その事実が明らかになった衝撃は大きいと言えます。
そうとも言えません。リーマンショック以降、メディアがいろんな企業のトップたちにインタビューをしています。そうそうたる顔ぶれの経営者の口を吐いて出るのは、だいたい「景気の回復はアメリカ次第」という話です。
つまり、アメリカがまた輸入してくれたら景気はよくなるということです。最近では、それが「中国次第」に変わりました。戦略というものはなく、常に状況に対し受け身の発想です。

なんとなくみんなで作ってきたレールがあって、その上を懸命に歩いてきた、という感じではないでしょうか。
これを裏付ける例をあげます。経済産業省はターゲティング政策といって、特定産業を伸ばすという目標を掲げ、お金を注ぎ込んで育てようとしてきました。しかし、この政策を行って、成功した試しがありません。
理由は簡単で、次にどういうビジネスが発展するかわかっていたら、誰も苦労せず投資します。
経済産業省の知り合いに聞いたら、「ターゲティング政策が成功した国などないことは、我々だってわかっている。だけど経団連からせっつかれるから仕方ない」と話しました。
経団連の偉い人たちも他人任せにしている状況です。なんとなくあると思えたレールはもう崩れかけているのに惰性でこれまで通り歩こうとしている。新しいビジネスモデルを自分たちでつくる段階とは到底言えないと思います。
いま企業内で個人の漂流が始まっています。そこそこの大学からそこそこの企業に入ったものの、待遇や将来性など入社前と話が違うことに気づいて、どうしていいかわからなくなっている。転職もできず、不安を抱えている人は多い。
非正規雇用者の問題は、正規雇用者を含めて考えないといけない。ようするに働く人のすべてを正社員として終身雇用できないから非正規労働者が生まれたわけです。そこで非正規雇用を禁じたところで、その人たちは失業するだけで正規雇用されるわけではない。
私は正社員や派遣社員という分け方を止めて、どちらも同じ従業員として扱い、職務に応じて同一の賃金体系で評価するべきだと考えています。これによって派遣雇用は半数以下に減り、直接雇用が増え、また理論上、派遣労働者の時給は3割程度あがると思います。
それは違います。長期雇用を前提としたローン、つまり会社の名前を担保にお金を貸すような習慣は日本にしかありません。
そもそも他の国には終身雇用がありませんから、銀行は過去数年の年収とローンの返済状況を検討し、リスクを評価してお金を貸しています。

そういう作業を日本の銀行はさぼっています。一般企業も社員のパフォーマンスと給与に関する基準が明確ではありませんが。
ともかくお金を貸すのが銀行の仕事ですから、社名で貸せなくなれば、新たな評価づくりに取り組まざるを得ないでしょう。
定時には帰らず、有給休暇の取得が少ないといった勤務態度です。「どれだけ成果を出したか」ではなく、「どれだけ懸命に働いたか」を見ていました。前世紀の評価基準だと思いますが、いまでも多くの会社の実状はそういうものだと思います。これについて息苦しさは誰もが感じているはずです。
日本の企業には将来性がないと思ったからです。日本型の雇用、経営が優れていたと言われていた時期がありましたが、そうでもありません。後発の工業国が先進国にキャッチアップする段階がありますが、日本の躍進はたんにそのレベルだったと思います。
日本の国内市場は規制で守られており、冷戦の最中であったから政府も防衛費にあまりお金を使わず、経済に専念できた。
ところが冷戦が終わって規制緩和が促され、なおかつ中国が工業化すると一気に日本の優位性が崩れてしまった。
考えませんでした。もう自分のやりたいことだけをやろうと心を決めました。それでもなんとかご飯を食べられるだろうと思いました。
進学を考えているなら、大学4年間をいかに過ごすかが分岐点になると思います。少子化に伴う定員割れで、大学に入りやすい時代になっていますが、翻って言えば、偏差値が重要ではなくなっているということです。実際、企業の人事部は同じ程度の大学なら、あまり差をつけて評価しません。
だから、大学に入ったことに満足せず、それまで以上に勉強すれば、自分のやりたいことが見えてくるはずです。そこで進路を決めればいい。
あとは古典を読むことをお勧めします。グローバル化がいっそう進めば、世界各国の人と付き合うには、共通のプラットフォームが必要となります。そうなると教養が必要ですし、欧米では、歴史を踏まえたジョークが評価されますから古典は重要になってきます。
いろんな国のホワイトカラーから「日本人のサラリーマンは異様に教養が低い」という話を聞きます。歴史書といっても司馬遼太郎の時代小説を読む程度では、国際的な場で小咄のひとつもできません。古典を読むことをお勧めします。
[文責・尹雄大 撮影・黒澤めぐみ]

Shigeyuki Jo
城 繁幸
株式会社ジョーズ・ラボ代表取締役。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。富士通では人事部に勤務し、成果主義を導入した新人事制度導入直後から運営に携わった。2004年に退社。以降、成果主義の問題点や雇用や労働における格差是正を訴えている。『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』、『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』(光文社)、『7割は課長にさえなれません』(PHP研究所)など多数。
【城 繁幸さんの本】

『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』
(光文社)

『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』
(光文社)

『7割は課長にさえなれません』
(PHP研究所)