

Masashi Yasukawa
安川 雅史
1965年生まれ。大学卒業後、北海道の公立、私立高校に就職。平成6年、大検予備校・第一高等学院の教師となる。現在、全国webカウンセリング協議会の理事長としてネットいじめ・いじめ・不登校・ひきこもり問題に取り組む。
安川 雅史 さん(全国webカウンセリング協議会理事長)
インターネットが可能にしてくれたことはとても多い。私たちは見知らぬ人と出会い、共鳴し、何かを作り出すことさえできるようになった。
しかし、その力は諸刃の剣だ。ときに匿名性を隠れ蓑に、見知らぬ人に暗がりから石をぶつけるように攻撃し、貶めるツールにもなりえる。
ネット上のやり取りを発端に、いじめ、殺人や傷害事件、自殺が中高生の間で起きている。いったい若者をめぐるネット環境はどうなっているのか。
今回は全国でネットいじめをはじめとした問題の啓発を行っているwebカウンセリング協議会の安川雅史さんにお話をうかがった。
ネットやメールにはまっている子のほうが、いじめに合いやすい傾向があります。そのひとつが「なりすましメール」です。メールは他人のアドレスからでも送れるため、それを利用し、恋人同士の仲を裂いたり、クラス全員のメールアドレスを使って、気に食わない子にメールを送りつけたりします。それが原因で学校に来られなくなった子どももいます。
次にチェーンメールの問題があります。昨年広まったのは暴力団の名をかたり、「○○組では、人を探しているから協力するように。もしあなたのところで、このメールが止まったら、探している相手はあなたと断定し、殺害します。最新のコンピュータを使っているからどこで止まったかもわかる」といった脅しの文句まで書いてありました。
受け取った人は、怖がって友だちに転送します。送られた側にとっては、迷惑なことだから、「なぜ私に送ったのか」と怒る。友人関係にひずみが起こった例もあります。
人を脅すメールを受け取った段階では被害者でも、それを広めた時点で共犯者です。だいいちチェーンメールがどこで止まったかを調べることなど、実際にはできません。
そういう当たり前の知識を子どもは知らず、また大人たちもそれを教えていないからチェーンメールが広まってしまう。
全国web協議会では、チェーンメールを友だちではなく、撃退する転送先を知らせた上で、そこに送るよう勧めています。

学校裏サイトは携帯で5分もあればつくれるくらい簡単なものです。「放っておきなさい」「見なければいい」と言う大人もいますが、それは誤った考えです。本人が見なくても、誰が見ているかわかりませんし、放っておけば、いつかなくなるものではありません。削除しない限り、いつまでも残ります。
それに噂はあっという間に広がります。それがもとである高校の倍率が下がり、定員割れを起こしたケースもあるくらいです。後にその高校を退学になった元生徒がサイトをつくり、そこでの書き込みに原因があったことがわかりました。
ある高校での事例ですが、ルックスのよさから、男子に人気の生徒がいました。そのことを気に食わない女子から彼女は顰蹙をかっていました。「あの子は男の前だけ態度が違う」と掲示板に書かれ出し、偽造のプロフィールサイトがつくられました。それはいかにも援助交際をしているという内容です。
その噂が広まり、男子が彼女を避けるようになり、担任もそういう様子を怪んで、周囲に事情を聞きました。担任は彼女が援助交際をしているという噂を信じてしまった。
その子を呼び出して、「おまえは援助交際をしているのか。もう学校へ来なくていい」と言い放った。本人はショックを受け、通信制の学校に転校しました。
教師はプロフを他人がつくれることすら知らない。ほかの生徒と一緒になって、彼女を追いつめたわけです。「わからなかった」「知らなかった」で済まされる時代ではありません。
はい。小学校6年生の女の子は、入学した頃から周囲に容姿のことでからかわれ、いじめられていました。何か言えば、よけいにいじめられるから言い返さず、授業中も絶対発表しなかったそうです。
学校裏サイトの恐いところは、体力差や学力差、経済力の差も関係ない。だから誰が被害者になるかわからないところです。このケースでは、いじめられていた子が加害者になった。
家に帰ると、ふだん彼女をいじめていた子の名前をあげ、「むかつく」とか「死ね」といったことを裏サイトに書いていました。それが学校で問題になり、彼女がやったことがわかった。
担任はすべての生徒の親に電話し、書き込んだ子の実名を明らかにした上で、「問題は解決したので安心してください」と連絡しました。
しかも、担任からの報告を受けた校長は、書き込んだ生徒の親に電話して、「おたくでは犯罪者を育てるような子育てをしているんですか」と言い、全校集会を開くから親子で壇上にあがって謝罪するよう迫った。その子は以来、学校へ通っていません。
昨年、学校裏サイトに「死ね」などと書き込んだ生徒が自殺した事件が起きました。学校の生徒指導担当の教諭4人が2人ずつ、約2時間にわたって断続的に事情を聞いたのですが、その際、調書をとり、責めたてたといいます。
ふだんまじめな子だっただけに、取り返しつかないことをしたと思い込み、帰宅後に自殺してしまった。「まじめ」という評価を受けていた子が180度違う対応をされると、すぐに折れてしまう。学校側の言い分は「教育委員会のマニュアル通りにした」です。
多くの学校は、こういう問題が起きた時の対処法を勉強していないし、むしろ逃げたがる教師が多い。その象徴が携帯の持ち込み禁止という対策です。

まったく関係ありません。書き込みは家でもできます。極端な学校だと、「持たせない運動」を称し、携帯が牙を向いたポスターで啓発しようとしています。
そもそも携帯自体が悪いわけではありません。それほど問題だったら、大人の社会でここまで広がっていないでしょう。包丁を凶器だからといって取り締まるようなもので、ナンセンスです。
「持たせない」ではなく、扱い方を教える義務が大人にあります。高校の教師からの相談でよく聞くのは、「小中学校でネットや携帯について何も教えられていない」という内容です。だから教室のすべてのコンセントが充電のために使われていたり、授業中に平然とメールのやり取りを行い、プロフを閲覧している。注意すると「暴力を振るわれたと訴えるぞ」と逆に脅されたりする。そういう子が小中学校の頃、携帯を持っていない場合が多い。
昨年末、出会い系サイト規制法ができたことで、プロフが危険になっています。なぜならプロフを熱心に見ている中には、子どもに興味を持っている大人がいるからです。小児性愛者、いわゆるロリコンです。
プロフは無料閲覧でき、しかも本人が写真を載せているだけでなく、電話番号やアドレスまで公開している場合が多い。子どもに性的興味を抱いている大人が直接連絡をとりやすい。
事件として報道されるのは出会い系サイトを利用した場合で、それは証拠が残るから逮捕に至るのです。プロフに書き込まないで、直接相手のメールアドレスに送るから第三者からはわからない。
子どもたちの側から、援助交際を求める書き込みをしている子もいます。「意味わかる人連絡してね」とか「話が早い人連絡してね」と書かれてあったりして、これ自体では援助交際の募集とは判断つきませんし、犯罪になりません。どちらかが口を割らない限り表沙汰にはなりません。プロフのほうが危ないといえます。

たとえば、モバゲーは、援助交際を示唆する隠語の監視を行うなど、完璧に対策を立てています。ただ、監視対象は横書きなので、縦書きにする子もいれば、文字の間に♯を入れたりする場合もあります。そのため24時間365日、コンピュータと人力で監視しています。
ほかにも、携帯やアドレスを書き込めないようにしたサイトも登場するようになりましたが、たとえば「わらわ」と書くなどして、監視の目を逃れようとする子どももいます。
携帯の文字盤を見ればわかりますが、090という数列に対応しています。その上、アドレスは「やわらか銀行」ならソフトバンク。「英雄」ならau。「子ども」ならドコモといったように書きます。これが監視にひっかかるようになったら、また別の隠語に変えます。
お金目的というほど単純なものではないと思います。優しい言葉に餓えている子がいて、声をかけられると、それが文字のやりとりでしかないけれど、信用してしまい、実際に会ってしまう。そういうケースも見られます。
子どもに興味を持っている大人からすれば、簡単に出会えるわけで、だから子どもたちはある意味、無免許で高速道路を走っているようなものです。

基本的なことから始めるのが大事だと思います。食事のときは携帯を置いて食べるとか、寝る時の充電は家族同じ場所で行うとか。子どもに嫌われたくないからフィルタリングを外すのではなく、なぜ必要なのかを考えて、子どもに伝える。
ネットへのアクセス制限できる子ども向けの携帯もありますが、子どもからすれば、デザインが幼いから持ちたくない。つくる側が子どもの観点に立っていないのは、最初から売ろうと思っていないからでしょうね。
それぞれの企業が売り上げを競っているから強く言えないのでしょう。課金されたサイトでお金を使ってくれるのは子どもです。本音をいえば、フィルタリングを厳しくしたら売り上げものびない。
たとえば、女の子が興味を持つダイエットの広告があります。新聞やテレビの広告と違って、誇大な内容が携帯のサイトには溢れています。8時間で10キロ減量可能だとかありえない効果をうたい、しかも2万9800円のところ2980円といった値段に設定しています。むろん効果はありません。
つまり、子どもでも払え、しかも訴えるほどでもない金額に設定されているのです。
ほかにも占いサイトが巧妙です。正確に占うことを装い、名前や住所、メールアドレスなどの個人情報まで書かせる。多くの占いサイトが無料なのは、出会い系サイトのスポンサーがついているからで、利用規約の最後のほうに小さい字で、「この情報は○○と共有させていただきます」などと書かれていたりします。それが出会い系サイトを運営している会社です。だから、占いサイトに登録した途端、卑猥なメールがいっぱい来ることになってしまう。

コミュニケーションだと思います。ネットにはまっている子ほど、実生活の会話が少ない。だから、どこかでコミュニケーション補おうとします。携帯は誰かとつながりたいという思いをかなえてくれます。大事なことは、実生活の会話をしっかりすることだと思います。
そこは難しいところです。ふだん言えないことが言えるため、案外まじめな人が書き込んでいたりします。中には教師もいますからね。
やって善いことと悪いことを学ぶには時間がかかります。だから問題が起きてから、いちがいに「駄目だ」と禁止するだけでは、何の抑止効果もありません。
誰も見ていないなら何をやってもいいのか? その問いかけを教えていくのがモラル教育ではないかと思います。
ネット自体が問題ではないのです。聾唖者の人で、長らくコンプレックスを持っていた子がプロフを通じ、誰とでも会話ができたことで、自分に肯定感を持てるようになった。そんな例があります。
メディアは恐い面を報道し、悪い部分ばかり取りあげるから、偏った考え方をする大人が生まれてしまう。ただ無闇に危ない、恐いと注意しても意味がありません。
何が問題で、安易に踏み込むと何が起きるのか。事実をまず教える。そして話し合うこと。根本的に人が人と会話をするということがいちばん注目されなくてはならないことだと思います。
[文責・尹雄大]

Masashi Yasukawa
安川 雅史
1965年生まれ。大学卒業後、北海道の公立、私立高校に就職。平成6年、大検予備校・第一高等学院の教師となる。現在、全国webカウンセリング協議会の理事長としてネットいじめ・いじめ・不登校・ひきこもり問題に本格的に取り組む。主な著書に『「学校裏サイト」からわが子を守る!』(中経出版)。
<安川雅史オフィシャルウェブサイト>
http://www.yasukawa.info/
【安川 雅史さんの本】

『「学校裏サイト」からわが子を守る!』
(中経出版)