古川 琢也 さん(ルポライター)
私たちの毎日の暮らしから切り離せない存在となっているコンビニ。中でも全国に1万2000店を展開しているセブン-イレブンは年間2兆4000億円の売り上げを誇る業界最大手の存在だ。
生活の利便を支えるコンビニだが、その業務の実態は「まるで、カニコー(蟹工船)」だと訴える書籍『セブン-イレブンの正体』が昨年末、出版された。
今回登場いただくのは、著者の古川琢也さん。派遣労働問題で脚光を浴びた「蟹工船」の世界だが、いったいセブン-イレブンの何が“カニコー”に通じるような過酷な労働を生んでいるのだろう。取材の過程で明らかになった、コマーシャルイメージとは異なる企業の実相についてうかがった。
セブン-イレブンはセブン-イレブン・ジャパンという会社がすべての店を直営しているわけではなく、大半がフランチャイズです。フランチャイズとは、店を経営したい人が出資し、セブン-イレブンの経営者になるというシステムです。それぞれの店ごとにセブン-イレブンに雇われているわけではない、独立した事業者がいるわけです。
このフランチャイズの内実があまりにも知られていません。私が『セブン-イレブンの正体』で書いたのは、その実態のひどさです。
問題は大きくわけてふたつあります。ひとつは、「ロスチャージ会計」と呼ばれるものです。これはセブン-イレブンに限らず、コンビニにしかない特別な会計制度です。
たとえば、私の持っている携帯電話が1万円の価格だとします。携帯が売れたのなら、店の売上金は1万円です。仕入れにかかった原価が6000円とすると、売上の総利益、いわゆる粗利は4000円です。これが普通の会計です。
しかし、セブン-イレブンの場合、必要以上にこの粗利が膨れ上がるようにして、本部が儲かる仕組みになっています。

そうならない仕組みがあります。セブン-イレブンでは、弁当やパン、おにぎりといった賞味期限の決まった食品を置いていますが、これらはすべて売れるわけではなく、毎日大量に廃棄されています。全店舗の一日の廃棄額は少なく見ても1億8000万円です。これだけの額が無駄になっても、全店舗を統括しているセブン-イレブン本部は何の痛痒も感じません。
なぜなら売れ残ろうが、万引きされようが、すべて「売れた」という前提で粗利に組み込まれるからです。
先ほどの携帯電話の例で説明すると、1万円のうち6000円が原価だったはずですが、セブン-イレブンの会計方式では、ここから賞味期限切れの弁当などの廃棄ロスや万引きなどによる消失分が引かれてしまいます。仮にその消失分が合計1000円だったとすると、原価は5000円となります。この場合、オーナーに残る粗利は5000円ですが、あくまで帳簿上で増えたに過ぎないので、本当は4000円のままです。
一見、粗利が増えているから、オーナーも儲かったように見えてしまいますが、この5000円という架空の粗利にセブン-イレブンのチャージ、おおむね40~50%程度が掛かります。50%の場合、セブン-イレブンの本部が2500円ものチャージ収入を持って行ってしまいます。
一方、加盟店オーナーに残るのは、本当の粗利4000円から2500円を引いた1500円だけです。この1500円から従業員の給料など、もろもろの経費を払うということになる。これでは加盟店オーナーは、働いても働いても赤字になるだけです。
実際の売り上げとは関係なく、セブン-イレブンの取り分だけが多くなる仕掛けです。一般企業ではありえない会計方式ですが、セブン-イレブンにならいコンビニ業界でまかり通っています。
大いにあります。あるセブン-イレブンの店舗オーナーが01年、ロスチャージ会計は「明白な不正会計」ということで法廷に訴えました。一審ではセブン-イレブン本部が勝訴、高裁ではオーナーが勝訴しました。
しかし、最高裁は「そのような会計をオーナーも了解していた。企業が規模の利益を得ることは許される」という判決を下しました。言い換えると、「大きな企業だから儲けるのはかまわない」というわけです。
いまのところ司法判断では、特殊なロスチャージ会計は認められてしまいました。裁判官がいちばん気にしているのは世論です。刑事裁判が顕著ですが、世論が盛り上がっている事件を扱うときは、あやふやな証拠しかなくても平気で有罪にします。
裁判官自らが「大きな会社は手段を問わず、儲けてよい」というとは、少なくとも民事では、世論の盛り上がらない事件は、どちらが大きい力を持っているかによって判決は左右されるということだと思います。
請求書を見せないという問題です。パンや飲料水などは、各店舗のオーナーがベンダーと言われる納入業者から直接仕入れています。セブン-イレブンの本部は加盟店に対し、ベンダーを紹介するだけです。
当然、オーナーはベンダーから仕入れた分の請求書を見る権利があるわけですが、実際のところ、オーナーは自分たちが購入している商品の値段がいくらなのか知ることができません。
本部の主張によれば、「仕入れ代金の支払い代行をしている」ということで、ベンダーから加盟店に送られるはずの請求書をまず本部に送付されるようにしています。加盟店に対しては、請求書、領収書が送られてくることはありません。

請求書の受け渡しをセブン-イレブンは拒絶しているので、詳細はわかりません。セブン-イレブンに限らず、コンビニで売っている商品は割高ですよね。ディスカウントショップなら90円で売っている牛乳も、コンビニの加盟店は100円で仕入れています。
でも、セブン-イレブンは大量に物品を仕入れているから、当然仕入れ値は下がるはずですが、そういうことはオーナーに対しては現実には行われません。
おかしいと思った一部のオーナーは、本部に請求書を見せろと要求し続けていましたが、絶対に見せようとしませんでした。
請求書の代わりに見せている事後報告が「正当だ」と言い張っています。それと、これまで本部は、「加盟店がベンダーから物品を買っているわけではなく、本部が仕入れて、分配している」という言い方をすることもありました。
しかし、それが嘘だということは、この本を書くにあたっての取材で明らかになりました。
福岡県にある酒販会社の「ヤマエ久野」は、セブン-イレブンのベンダーですが、ここから請求書の詳細が明らかになったことで、従来のセブン-イレブンの主張が虚偽だとわかりました。なぜならベンダーの発行した請求書の宛名はセブン-イレブン本部ではなく、加盟店のオーナーだったからです。
セブン-イレブンは「請求書の宛名は本部で、契約の主体はオーナーではなく本部」と主張していましたが、まったくの嘘です。
かなり曖昧です。ロスチャージについても「売上総利益に対して掛かる」としか書いていません。この文言だと、普通の常識で行われている意味での「売上総利益」(粗利)を想定しますが、実際はそうではない。詐欺まがい、というか詐欺を行っているといっていいでしょう。
セブン-イレブン本部は「値下げをするな」と通達しています。ただし、公正取引委員会の見解によると、値下げを禁じることは、公正取引法違反にあたります。ですから、法律とは関係ないセブン-イレブンの不当・違法な基準を強引にオーナーに押し付けているわけです。
加盟店のオーナーは、売れ残っている弁当を捨てたり、自分たちで食べたりしています。値下げ禁止は法律違反だと気付いたオーナーたちの一部は、値下げして売りはじめています。
本部は値下げを禁じる一方で、値下げのためのマニュアルを作成していました。そうでないと公正取引委員会に対する申し開きが立たないからです。しつこく本部に食い下がったオーナーがマニュアルを入手したところからわかった事実です。

創業者の鈴木敏文さんは、ビジネス関係の雑誌ではしょっちゅう出てくるカリスマですが、彼を中心にしたピラミッド型ではなく、鈴木さんという権力者がいて、あとはすべて横並びという感じですね。それぞれが鈴木さんの顔色をうかがっているらしいことは、トーハンの取り次ぎ拒否の件でもわかります。
メディアを封じ込めるノウハウがかなりあることから、自信を持っていると思います。たとえば、これまで「週刊金曜日」でコンビニ問題勉強会を4回ほどしましたが、うち2回には広告代理店大手である電通の営業担当者が参加していました。敵情視察でしょうね。
一般の雑誌は広告収入で成り立っています。2005年に「週刊エコノミスト」がコンビニ会計の問題を取り上げようとした際、版元の毎日新聞社に圧力をかけ、記事の一部が削除されました。
雑誌はコンビニで売ることが当たり前になっています。特にセブン-イレブンは売り上げのシェアが高いから、そこを怒らせるような報道はできるわけがないと思っているのでしょう。
けれど、徐々に追いつめられている状況だと思います。08年7月、請求書の開示請求でセブン-イレブン本部が負け、高等裁判所で差戻し審が始まりました。これで高等裁判所が開示を命じたら、これまで行っていたピンハネが表に出てくる可能性も高いです。セブン-イレブンの1万2000店のうちのオーナーのどれだけが裁判に踏み切るかわかりませんが、とんでもない額の訴訟を抱えることになります。株価の下落はもちろんですが、訴訟費用だけで持ちこたえられなくなるかもしれません。
ありていに言えば、依頼されたから取材を始めました。ただ、数年前まで長野でサラリーマンをしていた際、夜遅くまで残業していたので、会社前のセブン-イレブンをよく利用していました。店のオーナーらしい70歳近い人がひとりで店番をしていました。立地条件はよく、儲かっているはずなのに、なぜ深夜にひとりで店番をやっているのだろうかと不思議でした。
その後、上京し、原宿のミニコミ紙で記者をしていました。当時、千駄ヶ谷や代々木でコンビニ強盗が多発していたので、取材すると、深夜なのに店にひとりしか店員がいないケースが多かった。
その店はローソンだったので、本部に問い合わせたら、「私どもでは深夜にふたり以上配置するよう指導しています」と答えるだけでした。
なぜ実際の配置はひとりなのか。調べていくうちにコンビニ業界のひどい状況、どこも経営が苦しいあまり、夜間に人を配置できない事情を知っていったというわけです。

大学ではフランス文学を専攻していましたが、実際には映画ばかり見ていて、将来は映画関係の仕事をしたいと思っていました。就職氷河期で希望していたような仕事はなく、田舎の長野県で東京商工リサーチという会社に就職し、企業や個人の信用調査を行う仕事をしていました。
何をやったかというと、長野県内の中小企業を訪ねては、「売り上げはいくら」「借金はいくら」といった内容を尋ねてまわるのです。当然、激怒する人もいます。「帰れ」と言われることもありました。そういう情報は中小企業の取引相手が知りたがっていることでした。
小さな建材会社があれば、サッシやガラスを売っている大手メーカーがあります。小泉政権の構造改革が進行中で、もともと土建業で成り立っていた長野県では、ばたばたと企業が倒産していました。
大手メーカーは、取引先の売り上げの推移や借金といった情報と分析レポートをもとに、仕事を止めるか継続するかを判断する材料にしていました。一方でそのレポートの結果が芳しくない会社は、容赦なく取引を打ち切られることもあります。さすがにそういう仕事を3年もやると嫌になり、退職しました。
教科書や新聞に載らない経済や社会の現場を見たという気はします。調査を依頼する側の企業もそれなりの規模を持っていても、決算書をごまかしていたりしましたから、「ずいぶんなことをしているな」と思ったものです。正論が通じない世界を垣間見たと思います。
たぶん大学で映画ばかり見る生活をして、都内のマスコミの会社に入ったら、こういうことは知らなかったでしょう。
そう思うと、高校生のみなさんには、仮に目指したいものがいまあったとしても、最短距離を行くことが必ずしもいいわけではないと言いたいですね。目的地に向かう途中で見える風景が大事なこともありますから。
いまはわからないけれど、とにかくいろんなものを見て、たくさんの出来事と出会って、何かに引っかかりを覚えておくと、後にその意味がわかってきたりします。
だから高校生のときは、将来につながってくるかもしれないことをたくさん経験してほしい。具体的な何かとすぐつながらなくても、人生のどこかできっとつながると思います。
[文責・尹雄大]

Takuya Furukawa
古川 琢也
1976年生まれ、長野県出身。東京商工リサーチの調査員、ミニコミ紙記者などを経て、07年からフリーに。企業ルポを中心に取材・執筆する。08年12月、週刊金曜日取材班との共著で『セブン―イレブンの正体』を刊行。
【古川 琢也さんの本】

『セブン-イレブンの正体』
(金曜日)