

Masataka Uo
鵜尾 雅隆
JICAを経て2008年7月、NPO向けのファンドレイジングを行う株式会社ファンドレックス創設。2004年、インディアナ大学 The Fundraising School にて、Certificate on Fundraising Management を日本人で初めて取得。
鵜尾 雅隆 さん(株式会社ファンドレックス代表)
ファンドレイジング。あまり馴染みのない言葉だが、これはNPOや公益法人が活動するために必要な資金調達を指す。
鵜尾雅隆さんは今夏、日本で初めてNPOなどのファンドレイジング戦略策定コンサルティングを行う会社を起業した。寄付を通じ、社会貢献したい人と社会的な価値をつくり出し、社会貢献をしたいNPOとを結び付ける事業を行っている。
NPOと聞くと、ついボランティアのイメージでとらえ、企業や行政が利害や効率から手を出さないニッチな領域で活動していると思いがちだ。
だが、欧米では企業や行政をときに先導するなど、独自の社会的地位を築いている。インタビューは、折しもアメリカ発の金融恐慌が日本の株価を下落させた時期に行った。グローバルスタンダードの名の下、ひたすら企業的な価値を追求してきた日本は、いまや社会に多くのひずみを抱えている。
いま待たれるのは、NPOの活動に見られるような、人が幸福に暮らすための価値を創造することではないだろうか。日本のNPOの現状や次世代の社会のあり方について尋ねた。
ファンドレイジングとは、NPOや公益法人が社会から経営に必要な資金を集めることを言います。
寄付集めと言えば、「善いことをしているから寄付を下さい」「かわいそうな子どもがいるから支援してください」という話が多かった。
しかし、ファンドレイジングでは、そういう閉じたコミュニケーションのパラダイムで行いません。
私たちは、NPOに寄付する人に達成感が生まれる関係づくりやNPOに協賛する企業の経営戦略にプラスになる提案を行うなど、社会に循環が生まれるコミュニケーションをしながら資金調達しています。
いま日本には、NPOが4万近くありますが、経営資金の調達はあまりうまくいっていません。どんなにいいアイデアを持っていても、先立つものがないと実行できないのでは、社会にとって損失です。
かたや社会貢献や寄付、ボランティアへの関心は年々高まっていて、企業のCSR(企業の社会的責任)への取り組みも盛んです。社会貢献したい個人や企業が増えている中で、受け止め切れていないNPOがいるという構図があります。
どこに寄付していいかわからないので、しかたないから市役所に寄付したという例もけっこうあります。NPOのコミュニケーション戦略を変えていくことで資金循環がもっとよくなると考えています。

推計で日本の個人寄付は2000億円程度です。でも、アメリカは年間20兆円もありますよ。
キリスト教に基づく寄付文化が背景にあるといわれますが、日本社会には「寄付してよかった」という成功体験を持っている人が少ないせいではないかと考えています。NPOと接点があって人生がハッピーになったという経験が圧倒的に欠けています。
それとNPO側にも問題がありました。特に90年代まで見られたのは、「自分たちは正しいことをやっているから、世の中のほうが理解を示すべきだ」といった態度です。それで寄付が集まらないと「日本社会は成熟していない」というわけです。
必要なのは「途上国の難民支援をやっているのだから、善意の支援は集まるはずだ」というモデルではありません。NPOにとって難民も国内の支援者もクライアントです。やはり寄付した人が「支援してよかった」と思えるコミュニケーションが大事です。
NPOの支援者も受益者もハッピーになれるというモデルをもっとたくさん生み出さないと、寄付しようという気にならないでしょう。
日本のNPOは、「世の中の人は自分の団体だけは愛してくれる」と思っているところが多い気がします。
でも、誰かに好きになってもらうには、自分のいいところを伝えて、関心を払ってもらうようにするしかない。「一所懸命やっていますから、無償の愛をよろしく」というのは、「なぜあなたの団体に寄付をしなくちゃいけないの?」に対する答えにはならない。
なぜアメリカは寄付をする人が多いのか。アメリカ社会が善意の集団なのかといったら、そうではありません。
実際にアメリカへ行って驚きましたが、NPOはものすごく地道に戦略を立てています。たとえば、寄付のお願いにいたるまでに14のステップを踏んでいました。
支援する人が1000人いたら、NPOにとってひとりの支援者は1/1000でも、支援する側にとってみれば一対一の関係です。そこでは、いかに相手にオンリーワンだと思ってもらえるかが鍵になります。
アメリカのNPOは、ひとりひとりの支援者とどれだけ緊密なコミュニケーションをとるかを徹底して考えていました。それが資金調達の戦略性につながるのです。

企業の業績悪化や個人資産が傷むと寄付や社会貢献の支出も減ることはあるでしょう。
けれど、NPOにとって社会構造や価値観が変わるときはチャンスです。バブル崩壊や阪神大震災のときも、新しい発想でチャンレンジしたいと思う人が現れました。金融恐慌は必ずしもネガティブに働かないと思います。
2002年くらいから企業のCSRが盛んになってきましたが、当時はまだ社会貢献もお付き合いのレベルでしたから、その頃に金融危機が起きたら軒並み支出を削減したかもしれません。
でも、いまは社会貢献が従業員のモチベーションアップや企業のブランドイメージと結びついていて、企業活動からCSRを離せない。CSRのコストを削ると、むしろネガティブなイメージを社会や市場に与えるだろうという判断もあるでしょう。それだけ社会貢献や環境への人々の関心は高くなっています。
ワークライフバランスの変化という意味での影響はあるでしょう。「国民生活白書」を見るとはっきりわかるのは、「あなたにとっていちばん大切なものは何ですか?」という問いに対し、1950年代から一貫して「家族」の数値が上がっています。
今回のような危機を通じ、やはり自分の生きている意味を考えるでしょうし、必然的にライフスタイルを問う社会になると思います。
「家族の話ができる上司のほうがかっこいい」みたいな空気が出てきて、企業風土も変わるかもしれません。
実はこういう流れの世の中のキャスティングボートを握っているのは20代、30代の女性かもしれない。彼女たちが家族思いの上司を「かっこいいですね」といったら、上司はそういうスタイルがかっこいいと真に受けて、周囲にも奨励するかもしれない。
日本社会は「べきだ」論で変わる社会ではないんです。「こうすべきだ」という議論に拒絶反応があります。実体験と空気でガラリと価値観が変わる。この金融危機もなにがしかの価値観を変えたと思います。

「飲酒運転はすべきじゃない」という議論はなかなか力を持たなかったけれど、福岡で3児が亡くなった事件が起きて一気に変わった。そういうのが日本社会の本質です。いろんな国で仕事をしてきましたが、日本社会ほどエポックメイキングなできごとで、原理原則なく変わる社会を見たことがありません。
NPOのほうにも、「お金の話をするのはタブー」みたいなところがあって、「いいことをやっていたらお金はついてくるはずだ」という思いがあったけれど、そんなことはありえない。
高校生に特に知って欲しい事実は、世界中でこれほどNPO=ボランティアと思われているのは、日本くらいのものだということです。しかもNPOに就職しても食べられないのが当たり前と思われているのも珍しい。
アメリカのNPOの場合、事業規模が10億円以だと、事務局長の年収は1000万円を超えています。1億円以下で700万円くらい。
ボランティアも大事ですが、NPOはプロフェッショナルとして社会にイノベーションを起こす存在です。社会に対して重要な価値を生み出す存在であり、そこで働く人は対価をとっていいんだという社会認識が世界の常識です。
いまの20代前半の若者は小学校のとき、社会貢献やボランティアの重要性を教えられた世代です。すっかりその気になって実際に社会に出てみたら、NPOに就職しても食べていけない現状がある。
NPOで働いても大金持ちにはなれません。でも、ちゃんと食べられて、人に喜ばれて、社会に循環を起こせる。そういう生き方、働き方のモデルは、これから日本でも生まれるし、それが確実に次の時代を形成すると思います。それはNPOが社会とどうコミュニケーションするか次第でもあります。

重要なのは、自分たちが関わることで、社会がどう変わるかを言えること。「貧しい人がいて困っている。だから施しをする」というのは、確かにわかりやすい。ボランティアスピリッツの発想からすれば、それでいい。
けれど、NPOは社会にイノベーションを起こすプロですから、貧困そのものを解決するモデルの提案が必要です。そのモデルがNPOにとっての商品です。それが社会とコミュニケーションするということ。
NPOに何かを託すと物事が変化すると思うから寄付や助成金や協賛金が集まる。解決策というパラダイムなら、たとえ田舎の山奥にあるNPOでも、その発想は世界中に広まります。
NPO自身もコミュニケーション上の成功体験が少ないから説明しようとすると、活動の歴史とか実績など、どうしても自分たちの正当性を主張しがちになります。そうではなく、相手に共感させるような言い方をいかにできるか。
つまり、ストーリーテラーとなる魅力的な資質が必要です。作家の村上龍さんが司会を務めている「カンブリア宮殿」に、「かものはしプロジェクト」の村田早耶香さんが出演されていましたが、彼女のようなストーリーテラーが増えると、支援者もひかれます。人間としての魅力のある人がどんどんNPOに入って欲しい。
そういう意味で、若い人にぜひ知って欲しいのは、たとえばチャリティ・プラットホームが本格的なインキベーションプログラムを始めたことです。NPOにチャレンジしたいと思っても、リスクがあるとなかなか一歩を踏み出せない。そこでこのプログラムは、NPOに新しくチャレンジしようとする人に3年間1500万円を寄付し、この資金は事業を行う目的なら何に使ってもいい。その上、オフィスや秘書までつける支援を行います。
日本で初めての試みですが、NPOに対する社会の認識を変えるのは、人だという感覚で行っているのだと思います。こうした取り組みがどんどん出てくる時代がきたのです。

情報の3次元化ですね。テレビやネットで見る情報は全部2次元です。実体験に勝るものはありません。
たとえば、農村が疲弊していると聞いたら、「なんでだろう」と思い、農村体験ができるプログラムに参加し、実体験を通じて考える。そういうことを年に1回でもやっている人と「あ、それ知っている。どこかで聞いた。だからオッケー」というのでは、その積み重ねの差は10年も経てば歴然です。
実体験感の薄い人のメッセージは響かないし、応援する気にもならない。だから、やらずに後悔するよりやって後悔したほうがいい。
そうした経験の中で職種や職業を超えて、自分は何をやると気持ちよくて、何が自分の軸なのかが見えてきます。私の場合は、感動できることを仕事にしたいと思いました。
あとは、日本のイノベーションを真剣に考えるとすれば、海外へ行くことも勧めたい。「こんな形でも社会が成り立っているんだ」という経験をすると、世の中の見え方が変わってきます。
たとえ日本にいても、自分と価値観の違う層と触れて欲しい。人類の歴史を見れば、新しいイノベーションは、異文化との融合によって常にもたらされてきたことがわかります。
異種の混合で新しいものが生まれるとすれば、同質からいかに逃れるチャンスをつくるか。同質性を尊ぶ日本では特に大事です。
NPOの資金集めに関心を持っている人は何万人もいると思います。私はサイトをつくって365日考え続け、毎日ブログを書き、事業化しました。
こだわるポイントを決めたら徹底的にやる。そうしたら情報も集まるし、経験も増え、自信もつくと思います。毎日考えることがポイントかなと思います。
私も若いときに「自分に何ができるんだろう。どうせ何もできないんじゃないか」と思ったことがあります。
「どうせ」と本当に思ったら、そこでおしまい。重要なのは、そう思った次にどうするか、です。それが自分にとって楽しいことかもしれないと思えば、現場に行けばいい。思ったらすぐ体の動く人。そういう人は新しい価値をつくれるんだと思います。
[文責・尹雄大]

Masataka Uo
鵜尾 雅隆
JICAを経て2008年7月、NPO向けのファンドレイジングを行う株式会社ファンドレックス創設。2004年、米国ケース大学 Mandel Center for Nonprofit Organizations にて非営利組織管理修士取得。同年、インディアナ大学 The Fundraising School にて、Certificate on Fundraising Management を日本人で初めて取得。
2006年日本帰国後、国際協力機構での業務に従事する傍ら、「ファンドレイジング道場」を立ち上げ、ファンドレイジングノウハウや寄付事情を発信している。
『ファンドレイジングが社会を変える』(三一書房)より近日刊行予定。
<株式会社ファンドレックス>
http://www.fundrex.co.jp/