

Megumi Ushikubo
牛窪 恵
東京生まれ。出版社に勤務後、フリーライターに。2001年、マーケティングを中心に行う企業、インフィニティ設立。主な著書に『独身王子は 早く死ぬ?』(プレジデント社)など。
牛窪 恵 さん(マーケティングライター)
シングルの消費行動がその業界の命運を握るとさえいわれる。かつては、敬遠されたひとり客もレストランやホテルは歓迎するようになった。特に女性のひとり客の口コミは絶大な効果をあげることもあるため重宝されているという。
恋愛や結婚に自分の人生をゆだねないだけの経済力を持ち合わせるようになったことも背景にあるだろう。消費行動の変化からうかがえる価値観の違いについて尋ねた。
バブル崩壊が大きかったと思います。『男が知らない「おひとりさま」マーケット』を書いたのは04年ですが、その取材にあたって、地方の旅館にいろいろと電話したのですが、伊東や伊豆など東京から近いところではそうではなかったものの、基本的にはひとり泊まりを断られました。後から旅行会社の方に言われましたが、「家族やカップルなら空いているという返事はあったことからすれば、女性の単身だと自殺する可能性を疑われたのでは?」とのこと。経済不況で男性の自殺率のほうが高いというのに、そう思われていたようです。
しかし、都市圏のホテルでは、90年代半ばから女性ひとり向けのプランを始めていました。これまでホテルでは、団体需要、企業のパーティー、結婚式が売り上げの大半を占めていましたが、そういう需要が不景気で減りました。ホテルとしても、細かいところに目をつけようとして考案したのが、いわゆるレディースプランというもので、その一環で「ひとりで泊まりたい」という女性の存在に着目し始めたのです。
ほかにもレストランはホテルより遅れ、ひとりだと隅の席に通されたりしましたが、2000年前半からスターバックスなどのカフェブームで、ひとりでお茶をしたり、食事をするのが当たり前になってきました。そうしたこともあって、レストランも家族数が減ってきたので、ひとり客を受け入れていかないと経営が困難なことに気付いたのでしょう。

女性のひとり客は口コミをすることを知ってから、レストランやカフェ、焼肉屋でもひとり客を歓迎するようになりました。
これまでなら4人座れる席にひとりだけを座らせては損をするという考えが一般的でした。これは大量生産大量消費のビジネスモデルです。結婚する率が減り、家族も減った中でのビジネスモデルの見直しが始まったといえそうです。
ひとつは働く女性が増えたことにあります。ひとりの時間を持たないと、いつも人に合わせるだけの生活では精神的につらくなります。女性の場合、メリハリ消費という特徴が見られます。たまに高級ホテルに泊まる人も普段はペットボトルにお茶を入れて持ち歩き、カフェはもったいないから入らないとか、洗濯は風呂の残り湯を使うといったように普段は倹約しています。
バブル経済時に消費文化を体験している彼女たちは、いいものはいいのだから、安物買いの銭失いで半端にお金を使うくらいなら、切り詰めてでもいいものを手に入れます。
昔は「結婚して専業主婦になればいい」というようなゴールが明確で、短距離を走ればよかったけれど、いまはどこまで走ればいいかわからない。そうなると給水所も必要だし、自分へのご褒美も必要。自分に潤いを与えないと走り続けられない。昔はなかった消費スタイルです。
また、親との同居の増加も原因としてあるでしょう。1971年から76年に生まれた団塊ジュニアの未婚女性の8割は親と同居しています。それだけ年収が減ったことの証拠でもあります。
ともあれ、親と同居している3割以上の人は家にお金を入れていないのが実情で、そのため自分ひとりで使えるお金は多い。当然、仕事から解放されてひとりになれる時間を消費することもできます。

地方出身で大学は都市圏にいっても実家に戻って生活するなど、ひとり暮らしは減る傾向にあります。イタリアやアメリカといった独立を重んじる国でも同居が増えています。9.11のテロの影響もあって、欧米でも雇用や安全への不安から同居の増加が見られます。ただし、日本の場合だと同居していてい1円もお金を入れないという問題があります。
私が取材した中では、「親におごってもらうのが親孝行」という声をよく聞きました。「ありがとう」というと親がうれしそうな顔をするというわけです。
特に消費行動における母と娘の関係が強いです。そういう意味で団塊世代とその子供の関係は独特です。未婚男性も団塊ジュニアの7割が親と同居し、そのうち3割以上がお金を入れてもいなければ、家事も9割がやっていません。非常に親への依存度は高い。親子は永遠に続く関係ではないので、そこを自覚する必要がありますね。
男性は基本的に出産年齢がないので、将来のことを先送りしている感じを受けます。団塊ジュニアは、競争意識を煽られて育っています。そのため女性の場合、生き甲斐ややりがいを重視しても、男性だと、いい年収、いいポジションへの獲得に喜びを見いだす傾向があります。
特に独身だとリベンジ消費といって、子供の頃、親に買ってもらえなかったものを買う場合があります。女性にはあまり見られない行動です。
それだけ競争意識や比較を気にしているのは、立身出世を子に望む親が多かったのでしょう。
一方、女性の場合、出産年齢があるため、その前に結婚するなりしないなりいろいろ考えざるをえません。貯金も男女の独身を比べると、平均年収では男性が圧倒的に多いのに、キチンと貯金している人は女性のほうが多い。消費はしても、それだけ将来への備えをしています。

所有欲が強く、「これだけ買える立場になった自分」の確認とその喜びがあるのではないでしょうか。仕事への優先が高く、その見返りとしてものを買う感じがします。だから、フィギュアをたくさん飾って喜ぶとか、つくる時間もないプラモデルをやたらと買うとか、DVDを揃えても一度も見ないということが起きます。
男女雇用機会均等法が86年に施行され、女性も男性と肩を並べて働けそうだと思ったものの、しばらくするとバブルが弾け、就職氷河期になりました。団塊ジュニアは人口が多く、競争を煽られてきて、ようやくいい位置につけるかと思ったら経済不況になった。そんな中、4年生大学の女性への風当たりは特に厳しいものでした。労働派遣法も改正され、派遣社員が増え、女性は社会の中で男女均等ではない実情を知らされた。そういう中で、女性は「ゆるふわ」のエビちゃん志向で、そんなに仕事にがんばらないでも毎日を心地よく生きていこうと転換する人も現れました。
しかし、男性は、いままでのプライドにとらわれ、稼ぐことへの優先度が高く、「結婚したら自分が家族を養う」という意識が依然としてあります。
受験をはじめ、ずっと競争で生きてきたから、身に付いた価値観をいまさら変えられない。けれど、いまの10代や20代前半の人には、そういう意識がないと思います。男女平等は当たり前で、派手な消費を肯定せず、いい車や家を買うことに興味を持っていない。年下の男性と結婚する女性が増えたのもそういう傾向があるからではないでしょうか。
そのためか30代の男性の鬱が増えています。時代とこれまでの価値観が合っていない。昔は働けば評価されましたが、いまはいくら働いても給与はあがるとは限らないし、ある日突然解雇されることもあります。そういう中でも仕事をがんばる考えが強い。下の世代は残業代がつかないなら、がんばらないという感覚があります。さらにその下の世代はフリーターであることの損やワーキングプア、ネットカフェ難民も知っていますから、転職志向が弱まり、ひとつの会社にいようとするなど、安定志向が出てきていますね。

最初は出版社で働いていました。マスコミ業界は比較的ましだといわれても、やはり男性社会で、どんなに忙しくても仕事以外のお茶だしなどを女性だけに求められました。セクハラも少なくありませんでしたし、当時女性の多くは「止めてください」と言うぐらいしか、拒否する術を知りませんでした。
私自身も社内で危険な目にあったため、この環境では働けないと会社側に申し入れましたが、「いま彼を異動させると全社に知れるので、次の異動時期まで待って欲しい」と言われました。その時点で女性が働くことの意味をわかっていない。当時は、そういうことを放置してしまう社会でした。
男性をうまく転がす人とか「訴えますよ」と断固として言える人はなんとかやっていけます。でも、そうでない人は厳しい思いをしました。だから男性と同じ形では働けない。いまはセクハラに厳しく、グレーゾーンがなくなったため、そうしたことが減っているのは確かですが。
出版社にいたとき、「誰かが書いた原稿を直す(編集)のではなく、自分で取材して原稿を書きたい」との思いを強くしました。ただ、その後勤めたある製作会社でハードな仕事を強いられ、体力的にも厳しかったので「社員ではなく、フリーランスで働きたい」と申し出たところ、上司がいきなりストーカーになってしまい、身の危険を感じました。私だけでなく、家族全員が命の危険を感じた出来事でした。
仕事もできず、外出するのも恐く、13キロ痩せたのですが、それを見兼ねて、大阪にいた彼が会社に辞表を出し、東京に出てきてくれて結婚しました。それがなかったら結婚していたかどうかわかりませんね。
それまでは仕事は好きだったけれど、一生やろうというくらいには思っていませんでした。思い入れがそんなになかったはずの仕事なのに、できなくなってしまうとつらくなった。そこで「自分は一生働かないといけない人間なんだ」と自覚し、少しずつ仕事を再開するようになりました。

父がテレビ局でドラマをつくり、脚本も書いていたので、メディアにかかわりたいとはずっと思っていました。ものを書く仕事だったら女性でもかかわりやすいと思ったからでしょうね。
特に高校を中退したとき、ちょうどコピーライターの糸井重里さんがブレイクした頃で、テレビでも活躍されていました。漠然とコピーや言葉をつくる仕事をしたいと思ったのが、いまの仕事につながっていると思います。
都立高校志望でしたが、かなわず第二志望の女子高校に入学しました。「進学校」と評価が高い一方で、1クラス60人もいて、1年間に1クラス2、3人は辞めていました。というのも、規律が厳しく、男性教師が荷物検査するし、靴下の長さまではかられ、リボンの結び方も決まっていました。強制されると絶対にしたくない性格なので、目を盗んではリボンの形を変えてみるといったことをしてました。
学校を辞めたのは、私の仲のいい友達に教師が暴言を吐いたからです。彼女は父子家庭でしたが、学校指定ではない靴下を履いてきたとき、教師がみんなの前で「母親のいない家庭だからだらしないと」と言った。それに頭にきて、学校に行くことがバカらしくなってしまったんです。大検という存在を知ったので、高校にいかずとも大学へ行けると思い、2年の夏に退学し、少し経ってから大検専門の予備校に通い始めました。
当時からものを書く仕事をしたいと思いはしましたが、退学して2~3か月間は毎日料理をしたり、直接関係ないことばかりをしていました。ただ、そのとき料理をしてなかったら、いまもできなかったかもと思うので、学校に行けなくなっても、そこで過ごす時間はすべて無駄にならないと思います。やりたいことを見つけられたら、その時間がバネになりますから。
一時期、脚本家になりたいと思い、ドラマの企画も決まりかけましたが、夜お酒の席などの付き合いを持たないと結束が深めにくい仕事だとわかり、「結婚したら、私にはできない」と挫折しました。
ただ、何かを書くことの楽しさを実感することができ、そのときの自分の高まりに自信を持てたので、きっとこれはやれると思いました。とりあえずやってみたから確信できたんだと思います。
勉強や日常のことに忙しくても、時にはひとりで違う知らないところに行ってみる。違う世界に身を置いてみる。それは料理をするとかでもいいと思います。こういうものが好きなんだと、自分の知らない側面を見つけられるはずです。
年をとるといろんなことをやってみようという気持ちが減っていくものです。なんにでも挑戦できるのは10代の特権です。
今日は何か新しいことをやってみよう。目を向けていなかったことに一歩踏み出すのは、なんであれ新たな発見になると思います。

Megumi Ushikubo
牛窪 恵
東京生まれ。出版社に勤務後、フリーライターに。2001年、マーケティングを中心に行う企業、インフィニティ設立。主な著書に『独身王子は 早く死ぬ?』(プレジデント社)『独身王子に聞け!』(日本経済新聞出版社)など。
<はちのじ.com>
http://www.hachinoji.com/
【牛窪 恵さんの本】

『独身王子は 早く死ぬ?』
(プレジデント社)

『独身王子に聞け!:30代・40代独身男性のこだわり消費を読む』
(日本経済新聞社)