工藤 啓 さん(「育て上げ」ネット理事長)
「NEET(ニート)」と呼ばれる若者が話題に上るようになった。
NEETとは、Not in Employment, Education or Trainingの略。
しばしば「働かない若者」というレッテルを貼られる彼らだが、本当に働こうとする意志はないのだろうか。
むしろ、働きたくても働くことに希望が持てないのではないのだろうか。NPO法人「育て上げ」ネットを立ち上げ、様々な若者の就労支援を行っている工藤啓さんに考えを聞いてみた。
私はシアトルに留学していたのですが、異国で様々な国の人間と話しをしますと、みんなビジネスマインドが強いんです。当然、私もそのなかの一人でした。ある日、ヨーロッパの人間が「日本は中高年の問題、リストラや再就職で大変なことになっているのだろう?」と話しを振ってきました。続けて「若者支援している人はいるのか?」と問われたので調べましたが、あまりいませんでした。当時はフリーターもそんなに大きな問題ではありません。そうしたら、「中高年問題が起こったら必ず若者問題も起こるから、お前は日本に帰って支援事業を立ち上げろ。今がチャンスだ」と言われたんですよ。システムは日本と異なりますので、彼らのツテも頼りつつ、(9.11同時多発)テロの起こった2日後にイギリスやドイツに調査に行きました。いろいろ見て回ったのですが、若年者に対する支援の流れは先進国共通であることが分かりました。「それだったらやってみよう、会社を作ろう」と思ったのがきっかけの一つです。

もう一つは、自分で事業を立ち上げて年齢的なものを超えて上にいける可能性があった、偉くなるという意味ではありませんが、それなりの人脈ができると勝手に思ったこともきっかけです。また、私は現在27歳ですが、父が30年ほど宿泊型の引きこもり支援(NPO法人青少年自立援助センター)を行っていますし、生まれながらにして周りに引きこもりの人たちがいた特殊環境なのでわりと偏見がなかったこともあります。
私たちの支援の目的は、働く意志のある若者が長期継続して賃金労働ができるようになることです。そこから先は自分で選択する。フリーターで月10万円の稼ぎでも死ぬことはありません。4万円の家賃で交通費が1万円なら、5万円余ります。それを確保した上で家庭を持ちたい、こういうことがやりたいからもっとお金が必要だとか考えるわけです。まずはフリーターみたいなものになることを目標にして、保護者にもまずはそれを認めてほしい。保護者に説明しても、「いや、フリーターにはなってほしくありません」と言われます。
「NEET」という言葉自体は定義がありませんが、私としては、仕事をする意思はありながらも、一歩が踏み出せない、そのような若者を支援する「場」がなく、何からはじめてよいのか分からず、途方にくれている人々なのかなと思っています。
参加者の特徴は対人コミュニケーションが苦手な方が多いですね。もしくは、コミュニケーションを取れる内容や相手に偏りがある場合もあります。A君とはしゃべるのにB君とは全くしゃべれないとか・・・。あとは、初対面の人と目を見て話せないとか・・・。
フリーターになれないが引きこもりではない人、気が弱いとか、内気とか、一歩踏み出せない人がNEETにあたるのかなと思います。本当に就労の意欲がない人はここ(「育て上げ」ネット)に来ないわけですし、来るということは何か可能性を求めている、来ることで何か起こらないかなと・・・。最初は他力本願で働きたいと思っていることもありますね。
「仕事が降ってくるんじゃないか」と思っている方もいます。自分からアクションを起こさなくても、何とかなるのではないか。保護者や親戚が仕事を紹介してくれるのではないかと。根拠はないのですが、何となく自信を持っているというか・・・まれにそういう方もいらっしゃいます。
特定の原因は正直分かりませんが、社会全体の問題と言うしかありません。保護者の相談がほとんどですけど、お子さんへの愛情過多とか、首尾一貫しない言動などを聞くこともあります。家庭だけのせいではないと思いますが、共通してこの問題がなくならないのは、すべての保護者は自分の子供に立派な大人になってほしいと思って教育しています。でも、それが客観的に見れば、ちょっと偏っている場合もあります。客観的に見てくれるような近所付き合いもないので自分の行っていることが良いことだと思い込んでしまう。それが良いことなら構いませんが、ちょっと常識から逸脱をしている時に修正ができなくなってしまう。それも原因の一端であろうと思います。
また、教育といえば、高校も大学も生き残りをかけて必死です。大学や高校の価値が就職率と進学率で決まり、就職することが難しい子供を進学させることで先送りしてしまう。NEETと思われる人の年齢構成は19歳、23歳、26歳がとても多く、高卒してすぐ、大卒してすぐ、大卒して専門学校に行って・・・。先送りが教育の場にあると思います。
さらに、社会全般にも社会性が欠けていると思います。社会性は周りの人につけてもらったり怒られたりしながらしつけられ、身に付けていくものです。今の若者は挨拶が出来ないと言われますが、その年齢まで挨拶ができなくても何も言わなかった大人社会にも原因があると思います。たとえば電車の中で携帯電話を使ってしゃべる若者を怒るかといったら怒らないし、見て見ぬふりをする。大人が見て見ぬふりをし、そのようなことをする子供を怒らなくなってしまった、それでは社会性を身に付けて大きくなるのは難しい。他にも挨拶や言葉遣い、目上に対する礼儀など、社会で身に付けなければならないはずなのに大人社会が崩壊していて、大人と子供が触れ合う機会の不在、大人が子供に注意出来なくなっている社会の責任も大きいと思います。
原因を追究してもあまり変わらない気がします。若者が各自でできる範囲でできることをして、できないことは僕たちが支援に向かえばいい。
20代30代で普通に働いている人は「NEETの気持ちはなんとなくだけど分かるよ」と言いますが、50、60代になると「意味不明」となってしまいます。食べるために働くのは当然というような意識ですので、世代間ギャップはかなりあるようです。40代前半はまだ理解できますが、それ超えるとダメですね。けしからん論ですね。

フリーターにも課税されることになりましたよね。フリーターという個人事業主かもしれないけど「仕事はフリーターです」のように、フリーターも職業の一つになると思います。フリーターが一つの仕事になると、今度はフリーターになれない人の問題がクローズアップされます。税金の観点からですけど、フリーターに税金をかけることでフリーターを一人の人間として認めざるを得ない状況です。
ただ、「フリーターで構わない」世代と、「税金かけられようが何しようがフリーターはけしからん。不安定な状態で将来どうするのか」世代があり、世代間ギャップが存在します。後者にとってフリーターは、世代的にもともと理解が難しい。大人社会に何を突き付けているのか分かりませんが、多様化したもの、変化したものを受け入れられない世代です。彼らには会社員という価値観がありますが、その唯一絶対の価値観が崩壊している状態です。フリーターも含めて楽しく生きる道を選んだのに、大人社会に「それではダメだ」と言われても、彼らのモデルは崩れた、新しいモデルは否定される、では、どこに行けばいいのか、ということになります。第3の道のようなものが提示されていないんです。そういうものを提示することなく、文句とお叱りだけでは、何も変わらないと思います。
フェア・アンフェアということではないと思いますが、全ての大人がそうでないことは唯一の救いで、理解してくれたり助けてもらったりしています。仕事や訓練の機会を提供してくださったり、次世代育成の観点や自分が生まれた国を支えたい、微力かもしれないけど、次の世代を育てたいと申し出てくれる企業や自営業者の方がいるので・・・。地域社会の力にも助けられています。ですから、この問題に対して悲観していません。
今の正社員で働いている50代、60代の方が今の20代に戻ったら、当時と同じ状態で就職活動しても単純に3分の1は落ちます、それは労働市場の問題があるからです。そういう状態に自分が陥ったときに、就職試験に受からなくて、40社も50社も落ちてしまった結果、フリーターをせざるを得ない状況になってしまったら、同じことが言えるのでしょうか?時代が変われば就職のあり方や生き方も当然変わりますが、それなのに変わった中に旧来の意見や価値観の押し付けをすると、若い世代はひねくれるのが当然じゃないかな。人の生き方自体は変わっていない、時代が変わったことを認識出来るか出来ないかの問題で大人個人の資質が問われていると思いますし、時代の流れを読む能力が必要だと思います。
もしかしたら、仕事に対して「やりがい」や「生きがい」を見つけなければならないと言い続ける社会に対する警告かもしれないですね。やりたいことや自己実現、そういう風潮が中学生から植え付けられています。いつのまにか仕事をすることに「やりがい」や「生きがい」を持たなければならない風潮ができていたと思います。仕事以外に人生のやり甲斐を見つけ、それを楽しむためであれば仕事は何でもいいという価値観や、アフター5でゴルフするのが楽しいから、そのために仕事をしますのように、仕事の意味が仕事をすることではなく、何かをするために仕事をするんですというレベルにまで広げられるといいんですけど。やりたいことを見つけて、自己実現でスキルアップして、そういうものが当たり前の風潮が嫌ですね。
(やりたいことが)あった方がいいとは思いますけど、ないからといって不幸ではないと思います。自己実現、やりたいことを見つけるのは本当に難しいですよ。やってみて面白かった人はいると思います。自己実現、やりたいこと、今の大人の何パーセントが働く前からやりたいことだと思って仕事をしているのか。やってみて面白かったという人はたくさんいると思います。仕事をする前からこれがやりたかったという人は全体の数パーセントじゃないですか。官僚や先生はやりたくてなる人が多いと思いますが、そういう人たちは物事を決めて子供たちに自己実現、やりたいことを送り込む。それが全体の総意になってしまい、やりたいことがなければダメな人間というのは辛いですよね。
私は「しょうがないからこれやるか」程度の気持ちで飛び込んだ方が一歩前に出やすいと思います。ここ(「育て上げ」ネット)に来る参加者には選択させながらさまざまなことを経験してもらっています。AとBどっちが良い?Aが良い。じゃあBとCはどっちが良い?結局は全部やることになるのですが、本人が「選択」することによって得る経験から、やりたくないことが確実に出てきます。やりたくないことが全部の場合もありますが、「その中でも"まし"なものは?」と問いかけると、下のランクの中でも一番上を選びます。とにかくやってみることが大切です。ただ、一人でやるのはとても大変なので、今日は三人一緒に、今日は四人一組でこれをやってみよういうやり方でなければダメなんじゃないかと思います。自分一人で頑張ってやり続けるのは、なかなか大変ですからね。
支援者は第三者ですけども、第三者の意見は意外に効くんですよ。保護者や学校の先生、会社の上司は利害関係、関係性が強い人ですが、私たちは来なくなればそれで終わってしまいます。学校に所属したら学校を卒業するまで関係が切れないし、保護者は一生切れません。会社の上司も会社辞めないと切れませんが、辞めるのは大変です。ここ(「育て上げ」ネット)は来なければいいだけ、来ないからといって引っ張ることをしません。それぐらいのちょっと緩い関係というか、「いつでも切れるけど、いつでも繋がっている」程度の人に言われる方が気を楽にして取り組むことができますから。
高校生でも「どうしよう、大学にも行きたくない働きたくもないな、でも何かしなければならない」と思っている人がいるはずです。ただ、進学でも就職でも、する前に迷うよりはしてから辞めたほうが良いですよ。少しでも知っている方がいいです。とりあえずやってみる、これは東京大学の玄田有史先生の言葉ですが、何事も「ちゃんといい加減にやる」というのはとても大事だと思います。社会の大人だって、「いい加減」な部分をたくさん持っていますよ。
Kei Kudoh
工藤啓
1977年東京生まれ。大学中退後渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネット設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。2003年に厚生労働省設置ヤングジョブスポットよこはまチーフアテンダント、2004年に立川市設置ジョブステーションたちかわ統括責任者、労働政策研究・研修機構「若年移行支援研究会」委員、内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員、厚生労働省「若者自立塾(仮称)設立準備懇談会」委員を歴任。