

Takashi Nakagawa
中川 敬
1966年生まれ。ソウル・フラワー・ユニオン、ボーカル。85年、ニューエスト・モデル結成。93年、バンドを解散し、メスカリン・ドライブの伊丹英子らとともに、ソウル・フラワー・ユニオンを結成。沖縄、アイヌ、アイリッシュなど、世界中に散在する音楽と交流。
中川 敬 さん(ミュージシャン)
イラクで拘束された日本人へ「自己責任」を問う非難、北朝鮮による拉致被害者家族への批判など、最近の日本の世論は、深く考えることを招く事柄への嫌悪が目立つようだ。そこに決定的に欠けているのは、自分とは異なる考え、来歴を持つ他者への想像力。ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬さんは、そうした動向に異を唱え続けている。いま何を思い歌っているのか尋ねた。
よく「社会派」と定義されるけど、自分の中では音楽をやることも社会について考えるのも同じこと。「つながっていない」と思う時点で俺とは違うタイプのアーティスト、人間やと思う。
自分が身近に感じることは何か。音楽は自分が身近に感じたことを表現すべきやと思っている。それを俺はやろうと思っているだけ。 海の外のことだからといって「遠い」とは思っていない。「近い」のか「遠い」のかは、人との「出会い」の量が左右するんやろうね。俺も海外へ行ったことがない若い頃は、自分の経験した狭い範囲のことを歌っていたし、そのときに腹立ったことや感動したことを歌詞に盛り込んでいたからね。

阪神タイガースのこととかいろいろあるけど(笑)、いまの日本の政治状況やアメリカが世界でやっていることには、あまりに酷すぎて、視線を注がざるをえないね。基本的には、「政治」は鬱陶しいし関心なんて持ちたくはない訳やけど。ずっと俺は、感覚だけで生きてきたし、ほんとに適当な人間やから、楽しいことだけを選択したいと思ってる訳や(笑)。でも、関心を持たざるをえないくらいの現状やもんね。
苛立ちって言うか、具体的に腹が立つね。例えば、アメリカのイラク侵略戦争や日本の右傾化した政治状況なんかは「天災」じゃなくて「人為」でしょ? 人間が止めれるし、変えることができる訳やからね。「性善説?」ってよく言われるけど(笑)。 「天災」は本当に恐ろしいもんやと阪神・淡路大震災で実感したし、戦争が「人為」である 以上、それは止められる。だから「人為」のことに「苛立ち」や「恐い」といった語彙はあて はまらない。腹が立つし、具体的に状況を変えたいと思う。
震災が起きた1週間後くらいに、うちのメンバーの伊丹英子が「避難所には娯楽がないやろうから、じいちゃん、ばあちゃんと唄遊びをするのはどうやろ。あんたら来るか?」みたいな感じで誘ってきた。そのときは、何を言い出すんやと思ったけど、でも、やってみたいなと思ったね。で、「唄が必要なら連絡ください」とあちこちのボランティア団体に電話をし始めた。
エゴ丸出しのオリジナルの曲を、じいさん、ばあさんの前でがなってもちょっと違うやろと思って、それで、以前から好きな沖縄民謡とかアイヌ民謡とか、とにかくレパートリーを一所懸命増やした。(1995年の)2月10日に初めて神戸の西灘にある養護学校でやったわけです。

ライブをやるというより、キャンプなんかで唄遊びをする感覚やったけど、「安里屋ユンタ」(有名な沖縄民謡)とか歌ったらすごい盛り上がってね。
避難所には家が壊れた人、身内を亡くした人もいたから、初めは緊張したよ。泣き出す人もいたし、何ともいえん胸を打つ感じがあった。でも、終った後にみんなから口々に「ありがとう」って言われて、これは本腰入れて、続けてやらなあかんと思いましたね。
いや、まずそういう考え方をしないね。昔から思い悩んだり、地団駄踏むことをしないし、そういうのは時間の無駄やと思っている。とにかく何かをやることのほうが大事やと思っている。
やっぱり将来に対する不安はあったよ。まさかこんな人間になるとは思ってもみなかったしねえ(笑)。いやほんま、10代のときからこういう人間やったらよかったなとは思うよ(笑)。何も恐いもんがないしね。
バンドのことばっかりで、メンバーとミーティングをするために高校へ行ってたな。実家は奈良やけど、大阪の高校のほうが帰りに遊べるという読みがあったから大阪の高校にした。ちょっと後悔したのは、奈良の高校は共学で、大阪の方は男子校ってことやったね。
でも、大阪の繁華街のど真ん中にあった学校やったから、とにかく遊べた(笑)。中古レコード屋に寄り、ロック喫茶やジャズ喫茶に入り浸っていた。校則の厳しい私立高校やったけど、うまいことやっていたし、そういう、「遊び」のほうを選択していたことは、いまからすればまったく正しかったと思うね。

音楽をやることしか考えていなかったけど、具対的にメジャーデビューして、音楽で飯を食うなんてことまでは考えてなかったな。高校二年生ぐらいまでは、ローリング・ストーンズやザ・フーのコピー・バンドをしているだけやったしね。それに自分の能力への手応えがあったわけでもないから、だらだらとやっていこうとしか思ってなかった。苦労はするやろうけど、バイトでもしながらパンク・バンドをやって人生を歩んでいけるんじゃないかなと漠然と思ってた(笑)。
教師には「このままちゃんとやれば大学に行ける」とか言われたよ。要領がよかったから成績は良かったし。で、うちの親は、一般的な人生を歩んで欲しいと思うタイプやったから、すっかりその気やった。
でも、若い頃のボブ・ディランが「大学へ行く奴は社会から逃避しているだけ」とか発言していて、俺はそれこそが正しいと思ってた(笑)。だから「大学へは行かない」って三者面談で言ったら、両者とも唖然としていたね。大学へ行くなんて、時間の無駄やと思っていたもんね。俺の場合は、まさにそうなったし。
表現したいことがあれば誰でもできるんやというパンクやロックンロールが好きやったから熟練が必要ないというのは元から知っていた。たぶん人から学んだりとか一所懸命楽譜を見たりして勉強せなあかんもんやということなら音楽の道には進まなかったと思う。そういう「お勉強」から解放されるものとしてロックがあったわけであって。
10代の頃、ずっと音楽をやっていきたいと思っていたのは、いろんな人間と出会いたいと思っていたから。ロックの世界ならおもろい変わった奴が多いやろうから、そういう出会いの中で自分も変わっていけるんちゃうかと漠然と思っていた。行き当りばったりの楽観主義なんやね。

よく、根拠のない自信があると言われるけど、たぶん中学高校のときから、ミュージシャンや映画監督なんかの自伝やインタビューを読むのが好きで、そういうのが影響しているんやと思う。いろんな人の人生見たら、大物になっている奴らって、みんな行き当たりばったりで生きている。だから、「それでいいのだ!」っていうパワーを、知らないうちに貰っていたのかもしれないね。
俺の「出会い」は行き当りばったりで、綿密に計画を立てるわけじゃない。例えば、「今度北朝鮮へ行くんですけど、一緒に行きませんか?」ってピースボートに誘われて、「おもろそうやから行ってみよ」となった。
俺に限ってのことなのかもしれないけど、計画はあまり意味がないと思うよ。思い悩む時間って「出会い」が減るでしょ。思い悩むことも人生において大事だから、とことん悩もうぜ!とは思うけど、あんまり連綿とやっていると時間がもったいない。高校生の、特に、真面目な子らには「まぁ、ええか」という楽観主義を持ってほしいね。
「出会い」が増えるというのは、想像できる顔が増えるっていうこと。北朝鮮へ行く前より行った後の方が、テレビのニュースを見ていても、向こうで一緒に飲んだやつらの顔が思い浮かべられるから、「そこに人間がいて生活してるんや」ってことが想像できる。
でも、テレビでは政治力学の話ばかりしていて、すべて「国家」に収斂される問題として片付けられてしまう。でも、そこには人間がおんねん。
イラクでアメリカが行っている非道な爆撃を報道する映像を見ても、そういうこと。イラクで凄惨な人生の終焉を迎える人たちにも、ひとりひとりの人生があったってことが想像できたほうがいい。
そういう、「思想」や「制度」なんてものは「人為」でしょ。天皇制だって「万世一系」とかいうけど、「万世一系」でない人間なんていないでしょ。みんな猿からつながっている(笑)。国家だってここ200年くらいにつくられたものやのに、そういう「人為」のものがあたかも人類の普遍かのように、結構な数の人々が思わされている。
根本的に、本質的におかしいと思うことが多い。最近だと当たり前のように「テロリスト」と言う。ベトナム戦争のとき、あきらかに侵略への抵抗、レジスタンスである側を「ベトコン」と蔑称で呼んだりしていた訳やけど、今回の「テロリスト」という言い方はまったくそれと同じやね。明らかにレジスタンスであっても、はじめから体制が用意した語彙「テロリスト」でみんな話をしている。
「テロリスト」と決めつける前に、何が起きているのかを見ないといけない。イラクでアメリカがしていること。パレスチナでイスラエルがしていることは明らかに国家テロでしょ? もう少しちゃんと考えてもいいやろと思うよ。今の日本の大メディアはあまりに酷いね。
「自己責任」という日本語はないよ。「責任」という語彙に「自己」は含まれているからね。ほんまにひどい造語や。
あれは人質事件ではなく、拘束事件やと思っている。拘束事件の責任があるのは、アメリカであり、憲法を破った小泉政権。法を無視して自衛隊を派兵した為に起きたのであって、彼らこそが責任をとるべき。タカ派ジャーナリズムが政府の意向をそのまま伝えたから、NGO活動とかでがんばっていた彼らが非難されるというとんでもない結果になった。
もちろん。人間ひとりひとりがきっと変えていくよ。多少逆行することはあっても。150年くらい前までは、京都の鴨川の三条大橋に斬首された生首が並んでいたけど、いまはそれももうないでしょ?(笑)。 世界には、悲惨な状況の国もあるけど、歴史は少しずつ変わってきている。いきなり良くはならないけど、ひとりひとりの声が世界を変えて行くと思うよ。

2004年6月11日発売の新譜 『極東戦線異状なし!?』
Takashi Nakagawa
中川 敬
1966年生まれ。ソウル・フラワー・ユニオン、ボーカル。85年、ニューエスト・モデル結成。93年、バンドを解散し、メスカリン・ドライブの伊丹英子らとともに、ソウル・フラワー・ユニオンを結成。沖縄、アイヌ、アイリッシュなど、世界中に散在する音楽と交流。また東ティモール独立祝賀コンサートへ出演するなど、多方面で活躍。