

Torai Masae
虎井 まさ衛
1963年東京生まれ。法政大学文学部日本文学科卒。作家。性同一性障害当事者・研究者・支援者のためのミニコミ『FTM日本』、同目的の英文ニュースレター『ASIAN TS CLUB』主宰。"人間と性"教育研究協議会会員。FTMインターナショナル(本部・米国)会員。
虎井 まさ衛 さん(作家・FTM日本主宰)
自分の体が着ぐるみのように感じられたとしたら、誰しもそれを脱ぎ捨て、本来の姿に立ち返りたいと望むだろう。心と体の性が一致しない性同一性障害(注1)とは、ちょうどそういう違和感を伴うもののようだ。
女から男になった経験を明らかにしている虎井まさ衛さんにその体験をたずねた。
ええ、男に憧れて友だちになりたいと思うとか、そういうエピソードはそうですが、私はあんなには乱暴ではなかったですよ。ただ、たいていのFTM(注2)の子は突っ張っている感じがありますね。中学時代けんかして叩きのめされたりとか、そういうことはあるようです。

いや、いまはそうでもないですよ。むしろ、98年に埼玉医科大学で性別適合手術が行われたときのほうがすごかったです。
それにしても、ここ3年で講演に参加される方の意識もずいぶん変わってきました。以前は、同性愛との区別もついていない人がいましたから。
いや、大学で行うこともあるので若い人から主婦層までと幅広いですよ。そう言えば、小学校で講演を行ったことがありました。小学生は、現実的な質問が多く「手術代はいくらですか」とか「何やって食べているんですか」とかグッとつまるものもあったりします。後で感想文を読ませてもらうと、性転換云々よりも、自分のやりたいことのために努力したのはすごいといった内容がよく見られました。
それはみなさんと一緒だと思います。男性が女性の扱いを受けたら、違和感を抱きますよね。それと同じです。
これは人によって違いますが、物心ついた頃からどうにもおかしいと思ったりするようです。私の場合は、成長するに従って男の体になっていくのだろうと3歳くらいから思っていました。
それまで自分の体がどうかなど意識しなかったのですが、保育園で男女分けられたりすると、私は女に分けられて…、でも大きくなったら男として扱われるんだろうとなぜか思っていました。
いいえ。それが当たり前だと思っていましたから。あなたも(インタビュアーは男)わざわざ自分が男だと言わないでしょう?
それと同じです。
小学校4年くらいから胸が膨らみ始めました。太っていたので、脂肪なんだろうと思っていました。5年になったある日、女子生徒だけ集められて、初経教育を受けました。当時はずいぶん原始的な教育で、雄しべ雌しべのスライドを見せるといった内容でした。そのときに女の子にはこういう第二次性徴があるんだと教えられ、それが自分に起こっていることそのものだった。そこで、どうも自分はこのまま大きくなっても男の体にならないんじゃないかと思ったんです。

ええ、非常にショックでした。口もきけないくらいでした。ところがその2日後くらいにたまたまテレビを見ていたら、カルーセル麻紀さんが出演していたんです。そこで性転換という方法を知った。その瞬間、将来そうしようと迷わず思いました。
それからは手術の望みを持っていたので、体が女性に向かっても、それはむろん嫌なことでしたが乗り越えられました。手術が光明だったので、それほど鬱々と悩むことはなかったですが、スカートの制服は嫌だったですね。普段着では胸をさらしで巻くといったことをしていました。
高校卒業後、病院に行って相談してみたところ、日本ではそういう手術は行っていない、無理だと言われました。でも、その先生のつてをたどって調べてみると、アメリカのある病院で行っていることがわかりました。そこで下手な英文を書いて向こうの病院に連絡をとった。そしたら日本でもこういう医師がいるよと、リストをくれました。そこに記載されている中に、日本の国立大学で研究している人がいたので、その先生に手紙を書いて、やりとりを始めました。その中でアメリカにある手術に必要なカウンセリングを行っている施設を突き止め、手紙のやりとりを始めました。大学を卒業したらカウンセリングを受けようと思っていました。

何も情報もないですし、みんなそういう存在を知らないので言わなかったです。同性愛とかニューハーフとか、そういう認識が関の山でしたから。
いいえ、知りませんでした。私は手術さえできたら何でもよかったんですよ。カルーセル麻紀さんがどういった人かも考えもしなかったです。性同一性障害とかトランスセクシュアル(注3)といった言葉を知ったのは、手術の終わったあとです。
注1)性同一性障害
体の性別(sex)と心の性(gender)との間に食い違いが生じ、何らかの障害を感じている状態。日本精神神経学会の『性同一性障害に関する答申と提言』では「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら、その反面、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」と表現。
注2)FTM
Female To Maleの略。性別適合手術により女性から男性になった人。なおMTFはその反対。
注3)トランスセクシュアル
性同一性障害者の中でも、体の性と心の性の不一致を特に強く感じ、このふたつを一致させるために外科的手術を強く望む人を指す。
渡米する半月前くらいに初めて言いました。私は小さい頃から体が弱かったので、親は正式な検査をすればきっと落とされるだろうと思い、だから気がすむまで行っといでという感じでした。
実は母が流産しやすく、そのため流産防止剤を多用していました。母親はそのことがあったので、すぐピンときたみたいです。防止剤は胎児が女性だと男性化する怖れがあるもので、欧米では使用禁止になっていたものです。現在使用されているその手の薬剤は心配ありませんが、私のうまれた頃のものが一番ひどかったようです。そのせいか、私は思春期になっても生理がないとか毛深いとか、顔立ちが昔と変わらず眉毛が太くと、ちょっと異様な感じの子でした。親も男っぽいと思っていたようです。
結局、向こうでの検査では、落とされることはなく、乳房をとって帰ってきました。

最初にコンタクトをとった先生と2年間文通をしていました。書面でカウンセリングを行っていたわけで、手術に必要な情報は渡米前までに教えていました。それでも半月くらいは毎日カウンセリングを行いました。内容は心理テストをいくつか行ったり、ライフヒストリーや病歴などをたずねられました。
異常がないことがわかったのでゴーサインが出されました。はじめはホルモン注射を行いますが、検査をしてわかったのは、私は非常に男性ホルモン値が高く17、8歳の男性並だったんです。何本かホルモン投与しただけですぐ胸をとってしまいましたが、この3月に日本でも診断と治療のガイドラインが改訂されたのですが、それによるとホルモン投与なしでも乳房切除が行える場合もあるようで、日本でも融通がきくようになってきました。

いや、そうでもないです。映画『ボーイズ・ドント・クライ』(注4)は実際の事件をもとにしていて、いい例ですが、1ヶ月にひとりの割合で殺されているんじゃないでしょうか。キリスト教が社会の土台にあるので、性転換というのは道徳的に非難されがちなようです。
日本はむしろ歌舞伎や宝塚を生んだ土壌があるのか、性的にはおおらかで、そういう人が歩いていても、まあ石くらい投げる人はいるでしょうが、殺したりはしないですね。
胸の切除は途中経過としか思っていなかったです。それに外見的には、いまとあまり変わらないです。むしろいまより当時は髭が青々していました。これもFTMとMTFは事情が違って、男から女になった場合は、声も低かったり体もがっしりしたままなど外見上、わかることもありますね。私は生まれ育った町にずっと住んでいますが、手術をしたことが隣近所に知られたのはつい最近です。
性同一性障害は診断名なので、トランスジェンダー(注5)と捉えたほうがわかりよいかもしれないですね。トランスジェンダーだといわゆる異性装、男装や女装の人や手術を考えていない人、どっちでもない自分を肯定している人といろいろです。自分の体と心の性、社会的な性とが食い違っている人を指すと考えればよいのではないですか。

くるくる変わりましたね。最初は、三船敏郎とか三島由紀夫で、次になぜか諸葛孔明。いまは神父さんみたいな人がいいですね。男だけど性別にとらわれておらず、もっと世界のことを考えている人ですね。
三島由紀夫にひかれたのは、男臭いところを演出していたからでしょうね。本当は違っていたんでしょうが、そこまで世界をだませたのはすごいと思います。だから大学の卒論でも三島を取り上げました。
卒論を書いているときは女の体で、だんだんそうではなくなるにつれて、強い男や男っぽさを演出している人には憧れなくなりましたね。普通というと何が普通かわかりませんが…、自然な、そのまんまの姿がいいなと思っています。
ええ、いま審判を進めていますが、夏くらいまでには結審するでしょう。台湾や韓国では戸籍の訂正は認められているんですが、何で日本はだめなのかと言いたいですね。
染色体で性別が決まると昔は言っていましたが、いまはそれも時代遅れと思ったのか、言わないです。次いで社会的認知されていないという理由です。でも、それも埼玉医大で手術をするようになってから特に反対もないし、「金八先生」で取り上げられても応援の手紙しか来ませんし、それも通らなくなりつつあります。
それと認めたりしたら、社会混乱を招く怖れがあるというんです。でも半陰陽(注6)の人で、性別を訂正した例は過去あります。でも、そのことで混乱が起きた例は聞かない。その人の家族や親戚は多少の混乱はあるかも知れないですが、社会的影響はあるでしょうか。怖れありだけで具体的なことはないわけです。それによく前例がないと言うのですが、法的な文書に残っていないだけです。つまり、これといって反対意見がないのです。ですから希望を持っています。日本が人権大国になるために、ぜひ踏み出していただきたい一歩ですから。
注4)映画『ボーイズ・ドント・クライ』
1993年、米国ネブラスカ州フォールズ・シティでブランドン・ティーナが仲間の青年達に強姦され射殺されてしまった殺害事件を映画化。
注5)トランスジェンダー
性別違和を感じている人の中で、反対の性での生活もしくは、既存の性役割にとらわれない形での生活を望みながらも、形成外科手術までは望まない人。
注6)半陰陽
性器の形で男女に分ける場合、解剖学的に男女両方の特徴を持っていて判断が困難である人を指す。出生時にどちらかに選別され、戸籍上染色体の性と合わない場合もある。

Torai Masae
虎井 まさ衛
1963年東京生まれ。法政大学文学部日本文学科卒。作家。性同一性障害当事者・研究者・支援者のためのミニコミ『FTM日本』、同目的の英文ニュースレター『ASIAN TS CLUB』主宰。"人間と性"教育研究協議会会員。FTMインターナショナル(本部・米国)会員。『女から男になったワタシ』(青弓社)『ある性転換者の幸福論』(十月舎)など著書多数。
虎井まさ衛のFTM相談:
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Hinoki/4126/torai/
【虎井 まさ衛さんの本】

『ある性転換者の幸福論』(十月舎)

『女から男になったワタシ』(青弓社)

『トランスジェンダーの時代』(十月舎)

『トランスジェンダーの仲間たち』(青弓社)