

Takeshi Takeuchi
竹内 健
969年生まれ。東京都出身。北里大学水産学部増殖学科卒業。1991年から東京都葛西臨海水族園・飼育係に勤務。主に、マグロの回遊する大水槽や世界中の海水魚の飼育と展示を担当。1999年から東京都井の頭自然文化園・水生物館に勤務。
竹内 健 さん(東京都井の頭自然文化園・水生物館飼育係 主事)
昔ならどこにでもあった水辺の自然が都市化に伴いどんどん失われています。そして、都市部だけでなく、地方の水辺も外来生物の移入などによって在来の生き物が少なくなるという新たな問題に直面しています。東京の都心からちょっと西に行ったところにある緑に囲まれた美しい池のたたずむ井の頭恩賜公園に水生物館という、国内でも数少ない、淡水生物だけの水族館があります。この水生物館で飼育を担当されている竹内さんに、お話を伺いました。
普通、水族館というと、魚類の展示が中心なのですが、ここでは淡水魚のほか鳥やカエル、ゲンゴロウや水草など、植物を含めた水辺の生き物をいろいろ紹介しています。それで「水生物館」なのです。水生物館では関東近辺に見られる淡水生物の展示にこだわっているので、展示している種類はそれほど多くはありません。

いくら身近でも、水中の生き物の様子というのは、どうしても地上からは分かりにくいですよね。さらに今は、そうした生き物のいる水辺自体が減っているし、河川工事などにより近づきにくくなっているので、どんどん未知のものになってしまっているのでしょう。
水族館で仕事をしている人間にしては、私は少ない方だったと思います。生まれ育ったところが下町なんです。近くには隅田川とか不忍池があったのですが、生き物を捕まえるということはあまりしませんでした。当時は、野球などのボール遊びに夢中でしたから。それに、もうそういう場所もすでにきれいじゃなかったし。
最初は、環境問題を扱える仕事がしたかったんです。というのも、子どもの頃、隅田川のすぐ脇にあるグラウンドでよく野球をやっていたのですが、休憩中にふと川を見たら、死んだ豚が上流から流されてトッポトッポ浮いているのを見たんですよ。その時、なんて汚い川なんだろうと思うのと同時に、「地元を流れる隅田川をきれいにしたい!」って思ったんですね。その後大学の水産学部を出て、東京都の公務員になった僕は、当然ながら環境問題を扱っている部署を希望しました。しかし、希望は通らず、水族園で飼育係をすることになり、現在に至ってます。
水産学部ということで、水産業に関係する勉強をしてきました。具体的には、魚の分類や生態などを扱う魚類学。食用魚をどうやって増やすかについて扱う増殖学や養殖学。漁具や漁法、漁場について扱う漁業学。漁獲した水産物をどのように利用するかを扱う水産食品学や水産加工学など。普通の人から見ると、かなりマニアックな勉強をしてきました。難しく面白くない講義もありましたが、中には干物や塩辛、くん製の作り方などの実用的で楽しい講義もありました。また、実習で使った魚をみんなで食べちゃったりと、なかなか大学での勉強は面白かったです。ちなみに、卒論では「海洋における水質と栄養塩類の季節変動」というものをやりました。

淡水魚マニアのようにのめりこんで飼育してみたいと思っていたわけじゃないですけど、それでもやっぱり水辺の生き物は好きでしたね。それに、ボーッと海や川を見ているのも好きですし。
ここは、3年前からなんです。ここに来る前は、葛西臨海水族園でマグロを中心に世界中の海水魚の飼育と展示を担当していました。
ここは、飼育の担当者が2人しかいないんです。葛西にいたときは飼育係だけで10数人いましたので、担当者同士で意見を集約したり上司に提案を承認してもらうまでに手間や時間がかかってしまい、やりたいこともなかなかできませんでした。ここではやりたいことが、すぐにできる。「こういうことをやりましょう」といった自分の考えが、すぐに実行できるというところにすごく魅力を感じています。

ディスプレイはほとんど変えちゃっいました。以前はもっと泥で塗り固められた四角い水槽という感じだったのですが、なるべく自然に近づけたいなと思ったんです。生き物が暮らしている水辺環境を再現するため、底に敷く砂の色や粒の大きさ、ディスプレイ用の岩組みや杭、水草などにかなりこだわって作りました。さらに、水槽の水位も微妙に高低差をつけて、見ていて飽きないような工夫をしました。
また、常設展示以外にも、手作りの特別展示を定期的に行なうことを始めました。約2年半の間で、5回も開催しました。
ここの水槽の水は、この辺りに流れている地下水を汲み上げて使っています。水槽によっては汲み上げた地下水をフィルターを使って循環させたり、循環させないでそのまま井の頭池に戻している水槽もあります。
井の頭池もかなり汚れてしまいましたが、昔はすごくきれいだったと聞いています。江戸時代には、江戸の町の水不足を解消するために、井の頭池を水源とする神田上水が作られたくらいですから。その後も昭和30年頃まではきれいだったようですが、周辺の都市化などの影響で湧き水は枯れ、池の水は汚れてしまいました。でも、地中深く掘れば、地下水はまだ流れているんです。

かなり変わってしまったと思います。正直なところ、昔どんな魚が住んでいたかという資料がないので正確にはわからないのですが、何種類かのタナゴの仲間やムサシトミヨなどは絶滅してしまいました。代わって増えてきているのが、外来種のブルーギルです。カメなんかも、日本のカメでなく、アメリカ原産のミドリガメがかなり増えています。
在来の生き物が減少したのは、都市化や整備工事などで人間が自然環境を変化させ、生き物の生活場所を壊してしまった場合と、何らかの理由で外国から持ち込まれた生き物がそのまま住み着き、在来の生き物を襲って食べたり、生活場所を奪ってしまった、といった原因が考えられます。また、このような日本に住み着き繁殖してしまった外国の生き物を帰化生物というのですが、日本にもともといた近い種類の生き物と交雑して雑種を作ってしまうこともあります。そして最悪の場合、日本の生き物を絶滅させてしまうことも考えられるので、むやみに外国から生き物を持ち込むことは本当に危険なんです。
今、世界中で絶滅のおそれのある生き物を守ろうとする動きが起こっていて、その現状がレッドデータブックという本にまとめられているんです。日本でも1986年から絶滅危惧種の調査が環境庁でなされ、日本版レッドデータブックにまとめられました。メダカも絶滅危惧種なんですよ。そしてレッドデータブックをまとめたIUCN(国際自然保護連合)の発表した世界保全戦略に基づいて進めているのが、東京都の「ズーストック計画」です。動物園や水族館が、野生生物の絶滅に手を貸すようなことがあってはならないのです。展示する生物は、可能な限り動物園や水族館で繁殖させた生物を展示すること。さらに、希少な野生動物を絶滅から救うために、繁殖させた個体を野生復帰させることも考えています。水生物館でも、「ズーストック計画」の対象種であるミヤコタナゴの繁殖に取り組んでいます。今年は、320匹くらい孵しました。
タナゴの仲間は全部そうなんですが、ムール貝のような形の二枚貝の仲間のえらの中にメスが産卵管を伸ばして卵をうみつけるんです。貝のえらの中に産み付けることで、外敵から卵を守ってもらうと同時に、貝の呼吸によって絶えず新鮮な水が送られてくるので、卵にとって貝は素晴らしい保育器なんです。でもせっかくタナゴが勝ち取った素晴らしい生き残りの技が、貝が減ってきてしまっていることで台無しになってしまっている。飼ってみてよく分かったのですが、タナゴ自体はすごく強いんです。これが絶滅しそうになっているのは、よっぽど環境が悪くなっているのでしょう。水質汚染もそうですし、護岸工事の影響で貝が減ってしまったのも理由のひとつです。

館内に展示するのと、もともとの生息地に放そうという計画もあります。千葉県の外房のあたりになるんですが、そこはまだ貝が残っているんです。
もちろんこの辺りの魚もいますが、残念ながら今では数種類しか生息してません。じつは、展示している魚には、エサ用の小魚の中に紛れ込んでいる「いい魚」を選別して、それを育てて大きくしたものがたくさんいるんです。

ここには水鳥もいますので、そのエサとしてモツゴ(クチボソ)といった小魚を霞ヶ浦などから買っています。その中にオイカワやアブラハヤ、カワムツといった魚が紛れ込んでいることがあるので、それを大事に育てるんです。予算がないんですよ、葛西臨海水族園なんかに比べると(笑)。
ここにいるピラニア(アマゾン川に生息している)なんかは、昨年の8月下旬に杉並区内の公園の池で泳いでいたところを近所の大学生が見つけて、区の職員が池の水を抜いて調べたときに捕獲されたものなんです。この小さいほうは、ピラニアの子どもなんです。昨年の夏は暑かったので、繁殖してしまったんですね。もっともピラニアは寒さに弱いので、どこかで生きていたとしても、冬の間に絶滅するとは思いますが。

自分勝手に公園などに放されてしまうと、本当に困ったことになります。
じつは最近、外来生物の問題に興味をもって仕事をしているんです。輸入されたペットなども含まれるのですが、もともといなかったところに外国産の生き物を放してしまったために、在来種の生き物が絶滅に瀕している例もあるんです。
そうですね。同じ仲間のブルーギルなんかもそうですが、ブラックバス(オオクチバス)はアメリカから持ち込まれた魚なんです。この魚は非常に食欲旺盛で、小魚やエビなどをどんどん食べてしまう。しかも、繁殖力が強いので、あっという間に増えてしまいました。 じつは、ブラックバスに限らず、日本の川や湖には結構いろんな外来種の魚が入ってきているんです。その数は分かっているだけで100種ぐらいはいるでしょう。明治時代から、国の食料増産政策の下、外来種がたくさん輸入されたんです。じつは、ニジマスなんかもそうなんですよ。日本のブラックバスは、赤星鉄馬さんという資産家が大正14年に持ち込みました。研究や食用にするという名目でしたが、じつは、釣りのために持ち込んだとも言われています。ブラックバスへの思いなどをつづった彼の手記が今でも出版されているのですが、それを読む限り、私も釣りという「遊び」のために持ってきたとしか思えない。

もともとは生活の糧を得るためだった釣りですが、レジャーとしても盛んに行われるようになっていったんですね。レジャーとしての釣りはさまざまに分化し、その一つに釣った魚の種類や数、大きさ、重さなどを競い合うというスポーツフィッシングに発展していきました。こうした釣りでは、釣り上げた魚を生きたままもとの場所に戻すこともあります。これをキャッチ・アンド・リリースというのですが、スポーツフィッシングの代表でもあるバス釣りと一緒にアメリカから入ってきた考え方です。釣り自体が目的なので、釣り上げた魚は殺さずに放してあげるということ。確かに、食べるわけではないのに、むやみやたらと殺してしまうよりかはいいのですが…。でも、再びバスを放すことにより、他の生き物にどんな影響を与えてしまうのかというのも、釣り人は考えないといけないでしょう。
日本で最初に放流されたのは、神奈川県の芦ノ湖でした。地形的に他の水系から隔離されているので、芦ノ湖から魚が逃げ出すことはないと考えられたからです。その後、一部の水産試験場が研究のため県外に持ち出したことがありましたが、今や日本の湖沼にバスのいないところはないと言われるくらいになっている。魚であるバスは自分の力で他の湖沼に移れないわけですから、全部人間が運んで放流したのです。バス擁護派の中には、持ち出した水産試験場の管理が悪く逃げ出したとか、アユの種苗に混じって全国に広がったとか言う人もいますが、ぼくは釣り人や釣り業界が意図的に違法放流したと思っています。
熱狂的なバス釣りファンがいて、今やバスプロとして生活している人もたくさんいるくらいバス釣りは盛んです。また、バスは売上の落ちてきている釣り業界が、生き残りを賭けた貴重な存在にもなっている。
その一方で、生態系や漁業を守るためにバスを駆除しようとする人たちがいる。両者の間で衝突が起こるのは、当然のことでしょう。じつは、水産庁はバスを駆除する方向で調整していたのですが、急に方針転換して、一部の水域ではバスを認めてもよいと表明したんです。バスを放してもいい場所と駆除する場所に分ける、いわゆるゾーニングという方向に進もうとしています。当然のことながら、環境省や国土交通省、自然科学系の学会や環境保護団体から反発を受けています。ぼくも、バスは認めたくない。でも、現実的な解決策として、厳しい条件付きのゾーニングを認めるしかないのかなと思っています。その条件とは、誰であってもゾーニングした後は違法放流をしてはいけない。もし、一回でもルールを破ったら、二度とバスは認めないことにするとか。とにかく、現在のバス問題は感情的になっているところがかなり大きいので、反対派も擁護派ももう一度冷静になって、よい解決策を出してもらいたいと思います。ただし、その間でも、バス釣り業界はもっと真剣に違法放流を防ぐ手段を考え、実行しないといけないと思います。

ぼくもつい最近まではこの問題にそれほど興味はなかったんです。それがある時、井の頭池で釣りをしていた子どもたちがいたんですね。(ちなみに、井の頭池での釣りは禁止されてます) ぼくが「何釣ってるの?」と聞くと、ブルーギルだというんです。それで「釣ったらどうするの」とさらに尋ねると「近所の池に放すんだ」って言うんですね。「ブルーギルを池に放すと、池の小さな魚とか卵が食べられちゃって魚がいなくなっちゃうかもしれないんだよ」「放流すること禁止されているんだよ」というと、その子どもたちは、「そんなこと知らなかった」というんです。子どもたちは違法行為をしていることはもちろん、自然を壊しているという意識がまったくないんですよ。大人にまじってバス釣りしているうちに、釣った魚を持ち帰らずに元の場所に放すことは自然を守る大切なことなんだと教え込まれているのでしょう。
秋月岩魚さんの『ブラックバスがメダカを食う』という本が出されたのをきっかけに、ブラックバスを放すのは違法なんだという情報がかなり広まりましたが、まだまだ子どもたちにはきちんと伝わっていないんだと気づきました。だからぼくは、子どもたちが集まるこういった施設で、この問題を扱って関心をもってもらいたいと思うんです。
'00年の3月に、水生物館で「あやうし!日本の淡水生物~外来生物の脅威」という特別展示を行ったんですが、その時とった面白いアンケートデータがあるんです。例えば、「ブラックバスは知っていますか?」という問いに対して、知っている人は結構多く90%以上もありました。それが「放流が禁止されているのを知っていましたか?」という問いになると、かなり減ってしまって60%弱になってしまう。さらに、アンケートに協力してくれた約600人のうち「実際に放流したことがある人」が33人もいたのですが、じつは放流が禁止されているということを知らなかったという人が結構いたんです。つまり、放流している人の中には悪気のない人もいるんですね。水産庁をはじめ、いくつかの県ではブラックバスの放流禁止を呼びかけるポスターを掲示しているが、今一つ効果がないみたい。考えてみれば、行政機関と一般の人たちとの間には大きな隔たりがある。だから、そのことをわかりやすく伝えてあげるのが水族館の仕事なんだと思います。
そうですね。日本ではアメリカのバスですが、アメリカではアジアのコイが逆に問題を起こしているという例もあるのです。コイが砂利をほじくるときに、アメリカの貴重な食用魚の産卵床を破壊したり卵を食べてしまうんですね。そこで、州政府や自然保護団体は生態系や資源を守るため、コイの駆除に取り組んでいるという話です。
この問題に関わったのは最近だけれど、今後もPRの面で貢献していきたいと思っています。そして、将来はできれば、子供の頃の夢だった河川をきれいにできる部署で働いてみたい。希望がかなわず水族館に勤めだしたときは、仕事も面白くなく環境コンサルタントの企業に転職することも考えていました。でも、たとえ間接的でも環境問題に携わっていくことが自分の目標になったとき、がぜん仕事が面白くなった。やはり、夢だとか目標というのは、仕事する上で大事なんだなと感じました。東京都に入るきっかけとなった河川をきれいにするという仕事は、まだまだ実現しそうもありませんが、いつかきっとチャンスがあるはず。それが実現するまでは、その夢や目標を持ち続けて仕事を続けるつもりです。今の高校生にも、自分の夢や目標を大切に持ち続けて、それに向かって頑張ってほしいと思います。


Takeshi Takeuchi
竹内 健
1969年生まれ。東京都出身。北里大学水産学部増殖学科卒業。1991年から東京都葛西臨海水族園・飼育係に勤務。主に、マグロの回遊する大水槽や世界中の海水魚の飼育と展示を担当。1999年から東京都井の頭自然文化園・水生物館に勤務。日本の淡水魚を中心に両生類、は虫類などの飼育と展示を担当している。ブラックバス問題に関する論文が寄稿された『環境保全学の理論と実践Ⅱ』(信山社サイテック)がちかく発刊の予定。
淡水魚や自然保護のことがいろいろと分かるサイトをご紹介します。
環境TV.net:
http://www.kankyotv.net
生物多様性研究会:
http://www.ne.jp/asahi/iwana-club/smoc/bio-home.html
(財)日本生態系協会:
http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/simple/japanese/index.html