谷 英樹 さん(建築設計士)
子供のころから建物を作ることに興味があったという谷さんは、大学で建築を学ぶうちに「作る」から「創る」へ方向転換しました。
自分の頭の中に想像したものが形になって表れる、そのことにとても魅力を感じるそうです。
建築デザイナーというそのお仕事についてお話をうかがいました。
東京郊外の静かな住宅地。道路から見ると敷地一杯に建てられたようなお宅がありました。小さな玄関を入るとあたたかな木の床と大きな窓が広がる明るいリビングです。その先には道路からは見えなかった三角の庭があり、その続きに広がるお隣の庭も借景となり、思わず得をしたような気分になる空間になっています。
この秋のお月見には、リビングの窓からこの庭の上にぽっかり浮かんだお月様を見つけ、とても幸せだったというお話を聞きました。東京都府中市のTさん宅。ご夫婦と高校生の兄妹の4人家族。敷地面積が狭い、けれどガーデニングも楽しみたい、それぞれに子供部屋も必要だし、家族のコミュニケーションは大事にしたい、という厳しい条件のもと、若い建築デザイナー、谷さんが低コストでありながらも居心地のよい苦心の作を完成させたのです。
やっぱり低く見えますか。天井高は2メーター16センチです。

低いっていうのは、いろいろ規制があるものですからね。住宅地は特に。
ここの庭を出来るだけ広く取りたかったものですから、そのために階高はぐっとおさえて斜線制限をクリアしたわけです。ただ、低くても低さを感じさせないように、おおきな窓を天井いっぱいまでとったり…。
奥行きがずいぶんあるんですよ。
まず最初に敷地を見ていちばんすてきな場所を探すところから始まるんです。
中心は中心なんですけど…、どううまく言ったらいいのかわからないんですが…、いちばんすてきになる場所をみつけて、そこを見ていたいし、感じていたいしとか、そういうところから始まるかなと思ってます。
たまたまここのお宅は、そこがお隣りの庭と続きになっているものですから、ここだけぽっかりと空が空くんですよね。だから、Tさん家からもSさん家からも、小さい庭だけど、ここを中心に考えたんです。
■TさんとSさんは実の姉妹。それぞれの家族が住む家を同じ敷地内に建てることになり、谷さんに2軒分の設計を依頼した。

そうです。TさんとSさんのところは2家族というのがおもしろいなと。一人ひとりだとお庭も小さくなることになっちゃうんで。小さいながらも、ちょっとまとまって、できるだけ大きくのびのびとできたらなあと。
そうですそうです。
■Tさん宅とSさん宅は、2階がルーフバルコニーでつながっていて、下は完全に2つに分かれているという構造。リビングとプライベートは互いに1階と2階で逆になっている。

それぞれのお宅になると小さく狭いんですけども、それを2つあわせて、つなぎあわせて、そのつなぎあわせもただくっつけたんじゃつまらないんで、そういう関係が、離れつつ結びつつというところを作るのがちょっと難しかったなと思っています。
そこから考えるのが楽しいところで、こちらのお宅はお子さんももう大きくなっていらっしゃって、ちょっと落ち着いているかなという感じで、向こうはまだちびっこがいるもんで、もっとおおらかな感じがしたりだとか、そういうのはいろいろありますね。
できるだけ自然素材でとは思ってますね。なかなかそう全部はいかないですけどね。
太陽熱を利用しています。空気集熱式の太陽熱利用です。
基本的には冬場、これからの季節です。今も動いているんですが、床下に土間コンていうんですが、コンクリートが敷いてあって、そこに屋根でとれたあったかい空気をおろしているんですね。そうすると、熱いとかすごく暖かいっていうほどではないんだけど、ほんのり暖かくて、冷たくない程度になるんです。スリッパはいていると心地よくないじゃないですか。素足でいたら気持ちいいかな、という。

一応、私の経歴っていうのが、一度、奥村設計所っていうところにいたんですけれど、(あのイス=ハンペンチェアーを作っているんですけど)、奥村設計所の奥村昭雄さんという方が、このソーラーシステムを考えた人なんですけどね。そういう関係もあって、ソーラーシステムだとか、自然素材を使うだとか、無駄のないようにしようとか、環境にやさしいとか考えて設計をしているので、建物の設計の依頼を受けたときにはこのソーラーシステムを依頼主の方にはお勧めしています。
そういうのはありますね。考え方自体はやっぱりそこで学んだというのがすごくありますよね。
たまたま。たまたまそこへ行ったきっかけというのが、友人が先にその事務所に勤めていて、大きな物件があってそこで人手が必要だからっていうことで。そのとき遊んでたのかな、何にもしてなかったのかな。
いろいろ…。いろいろといってもやっぱり住宅系ですが。

集合住宅はちょっと別です。
はい、そう思ってました。
1昨年の10月の末にお会いして、おつきあいが始まって2年ぐらいになりますね。
じゃあ設計を始めましょうということになってから、工事を始めるまで、いわゆる設計期間が半年ぐらいですね。
やっぱりもうちょっとかかるかな、っていう感じですね。もちろん、ずっとそれをやっているわけではないわけですから。頭の中で考えながら…手を動かしたりしていって…。

そうですね。基本設計があって、実施設計があって、工事の監理業務っていうのがあるんですが、実施設計がバッティングしないようにしています。A邸は基本設計、B邸は実施設計をやってて、で現場があったり、というように調整しつつ…。
ええ。今私は実質一人でやっているものですから、何人かでやっていれば分担したりできるんでしょうけど…。実施設計というのは、細かな図面を書くことです。基本設計というのは、最初のたたき台から始まって、コンセプトを入れた図面を作って、模型を作って見ていだだいて、基本的な形を作っていく作業ですが、建物を建てるためには、いろんな図面が必要になります。その図面を描いていくなかで、建て主さんと打ち合わせをさせてもらって、ここがやっぱりこうがいいとか…とても手間と時間がかかるんです。
必ずそういうのがありますよね。そういうのがないとまた、おもしろい家というか、本当にその人たちがこだわって住んでくれる家にならないんじゃないかと思ってます。
建て主さんはすごく大変だと思いますよ。パターンメイドの方がどれほど簡単かと思いますよ。チョイスでいいんですからね。

そうですね。ある程度はまかせていただいてるところもあります。
やっぱりそこは大きいですね。いちばん気を使うところですね。
そうなんですよ。そこは難しいですね。
コントロールというか、コンセンサスをとって…。いろいろなことを想像して白い紙の上に絵を描いて、技術的なところを押さえて図面化していくのが設計の仕事なんですけど、人と人との関係で進めて行く仕事ですから、そこが一番難しいし楽しいしというところだと思ってます。
もし自分が家を探そうだとか建てようだとか思ったときも、一人で土地を買って建ててというのは、なかなかたいへんだと思っているんです。だから、何人かで集まって土地を借りたりだとかして、というのは可能性がありそうだなとは思ってます。
横はけっこうどこかでつながっているというのはありますよ。

そういう話もないわけじゃないんですけど、これがなかなか難しいんです。皆一人ひとりでやっているじゃないですか。だから、やっぱり一人親方なわけですよ。
ええ。だから、たしかに情報交換なんかではよく会って話をしたりというのはありますけど、いざこの物件に対して何人かでやろうなんていうのはなかなか難しいなと思ってますね。
そうですね。まだまだいろんなことを勉強しつつ新しい家作りに挑戦したいと思っています。
ごくごく普通の目立たないほうの子だったと思います。高校に行ってて、すごく楽しかったとも思わなかったようにも思います。熱中できるものが見つけられなかったのかな。今のほうが圧倒的に楽しいです。なぜかと考えてみると、たぶん頭から押さえられるとか、枠があることがとてもいやだったのかもしれません。親だとか教師とか。向こうはそんなつもりあまりなかったんでしょうけど。今ならかなりの範囲、自分で考えた方向で行動できるからかな?

うーん。それほど若くもないですよ。だって、高校生だったころを考えるなんてとても不思議な感じがしますから。楽しいという感じでもなく、切ない感じでもなく、苦い感じでもなく不思議な感じです。でもちょっと体のどこかが新鮮になった感じがします。変ですねェ。ハッハッ。ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました!
Hideki Tani
谷 英樹
1964年秋田県生まれ。木曾三岳奥村設計所を経て1995年谷設計所設立。最近の仕事は上池台Twin House for Single (OM研究所+谷設計所)。
連絡先:
東京都杉並区高円寺南3-37-14(03-5377-0951)
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