

Shoko Sugiura
杉浦 昌子
1956年生まれ。大学卒業後、学習塾の講師に。塾にも来られない子供をもつ親の相談を受け、訪問学習指導を始める。91年より不登校・ひきこもりを専門とするアイメンタルクリニックを創設。これまでに約1000人のカウンセリングを行う。最近は元クライアントの若者とともにカウンセリング指導を行っている。
杉浦 昌子 さん(カウンセラー)
Tシャツとジャージ姿で家庭を訪問し、ひきこもる若者に無視、拒絶されながらも熱心に向き合う。杉浦昌子さんは、ひきこもりを専門にした日本でも珍しいカウンセラーだ。
時に手荒とも思える方法で、外に連れ出すこともある。精神科医の中にはそうした手法を疑問視する人もいるが、これまで1000人ものひきこもりを扱い、多くを社会復帰させてきた実績は無視することはできない。体を張って彼ら彼女らと向き合ってきた中で見えてきた、今の日本の家庭とはどういったものなのだろう。
初めは外に出られないということだったので、元気のない、消極的な子なのだろうと考えていたのですが、どうもそれだけではない。何かわからないけれど、世の中に出ようとしない、出ることを非常に怖れているということがわかってきました。励ましたり、説教したところで何も変わらないことから、抱えている問題の根の深さを感じました。

もともとは学習塾の経営に携わっていて、勉強の指導をしていたのですが、だんだんと親から「家で子どもの勉強をみてほしい」といった依頼を受けるようになりました。そういう親の声がけっこうあったんですね。勉強についていけないから学校にも行けない、積極性のない内気な子だから塾にも行くことができないのだろう。そう思って訪問したら、そうではなかった。

例えば、ずっとこたつの中にこもって出てこない子がいました。私が訪ねるまで、食事とトイレ以外はそこにこもったまま数年間を過ごしていました。またある子は部屋に閉じこもったまま、母親を召使いのように扱い、食事を持ってこさせたり、新聞を買ってこさせていました。気に入らないことがあると暴力を振るうこともありました。
家に放火し、自宅を半焼させた19歳の男性もいましたね。初めて訪れたとき、その子の部屋は真っ暗だったんですが、入るなり雄叫びをあげて飛びかかってこられ、殴られました。おかげで肋骨を折りまして…。で、親戚の協力を得て、部屋から連れだし、措置入院させました。親戚というのも、親は報復を怖れて手伝おうとしなかったんです。
その後、カウンセリングを行う中でわかったんですが、その子は自室の押入にレトルト食品をぎっしりと詰め込んでいたんです。親が働きづめということもあったのですが、本人がいうには自分は親から愛されていない、見放されていると思っていた。だから食事に困らないようにとそういうことをしていたようです。その子は家庭内暴力も行っていたんですが、親が自分の言いなりになっても、ならなくても荒れる。自分をちゃんと見てほしい、愛してほしいという思いが強いんですね。
精神科にすでに相談していた家庭もありますが、まず本人を連れていかないことには話にならない。ですが、ひきこもっているからそれは無理ですよね。それに精神科は薬物療法をしたがるんです。それが根本的な問題解決になるかどうかといえば、どうでしょう…。私はなるべくなら薬は使わないほうがいいと思っていますから。
とにかく決まった日と時間に通い続けることを心がけました。最初は部屋にも入れてくれない、またはこちらが話しかけても布団をかぶったまま答えないわけです。まずは信頼関係をつくることから始めないといけない。
そうしたことを続けていくと、向こうも「何でこの人はあきもせず毎回来るのだろう」と興味を持つわけです。「出て行け。来るな」と、それが私を拒否する内容であっても、必ず言葉を交わす機会は出てきますから、そうした中で少しずつ話をしました。

特に決まった内容はないです。最初は部屋に鍵がかかっていたのが、しばらく通ううちにドアが半開きになっている。部屋に入れるようになったら、部屋に置いてある本やレコードからその子の趣味を尋ねてみたりすることで、話のきっかけとしました。で、そのうち「ここにいてもつまらないだろう。外に出てみない」とドライブに誘う。とにかく環境を変えてみることを提案するんです。
「これがしたい」という意志を持っていれば、ひきこもることもないわけなので、とにかく動物園でも美術館でも、繁華街でもいい。何か楽しいことに出会える場所に連れ出して、ちょっとでも興味を持ってもらうようにしました。
動物的勘といったら笑われるかもしれませんけど、でも誰でも玄関に入った途端に、その家庭の雰囲気をある程度感じ取れるものだと思います。例えばインテリアが無愛想な配色だったり、花が枯れたまま放っておかれているといったことから、生活を愛している家庭なのかそうでないのかだとか、ぱっと見てわかるところがあると思います。それに多くの場合、親が子どもを恥ずかしがって隠そうとしているわけですから、子どもにとってもそんな家庭が面白いわけない。外のほうがいろいろあって面白いと誘うのはごく当たり前だと思います。
ひきこもっていた子の中に小室哲哉のファンがいたんです。ある日、ポツリと「小室哲哉に会いたい」といったので、「じゃあ、会いに行こう」と一緒に東京まで行きました。 もちろんアポイントなんてしていませんよ。彼の所属するレコード会社に何とかたどり着いたんですが、どこに行けばいいかわからない。上階のオフィスにいるんだろうと見当をつけ、業務用のエレベーターに乗り込みました。まあ結局は、受付で止められてしまったんですが、そこでマネージャーと思しき人に事情を説明したところ、「必ず小室本人に伝える」と返事をもらったんです。
その年のクリスマス、小室哲哉から本人あてにクリスマスカードが送られてきました。本人はすごい興奮していました。

「音楽の仕事をするにも音楽だけではなく、いろいろなことを知っておかなくてはいけない。その上では学校の勉強も大切だよ」。そんな内容だったと思います。それから本人は学校に行くようになったんです。けれど、小室哲哉のメッセージでひきこもりが治ったのなら、私の立場は何だろうと、ちょっと悲しくなりましたけどね。
まずひきこもる人は男の、それも長男が多いです。それと親がサラリーマンの管理職でそこそこの学歴と収入があることですね。子どもの欲しがるものを買い与える。その代わり、やはりよい大学に行き、一流の企業に勤めることを期待する、あるいは強制するといったことが多いです。あと意外と多いのが、両親が教師というパターンです。

考えられるのは、母親との関係ですね。非常に濃い。特に専業主婦だと、1日中べったりなわけです。そうした中であたかも世の中で大事なことは、学歴と出世だと、小さい頃からいわれていれば、そうした価値観がすべてとはいわないけれど、その子の価値観の多くを占めると思います。
でも、勉強はできても、学校のクラスの中で友人をつくれない。知識は持っていても会話をはずませる能力はない。人との会話を楽しむことや人間関係を作る力に欠くことから、いじめられたり、あるいは今まで抱いていた価値観がまったく通用しなくて傷つくことで、しだいに無力感を覚えるんじゃないでしょうか。
そうですね。私がカウンセリングで訪問しても、「息子のことをよろしく」とか「妻に任せてありますから」と、そそくさと逃げるように出ていくことが多い。「嫌な仕事にも耐えて、これだけ会社で頑張っているのにあいつは怠けている」と、愚痴をこぼす父親も時にはいますが。多くは家庭の出来事にもう関心を持たなくなっている。何があったのかは各家庭でさまざまでしょうが、父親は無力感を覚えているようです。

私の経験でしかありませんが、ひきこもりの質が5年ほど前から変わってきている気がします。何といいますか…、ますます自分本位になっているというか、コミュニケーションの力が格段に落ちているという感じを持っています。
相談の件数は増えていますが、これまで表に出てこなかった人を数に入れても、実感としては増加していると思います。
そうした人と付き合う上では根気が大切です。説教をしても意味がない。特効薬はないけれど、やはり親の問題が大きいと思います。まず親が人間にはいろんな生き方があることを示さないことには、だめでしょうね。決まった生き方なんてないということを親も骨身に沁みないことには、せっかくひきこもりが治っても、また戻ってしまうこともありますから。
とにかく学歴や肩書きにとらわれないで、楽しいことを一緒に追求していこうという気持ちが必要です。そうすると、どうしたって関係は生まれますから、それが一番大切なんではないでしょうか。
Shoko Sugiura
杉浦 昌子
1956年生まれ。大学卒業後、学習塾の講師に。塾にも来られない子供をもつ親の相談を受け、訪問学習指導を始める。91年より不登校・ひきこもりを専門とするアイメンタルクリニックを創設。これまでに約1000人のカウンセリングを行う。最近は元クライアントの若者とともにカウンセリング指導を行っている。
アイメンタルクリニック ホームページ:
http://www.aimental.com/