

Otsuki Robu
ロブ@大月
1975年生まれ。専修大学在学中。ライター。99年『BURST』でデビュー。以後、テレビ、新聞などの媒体で活躍。『リストカットシンドローム』(ワニブックス)が初の著書。
ロブ@大月 さん(ライター・大学生)
リストカット(手首切り)は「生きているか死んでいるかわからない状態を打ち破る手段」。自らもリストカット経験者であるロブ@大月さんは『リストカットシンドローム』でそう書いている。生きている手応えを得るために自らの体を傷つける人たちを追った作品は、多くの若者たちの反響を呼んだ。今回は著者であるロブ@大月さんに、リストカットを行う人の動機とは、またそのことで何を得るのかを尋ねた。
根底に自殺したい思いがあるのは確かですが、直接的な自殺手段ではないんです。正確に言えば、自分という存在をまるごと消したいという望みがあります。死後に誰にも悲しんでほしくないので周囲の記憶ごと消したい。
そういう願望を募らせて悶々としている。こういうことを言うとおかしいと思われることはわかっているので、誰にも言うことができないでリストカットしてしまった。けれど全然死ねないし、それどころかそこで発見したのは、カットすることですっきりしてしまった自分なんです。死ぬために手首を切ったのに気分が晴れ晴れしてしまった。生きている手応えを得るため、すっきりするためにカットするんです。
こうした人はアメリカでは100万人以上いると言われ、日本でも精神科医の概算によれば1万人以上いると言われています。日本社会の閉塞的状況を考えれば、数は今後増えていくだろうと思います。
慣れてくると非常に平静な精神状態で行う人もいますが、初めはかなり興奮していることで痛みを感じないようです。
最近わかったのは、痛みではなく流れている血。それを見ることで生きている実感を覚えるようです。出血というリアルな事態を目の前にしても死ぬことなく生きている事実に注目する。ある女性は一晩で1.5リットル血を出してしまった。40キロの女性だったので総血液量が3リットルですからこれは致死量にあたります。

自傷行為というのはエキセントリックな行為で他人からすると非常に嫌悪感を催す行いです。でも表面に目を向けるのではなく、切るまでにいたった経緯をきちんと分析する必要があります。
取材やアンケートを行っているうちにわかったのは、やはり親子関係の問題です。ただしそれも単なる不和でない場合があって、親が学歴に執着していないのに、子どもが出来る子であるために、「いい学校に行かなくてはならない」という脅迫観念にとりつかれる。そのことで自分の希望を押し殺してしまったりする。表面的には親に問題はなくても、子どもは「自分たちの間にはコミュニケーションが全然ない」と感じている。
親からすればわけのわからないことだと思う。親のことを好きか嫌いかと尋ねれば、表面的には「嫌い」と答える。しかし、経済的なことを考えると親と縁を切ってしまうことはできない。そうしたら自分は死んでしまうという思いがある。
そういう思いは大きいです。ただしリストカットしている自分も認められたいが、同時に認めて欲しくもない。例えば親にリストカットを注意され、「自分の体だから別にいいじゃないか」と反論した。
親は最初は止めますが、慣れてくるうちに、「自分の意志だから勝手に切ればいい」と言う。これは当人にとっては承認にはならないんです。そういう場合は、「親が止めてくれない」と言って泣くんです。「自分のことを見て」というリストカットなので、周囲は次第に辟易としてしまう。
そういうふうに自分の感情が激情化していくと、専門家の指示を受ける必要があります。
ええ、ありました。僕の場合は就職活動がうまくいっていなかったりと八方塞がりの時期でした。
当時、つきあっていた女性がいまして、彼女は精神的に不安定で、ある日電話をしていたら彼女の気分が落ち着かなくなった。それで電話を一時切ったんです。その後、電話したらすっきりした調子になっていたので、不思議に思い理由を尋ねたら「手を切った」と話したんです。それまで僕の中ではリストカット=自殺というイメージがあったから驚きました。
それからしばらくして、就職もままならず、もうどうにもならないくらい苦しくなって…、そのときにリストカットという方法があったことに気づいたんです。それまでは刃物を見るのも触るのも苦手だったけど、切る瞬間はまったく気にならなかったし、痛くもなかった。
リストカットという行為が知られることで「そういう方法があるのか」と誘惑されている人も中にはいるんだと思います。読者の中に、「同じような精神状況になったので切ってみた」とメールを寄越した人もいますから。
下は12歳から上は38歳までで、ほとんどは20代の前半です。悩みや相談、体験談が多いです。「精神科も理解してくれないし、今度リストカットしたらうちの診療は受けないという誓約書を書かされた」なんてのがあります。
薬漬けにされてしまう場合もありますし、診療で「とりあえず切るのを辞めろ」と言われたりする人もいました。それができたら病院に行きはしないでしょう。
ではカウンセラーはどうかというと、カウンセリングの基本は受容なので、経験者が相談しても「そうなの」と聞く一方のようです。専門家の中には、相手に動機づけを与えることを意志の強制だと考えている人がいます。「趣味だとか好きなことをやってごらん」といった動機づけすらいいことではないと思っている。
加えて問題なのは、精神科医やカウンセラーはたいがい親の立場に立つことが多い。頭から治すべき対象で上からものを言う感じなんです。リストカットは、引きこもりもそうだと言いますが、正論や説教が全然有効ではない。
外科的手術が必要なリストカットを行う段階であれば、やはり病的なので精神科医やカウンセラーに相談したほうがいいのは確かです。
しかしリストカットのほとんどは猫のひっかき傷程度で、切ると言ってもミミズ腫れができるような状態が多い。そういうことであれば、「なぜ切るのか」についてとことん話し合うのが有効なのではないかと思います。
ただ、自分でも何で切っているのかわからないし、親とそういう話をすること自体、「申し訳ないことだ」と思っているので、対話を嫌うことも多い。その際、本人の意志を尊重して聞き出すことが大切で、無理に話をさせようとすると、自分の中で勝手に理屈づけをしてしまう。
親が悪いとか、学校でいじめられたとか。そういう思ってもいないことを話して取り繕ってしまう場合もあります。

どんなに容姿や学歴が優れていても自分を認められない人もいます。ある意味、非常に理想像が高いのだと思います。そうした像に近づくには、葛藤を乗り越えて理想を実現していくことが筋ですが、どうもひとっ飛びに理想像に近づこうとする。当然、不可能なので挫折感を味わう。すると楽になりたいと思って、リストカットする。
いま切れば楽になるという発想なんです。だから机の上にカッターや剃刀、オキシドールを用意しておいて、ささっと切って楽になる。エゴが非常に強いと言えます。

そうですね。目の前にある不安な現実をなんとかしたい。しかし、もやもやしている現状や「自分は存在していていいのか」という不安と向き合えない。それに対して言ってはいけないのは、「そんな悩み私にもある」「たいしたことない」ということです。悩みの大小ではなく、その人にとっての重みがあるわけですから、それに対して答えられる範囲で答えることが重要です。
ひきこもりと違って、恋人がいても止める動機づけにならないんです。むしろ、切っている自分を受け入れて欲しい。親の代わりに自分を受け入れて欲しいと望む。
ややこしいのは、それが押しつけがましいということは知っているんです。わかっているけどやめられない。本当の自分というのが、非常にまわりくどく凝った形で出てくるんです。それを認めて欲しい。そしてときには認めず叱って欲しいし、生きる意味を与えて欲しい。
まったりと生きられないし、まず趣味らしい趣味がない。好きなことがない。まったり生きることに欠かせないのは、人間関係を紡いでいくコミュニケーション能力でしょう。リストカットする人は、一見するとコミュニケーション能力は高いけど、自分の感情を吐露することができない。煙に巻くために話しているようなもので、取材で突き詰めた話を聞いていくと、泣き出す人もいましたし、神経性胃炎になった人もいました。

受験という大義名分のあるときはリストカットをしないですんだ人がいます。けど合格すると授業から何から自分で決めなくてはならないことに困惑し、リストカットをまた再開させてしまった。やりたいことといっても、自分の欲望なのか親の欲望なのか。それを見極める必要があるでしょう。
別に大それた目標を掲げる必要はないと思います。些細なことでいい。例えばサッカー選手になりたいわけではないが、ただサッカーがやりたいから一生懸命練習する。遠くの大目標よりも手元の欲望です。
それと自分の中の感覚を切り換える知恵です。重いものを重く扱うことは誰でもできる。重いものを軽く扱う感覚が大切じゃないかと思いますね。
Otsuki Robu
ロブ@大月
1975年生まれ。専修大学在学中。ライター。99年『BURST』でデビュー。以後、テレビ、新聞などの媒体で活躍。『リストカットシンドローム』(ワニブックス)が初の著書。
ホームページ「Restless Heart」:
http://101com.gaiax.com/home/moonlight/
【ロブ@大月さんの本】

『リストカットシンドローム』(ワニブックス)
最新情報:
『自殺願望(仮題)』(ぴいぷる社)近日発売予定。
『精神科の使い方(仮題)』(PHP出版・共著)今夏発売予定。