常見 陽平さん(就活作家)
学生の就職難が指摘されている。就職氷河期再来といわれている昨年度の新卒の求人数は約58万人。ところが就職倍率が1倍を割った2000年時の求人件数は約40万人だった。求人数そのものは増えている。企業の求める人材の質の高さに合致し、内定を数多く取る学生と、まったく内定にいたらない学生との「就活格差」が未曾有の就職難を生んでいるのではないか。就活作家の常見陽平さんはそう指摘する。いったい格差はなぜ生まれたのだろうか。
面接で500人、面談で250人、インタビューで20人と多くの学生から話を聞くうちに、就活がうまくいっている人たちは決して就活のみが順調だったわけではなく、学生生活が充実していることを再確認しました。
また、大学生活を楽しいと感じていない人の多さに驚きました。両者の過ごし方の違いが、「就活格差」とでも呼ぶべき状態を生んでいるのではないかと思うようになったのです。
実際、大学の講師や職員から聞くところによれば、講義は受けたとしてもクラブやサークルに参加するわけでもなく、かといってバイトをするわけでもない。何もしない学生が増えているといいます。
そういう現状を知る中で、既存の大学生活に関する本に目を通してみると、教授や文化人といった偉い人の経験に基づいた精神論はあっても、実践的な内容は少ない。そこで具体的な事例に基づいた本を書こうと思ったのです。

まず説明しますと、就職率の差は大学群により明確な差がありますが、実は就職率のいい大学であっても学内で差があります。そもそも「就職率が高い」と宣伝している大学は、たいがい統計上の仕掛けが行われていますから要注意です。フリーターになった人を「就職希望者ではなかった」と予め母数から弾いているため、見栄えのいい数字が出来上がるようになっているのです。
就職率のいい大学でも、私の経験上、「2・6・2の法則」と言われる割合があてはまるようです。つまり、うまくいく人が2割、それなりの人が6割、がんばってもうまくいかない人がだいたい2割くらいいます。
就活のうまくいった学生とそうでなかった学生を比べると、自分なりのおもしろさの追求に向けて積極的になれるかどうかの行動の質の違い、感化されたり影響しあえる仲間の質の違い、取得している情報の差がとても大きい。
そうです。学生生活の送り方は、入り口の時点で違っている傾向もあります。たとえばいま企業の人事担当者は面接の際、学生に対し試験なのかAO入試のような形式なのかを尋ねることが多いようです。基礎学力の有無だけでなく、競争やストレスを経験したかどうかにも着目しているのです。
そして、合格したことに満足せず、大学生活を充実できるものにしたかどうか。そういうエピソードを尋ねています。もちろんエピソードだけで、仕事の資質を判断できませんが。

10年、20年前の学生と比べて、インターネットの発達などで情報量は非常に増えています。学生が滅多に出会うことのできなかった有名人や文化人であっても、ツィッターなどを通じ、直接アクセスできますから、大学に招いて講演を行ってもらうなど、情報を利用することも可能です。
このように自分の経験を豊かにするツールとチャンスは増えているのですが、そういうところに入って行けるだけの意欲をもてない学生も増えている傾向があります。結局のところ、この一歩踏み出す力があるかどうかの現れのひとつが就活の成果なのではないかと思います。
はい。大学とは経験をデザインする場であり、自分の足で立つようになるための鍛錬の期間だと思っています。勉強さえしていれば鍛えられるわけではありませんし、大学の用意してくれる教育だけに期待しても得られるものではありません。何事も自分で選んで経験していくことが重要になってきます。
そこで私は大学で何を学ぶかを学生たちに伝える上で、「いまの世の中のありよう」を話すようにしています。たとえば、いまは商品のライフサイクルが短くなっていますから、業務のスピードアップが求められています。そして、ひとりで黙々と行う仕事は減り、チームでプロジェクトを遂行させる業務が増えています。だから、いわゆるコミュニケーション能力が重視されているわけです。
このように経済や社会の現状がどのように企業環境に影響を与えたか。そのことで働き方がどう変化し、必然的に労働者に求められる能力がどう変わったのか。そういう話をしています。

アンケートの結果を見る限り「現実がわかった」と好意的です。しかし、「わかった」が故に社会に出ることに恐怖心を抱くようになったという感想を寄せる学生もいます。
たとえば、データ上では、結婚し専業主婦になりたいと思っている若い女性が増えているということから、婚活の話題を取り上げたことがあります。
願望はともかく、現況では専業主婦になることは難しくなっていると感じます。なぜなら専業主婦にさせてくるような経済力を男性がもてなくなっているからです。そういう話をすると、「なるほど」と思う人がいる反面、社会に出ることに怯えを感じてしまう人もいるのです。
あと顕著なのが、「留学するのがいいのかどうか」というような、意志決定に関する悩み相談をしてくる学生が多いですね。背中を押されたいと思っている人が増えている印象をもっています。留学を躊躇う原因のひとつは、留年することで就職に不利なのではないかという懸念があるからです。
私としては、違う環境に身を置くことは大事なことだと思うので、したいと思うならできるだけ留学はしたほうがいいと考えています。
はい。企業の採用のやり方と学生の現状を知ることができたのは、いまに役立っています。玩具メーカーだと学生も「この会社の商品が好きだから」といった憧れで希望する人が多い。
けれども、仕事は憧れだけでできません。ビジネスですから、商品が売れなくてはなりません。売れて始めて社会に価値が認められることになるからです。そういう仕事の中身を伝えるために、会社に関する一般的な説明なしに、社員と会話できる機会を設けたり、すべてを質問の時間にあてたりと、企業の見せ方を工夫しました。
たぶん、それは玩具メーカーの前職で広告系の企業にいた頃、取引先と顧客をつなげ、商品やサービスの魅力を伝えることにこだわる仕事をしていた経験があったからだと思います。

大学では、プロレス研究会にいたのですが、実はこの活動と大学時代のゼミがいまの仕事を方向づけたと思っています。
プロレス研究会は、いかに集客を増やすかに腐心し、たとえば食堂で乱闘を始めるとか、少林寺拳法部の演武に乱入するといった話題づくりをしていました。そういう中で学んだのは、いかに人を盛り上げ、イベントに来てもらうかというノウハウです。
またフリーペーパーをつくり、プロレスに関係ないことを書くなど、ひたらす反響を呼ぶ内容づくりにこだわっていました。
入学時は社会学部だったのですが、商学部に転部しました。一般教養の授業で人生の師とも言える先生と出会うことができたのです。彼は商学部の教授でした。また、競争戦略という教授の研究分野に興味を持ちました。とにかく彼のもとで学びたいと思い、転部したのです。
私の入ったゼミはたいへん厳しく、その準備でほかの授業に出られないくらいでした。猛烈に英語の文献を読み、仲間と連日議論し、徹夜で過ごすのもしばしばでした。おかげで、ものを考えるフレームと諦めずに調査をやり抜く手法を学ぶことができました。
ただ、将来の仕事についてはぶれていて、マーケティングの世界とプロレス研究会のようなエンターテイメントの両方に興味がありました。とりあえず経営コンサルティング会社に行こうか。それともエンターテイメント系の企業へ行こうかと迷っていましたが、途中で「自分のやりたいことは、どちらかではなく両方だ」と気付き、先述の広告系の企業を選びました。
入社時は、営業の仕事をナメていた部分がありましたが、実は営業はマーケティングそのものだし、お客さんと商品のことを考え抜かないと売れるという実績に結びつかないことを痛感させられました。そういう経験の中で人と人をつなげる仕事にどうやら適性があるのだなと気づくようになったと思います。

私が学生の頃、周囲の大人が「いましかやれないことをしろ」「本をたくさん読め」といった「ありがちな話」をしていました。ところが、この年になって、やはり一理あるなと思います。よく遊び、よく学ぶことは大事です。そこに尽きます。
私からの提言としては、若い人には異なる環境に身を置くことにこだわって欲しい。だから機会があれば、海外にぜひ行って欲しいです。
「もう日本はダメだ」と経済や社会に対する後ろ向きの意見をよく耳にしますが、海外に出ると日本の潜在力に気づいたり、また海外の多様性から日本の進むべき道についてのヒントを得たりできます。
学生の頃、仲の悪いゼミ生4人でアメリカ縦断旅行をしたことがあります。寝泊まりは車の中で、日中は何かといえばケンカ腰の議論になってしまう。
でも、朝食はカフェで当時まだ日本にはなかったベーグルを食べ、日本よりももっと明確な格差社会の象徴であるスラム街を間近に見たりと、いろんな現実に触れることができました。やはり実際に経験することのインパクトは大きい。
これから大学へ進学希望をしている高校生のみなさんも大学生活で意欲的に何をしたいのかを念頭に置いた上で、知名度や偏差値だけで選択してしまうのではなく、オープンキャンパスなどを利用して実地に行ってみる。経験してみることを勧めます。キャンパスにいる学生をつかまえて話を聞いてみるのもいいでしょう。自分の目で確かめるということを大事にして欲しいですね。
[文責・尹雄大 撮影・佐藤類]

Yohei Tsunemi
常見 陽平
就活作家。一橋大学商学部卒。リクルートを経て、大手玩具メーカーに入社、新卒採用を担当。現在、人材コンサルタントのかたわら実践女子大非常勤講師を務める。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活難民にならないための大学生活30のルール』など多数。
<常見陽平公式サイト>
http://www.yo-hey.com/
【常見 陽平さんの本】

『就活のバカヤロー』
(光文社新書)

『就活難民にならないための大学生活30のルール』
(主婦の友社)