ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2016-08-28 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
それは夕食後の静かな家族団欒の時間に起きた事件。
私はオスのカブトムシを、手のひらでお散歩させていた。
私「手をペロペロ舐めてる。この口に見えるオレンジ色のもん、なんだ?」
5歳男児「ベロだよ」
私「私の手がそんなに甘いんかな〜」
カブトムシは、無駄にでかいツノを持ち上げながら、
時々角度を変えて、手の上をトコトコ歩きまわる。
しかも奇妙な、キューッ、キューッという、甘え声?のような音まで出している。
私「カワイイね。足のギザギザも案外痛くないし」
そんな平和な時間が流れること数分。予期せぬ事態はいきなりやってきた。
「ギャーッッッ!」
「イテテテ、痛いーっっ!」
「助けてー!!」
慌てて手を振り払うも、カブトムシはがっちりと私の手にしがみつき、離れようとしない。
「いっ、痛いー!!!」
顔を近づけてよく見たら、親指の付け根の、ちょっと膨らんだところに柔らかいところに、何かが突き刺さっている。いや、何かが突き立てられようとしている。
蜂→刺す→危ない
ハブ→噛む→危ない
カブトムシ→????←なんもないはずでしょ!?
もう1度、目を凝らしてみた。
細長い松ぼっくりを1000分の1くらいにした大きさの、茶色い棒状のものが、普段は何もないはずのお尻のところに出現しており、これが私の手のひらを、思いっきり刺していた。
(きゃ〜〜。これ、もしかして、おち○○ちん?)
半ばパニックになりながら、あまりに強引なカブトムシを振り払うべく、もう片方の手で必死にもぎ取った。
カブトムシが離れた手には、うっすら血が滲んでいた。
私「怖かったよ〜〜〜〜。これやっぱ、おち○○ちんだよー。カブトムシのオス、アブナイなあ……」
5歳男児「そんなわけねえだろ、オレのと随分違うよ」
私「違うけど、そうだよ。私をメスだと思って求愛をしかけてきたんだよ」
5歳男児「……? けどママは実際、メスだろ?」
その後、オスである我が子にもカブトムシが近付くか実験してみた。 が、なぜかヤツはメスの私にのみ、接近してきた。
私はこの出来事をどう解釈すれば良いのだろう?
■自分の女子力を自慢できる
■人間からは遠ざけられる年代になっても、カブトムシのマーケット的にはまだ需要がある
■種の存続を図るため、人間と融合しようとするカブトムシが現れ始めている
そうそう、哺乳類に人間が求愛をされるという話は聞いたことがあったけれど、まさかカブトムシからの求愛を受けるとは、ちょっと想像もしていなかったなあ。
そういえば、1つ思いだした。 それは大学生の頃。
遊びに来たマルチーズのオスが、やはり求愛をしてきた。
本能は、種を越えて遺伝子を保存しようとするのかと驚いた記憶があるのだけれど、もしかしたら彼の本能は生き物の性別のみで判断してそういう行動を取っているのかもしれないと思い、試しに近くにいた同じサークルの男子学生のそばに近づけてみたことがあった。
すると。男子学生のところへ行くと、求愛行動はぴたっと止まる。
けれど、私のところへ来ると、また求愛行動が始まる。
あの時も確か、その種を残そうとする本能に驚愕したものだったっけ。
あれから20年。
相手は犬からカブトムシに変わったけれど……
。
異種動物&生物でさえ、こちらの性別をちゃんと認識できているらしいということが、もう1度証明されたわけだ。
しかも双方が、昆虫vs人間だったとしても。爆
その後、好奇心を刺激されて、いろんなナゼナゼドウシテ?を調べてみたら、カブトムシの世界の生命のつなぎ方は結構壮絶なものがあるらしい。
生命をつなぐ間の致死率なんぞ、人間界の比ではなく、その過程で亡くなってしまうカブトムシも数多くいるとの話。
だからメスが亡くなってしまわぬよう、求愛行動をさせたあとは、オスとメスを引き離した方がいいという記述までgoogleに出てきた。
昆虫と人間は随分と離れた種に感じていたけれど、本家本元のところではそう違いがないってこと!?
飼い方にしたってそう。
オスとオスを容器に一緒にすると、相手を殺すまで喧嘩してしまうけれど、メス同士の喧嘩はそこまでひどくないから大丈夫、だとか。
先日訪ねたフィリピンで闘鶏を見た時にも、チラッと思った。
闘鶏の選手は鶏のオス。
試合前に相手を見て全身の毛を逆立てるくらいに興奮させられて、GO!
そして、足につけられたナイフで、徹底的に相手と戦う。
その様は、女性の私には厳し過ぎて直視していられないほど。
こういう話も聞いたことがある。
無人島にもし、男性複数人と女性1人が取り残されたら……。
その1人の女性の取り合いとなって、男性複数人で戦いが起きる。
けれどもし、その逆で女性複数人と男性1人が取り残されたら……。
いざこざは起こるけれども、最終的には穏便に全員で暮らす道を探る。
なんたる生命の魑魅魍魎……。
今回の事件でも、子どもも相当目を丸くしていたけれど、この私も彼の数倍は目を丸くした。笑
出来事を前にしてじっと考え入る5歳男児。
5歳男児「ビックリしたなあ、もう!」
私「本当に生命をつなごうとするエネルギーってすごいよねえ」
5歳男児「……じゃ、こいつとオレもライバルだな」
私「えっ!?」
どこまでいっても謎だらけの生命ミラクル。
今夏限りの命のカブトムシさんに、少しでもたくさんの楽しい夏の想い出ができますよう、人間の私は心よりお祈りしております。