ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2015-01-24 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
20年前にお世話になった人にご挨拶がしたくなり、ハワイへ行っていた。
(な、なんだ、この物価は??)
時は折しも急に円安に進んだこのご時世。
(け、けれど。このサンドイッチが2切れで600円? ハンバーガーとフライドポテトで1800円? 車を運転手さん付きで4時間レンタルして5万円? 空港の半分インスタントみたいなラーメンが1800円? リンゴ一個300円?)
お財布に円のお札はいくらか入ってはいたのだけれど、
それが国外に出てみれば、いつのまにか想像していたほどの価値がなくなっていたことに、ちょっとビックリしてしまった。
私が初めて海外に出たのは、1991年。
調べてみれば、1ドル130円-140円あたりをウロウロし、それからぐんぐん円高になる1995年に90円台になっている。
あの時はインドネシアへ行ったのだけれど、首都ジャカルタに降り立った時、若者たちの、外国へ寄せる熱い思いに、「20年くらいしたら日本は抜かされちゃうんじゃ?」という焦りを感じたのをよく覚えている。
ハワイには大学生の時にも1度訪ねたことがある。
確かあの時は「物価は東京と同じくらいなんだなあ」と思っていたように記憶している。のだけれど……。今のこの現象は、「はて?」。
為替は当時の方が円安+けれど物価は東京とほぼ一緒。
けれど今は、為替は当時より円高+なのに物価は総じて東京の物価の2倍〜3倍。
(為替の数字だけを切り取って判断すると、状況を読み間違えるんだなあ)
確かにハワイは米国の中でもトップ3に入る高い街。
とはいえ……「これはどーゆーことなのかしら??」
「よし、じゃ市バスに乗って旅をしよう!」
ひとたび華やかなワイキキの街を抜けると、いろんな人が乗車してきた。
見るからに、乗用車に乗る人たちとは、経済的立ち位置が違うという雰囲気。
料金、一回300円。市バスの出来は驚くほど簡素で、降車を知らせる呼び鈴は、長いステンレスの紐が横一本でぐるりと、段ボールを縛る紐のように張り巡らされているだけ。これをぐいっと引っ張ると、運転手さんにお知らせがいく。
(うっわあ……これが現在は“好景気”と言われる米国の、観光客向け繁華街を一歩抜けたところのゲンジツかあ……笑)
気にもならないのか、半分お尻を出したまま、乗ってくる人。
隠れたようにして、しのばせたタバコを車内で吸う人。
そのあたりで集めたらしい食べ物の残りを詰めた袋を引きずってくる人。
半分廃人のような感じで、眼を瞑り口を半開きにしたまま乗ってくる人。
日本の電車でだって、たまにはそういう光景を見ることはあるけれど……
「ここのは、ちょっと比率が高過ぎじゃない!?笑」
下手な観光よりもオモシロかった。実写版アダムスファミリーなんだもの。
バスの中には、監視カメラが3台設置されていた。
“Safety(安全)”のために設けられていると説明書きされているけれど、
そもそも“Safety(安全)”があればカメラは要らないわけだしなあ……。
市バスに揺られている間は、独特の緊張感があった。
だって、車内に鬼気迫る何かを持った人たちがあまりに多かったんだもの。笑
そこには、地元の、経済的に恵まれていない人たちの、刃を研ぎすませたかのような痛さがあった。
私はこれまで、どちらかというと途上国訪問が多かった。
市バスに揺られながら、その光景を思い起こしていた。
途上国の彼らだって、言うに及ばないくらい、大変なビンボーであることは、
けれど……なんて言えばいいんだろう。空気がまったく違う。
ビンボーなんだけれど、鬼気迫る&切れる痛さ、みたいな感じがなかった。
ビンボーなのに空気は柔らかいし、ビンボーなのに明るかった。
でもハワイのちょっと郊外のビンボー地区は、陰鬱な空気が漂っていた。
米国と言えば、世界経済を牽引する大国。
全体をならせば、世界の富の何%かを牛耳る人たちがいるために、トップクラスの力を誇っているはずなのに、あたしの目の前にある状況は違っていた。
ビンボーには、“大丈夫なビンボー”と、“ヤバイビンボー”がある。
大丈夫なビンボーは自給自足が可能なところにあり、本当にヤバイビンボーは自給自足が困難な社会に貨幣経済が浸透していった先にあるということを、ハワイの市バスが物語っていた。
最近、経済学者が言っているのを聞くことがある。
「GDPだけで国の成長率を測るのは限界にきている」
(ここでも、数字だけを切り取って判断しようとすると、実際の状況を読み違えちゃうんだなあ)
そんなこんなで、普段の日常の中にいたら考えないようなことを考えつつ、
あまりの物価高に降参し、コンドミニアムでの自炊生活がスタート。
ちょうど朝食を作ろうとしたら、ダンナさんが大騒ぎをしていた。
「おいおい、外にはいていくズボンがないよー!!」
うちのダンナさん、旅行に出ると大物をすぐにどこかに忘れてくる。
そして今回は、ビデオカメラとズボンを紛失。
「どーすりゃいいんだよー、パンツで日本に帰れないよー」
手元にあったのは、半分濡れた海水パンツ、のみ。すると次の瞬間。
ダンナどのは、フライパンを手に取り、IHコンロに置いた。
(え?)
瞬きする間もなく、海水パンツをフライパンに放り込むと、炒め始めた。
「おい、こら〜〜〜、早く乾け〜〜〜〜!!」
きゃーっはっはっはっは!フライパンでパンツ炒めてる人、初めて見た!笑
本人は至って大マジメ。
(だからねー。コンロで炒めれば水分が飛ぶっていうところだけ切り取って考えると、実際の解決策を読み違えちゃうんだからあ〜。爆)
「どう?乾いた?」
「コノヤロー!油臭くなっちまったよー」
「(うっしっしっし……)」
小さな旅だったけれど、いろんなこと考えた。
その中でたった一つ、間違いなく言えること。それは……
【2015年。ニッポンが“買い”】
世界一の質の商品を、世界一安く創りあげている、今の日本。
「この国に恩返しできるようにガンバロウ」。そんなことを思った未年の頭。
今年も一年、どうぞよろしくお願いします!