ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2008-02-21 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
先日、小学校6年生のクラスで授業をさせて頂いた。
なかなかゲンキいっぱいのクラスで、大人の私の目には可愛らしい子犬の集団に見えた。
すっかり遠くへ行ってしまった子供の時の感覚を自分の中から探し出すのに約30分。
むむむ・・・この辺のチャンネルかなとテンポがつかめてきた時に、やっとあどけない小学生たちはポンポン喋ってくれるようになった。
授業のテーマは、「違う人がたくさんいるから、楽しいんだ」。
大人向けの言葉で言うなら国際理解教育ってやつらしいけれど、先生がその言葉を黒板に書いても、みんなは「???」という顔。
それで私は一生懸命、世界中の「ヘンな人達」のお話をした。
パンツを履かないで、腰ミノをつけている人達のお話。
酔っぱらって川に飛び込み、ワニに食われちゃった人のお話。
牛の糞を集めて売っている人のお話。
ロバに乗って学校に登校する人のお話。
イモムシを食べている人のお話。
ドアのないトイレで、前後左右の人とおしゃべりをしながら用を足す人のお話。
などなど、私のアタマの中にある限りの情報で、世界の人々のお話をした。
一応国際理解教育だから、世界地図を指さしながらいろんなところの文化を紹介した。
一頻り話が済んだところで、みんなの顔を見渡して尋ねた。
「さあみんな、質問とかあるかな?」
そしたら、真面目な顔をした女の子が勢いよく手を挙げた。
「ハイ、なんでしょう?」
「シラカワさんは、いつケッコンするんですか?」
「(ケッ、ケッコン?)・・・・」
授業は折しも研究授業だったので、小学生のみんなの背後には市内から集まってきた50人あまりの先生達が私達のやりとりを参観していた。
一生懸命話した内容とあまりにも関連がない質問だったので、かなりうろたえた。
今まで大人の前で何回か話して、大抵来るであろう質問はある程度予測できた。
が、未だかつて、こんな難しい質問を受けたことはなかった。
おろおろする気持ちがバレないように、大声で返答した。
「ケッコン、ケッコー、コケコッコーだから、鶏が声で知らせてくれる時かな」
自分でも意味不明の回答をしたら、来ていた先生方にどわっと笑われた。
「ハイ、次の質問」
「シラカワさんは、カレシいますか?」
(またかーい・・・なにも公開研究授業でそんな質問をしなくても)
平静を装って答えた。
「いる時もあるし、逃げられちゃう時もあるし、大人の世界もみんなと一緒です」
女の子はとりあえず、満足げな顔をした。
「ハイ、次」
「シラカワさんは、アフリカ人と戦ったことはありますか?」
質問者は男の子。槍を持つマサイ族の写真からこういう質問に至ったらしい。
「世界中どこでも男の子は女の子には優しいもの。私は一応女の子だから、彼らも私とは戦おうとしません。彼らは槍は持っているけれど、あれはカッコツケのためだからね。その代わり、牛47頭上げるから結婚しようとか言われることがあります」
額の汗を拭いつつ、資料を見るように言った。
担任の先生が作ってくれた資料には、私の顔写真があった。当然写りの一番良いものを選んで、事前に先生に送ってあった。
資料をじっと見つめていた男の子が、目を丸くして私を見ると、大声で言った。
「あれぇ、顔が違う。老けた」
またどわっと参観中の先生方に笑われた。
給食の時間。
私も当番の人に御飯とワンタンスープをよそってもらって、みんなと一緒に食べた。
小さなふりかけがついていた。
けれど、普段あまりふりかけを食べない私は、それを残した。
そしたら私が一緒にいた班のみんなが、「ふりかけジャンケン」を始めた。
そういえば・・・私も小学生の頃。
欠席した人のソースをジャンケンで勝ち取ったことがあったなあ。
お小遣い月500円の小学生世界では、小さなパックに入ったソースが宝物だったのだ。
あれを学校の帰り道、チューチュー吸いながら帰ることに、どれだけ至福の喜びを感じていたことか。
「ふりかけジャンケン」に勝って、スティックをポケットにしまい込むリョウくんの横顔を見ながら、いつもよりも数百倍楽しくなる帰り道を想像した。
昼休み。
女の子達は私に流行りの歌を教えてくれた。
「ぶんぶんぶん。ハチがとぶ。おいけのまわりにお花がさいたら・・・」
毎度お馴染みの歌だけれど、彼女達はこう唱ってその技を競う。
「ぶるんぶるんぶるん。ハるチるがるとるぶるん。
おるいるけるのるまるわるりるにるおるはるなるがるさるいるたるらる、ぶるんぶるんぶるん、ハるチるがるとるぶるん!」
なんと馬鹿馬鹿しい!……けれどタノシイ。タノシすぎるでないの。彼女達の命令に従い、何度も練習した。
今度はカオリちゃんが耳元で囁いた。
「ねえ・・・シラカワさんは、うちのクラスのどの男の子が好き?」
6年2組の男の子は全部で14人。
でもその中のたった一人を指名するのは、平等主義という名のモラルを叩き込まれた大人としてはとても躊躇されることだった。
果たして正直に答えて良いものだろうか?指名されなかった男の子が傷つくのでは?
私の迷いなど無視するかのように、周囲に集まってきた女の子達が興味津々で私の答えを待っている。答えないといけないようなムードに迫られた。
「えっと・・・あの子・・・かなあ・・・」
ナイキのトレーナーを着ているクールな感じの男の子を指さした。
そしたら女の子達がキャーキャー言いながら叫んだ。
「やっぱりそうだ!彼はもてるグループで、このクラスで一番の人気」
私は大人なのに、12才の女の子達と好みがまったく一緒だという事実に愕然とした。
彼女達によれば、男の子選びに大事なのは、1・見た目 2・面白さ 3・優しさ。
中でも何より大切なのは、見た目だと堂々と公言する。
ちょっぴり羨ましかった。
そりゃ見た目が良ければなお結構。けれどその素直な気持ちを口にするのは、大人の世界だと憚られる何かがある。
彼女達はもてるグループをきちんと分類していた。
それが聞いて笑えた。
一つ、クール系。一つ、お笑い系。一つ、スポーツ系。
クラスの女の子達は、たいていこのどれかに趣向が決まっているとのこと。
「この子もシラカワさんが好きな子のこと、好きなんだよ。私はお笑い系だからカンケーないけど」
私の前に引っ張り出された女の子が、カオリちゃんの頭をひっぱたいた。
「アンタ、私のことばらしたでしょう?ひど~いぃ!ねえねえ、ばらしたでしょう?」
からかわれた女の子は、頬を赤くしながらカオリちゃんを追いかけ回している。
そりゃ、自分でナニナニ君のこと好きって大声で言ってりゃ、バラされるのは当たり前だっちゅうのに、自分で掘った穴に自分で落っこちることに喜びを感じる年頃なのねえ・・・。どうやら子供というのは天然の狂言師らしい。
国際理解教育=異文化理解教育の授業に呼ばれて小学校訪問をしたのだけれど、なにを隠そう、私の方が異文化理解教育をさせられた一日。
世の中を知った気分になっていても、実は足下のことほど、わかっていないのかもしれないなあ(苦笑)。。。
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子どもの発想ってのはいつも、世の中をうまく渡り歩くことに慣れたオトナ達に、ステキなインスピレーションを与えてくれるなあ。。。