ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2005-06-10 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
あたしはここ1年くらい、ずっと決断できずにモジモジしていたことがあった。
友達からは、「アンタは恐ろしく決断が早い!」とよく言われるのだけれど、自分のキャパぎりぎりのこととなれば、腕組みしながら頭を上下させながら、目を白くして、ぐるぐるとあてどもなく部屋を回遊する。
どうしようか……朝になるとやっぱりやろうと思い、夜になるとやっぱり止めようと思う。
その葛藤の中で、考え過ぎて脳みそが壊れそうになる。と同時に、『考え過ぎたことは結局ヒトはやらなくなる』というジンクスが頭の中で渦巻き、じゃ、考えるのをやめようと、ベッドに潜り込む。
そう……ちょうど1年半くらい前のことになる。
いろいろな事情が重なり、実家をなんとかしなくちゃいけない状態になった。
空箱に近い状態になった実家、要するに『活きていない』実家をそのまま放っておいたら、未来がないという状況が生まれてきた。
そして様々なそれを取り巻く関係者を考えると、それをなんとかするのはあたししかいないという状況。
あたしは今まで、マンションが買えるくらいの資金を旅につぎ込んで来た。
だから、それをなんとかしたくても、すぐになんとかできるほどの手持ちの資金がなかった。
じゃ、どうしよう……。
家はあるだけで、税金もかかるし、痛んでくるし、維持費もかかる。
旅行に邁進してきたあたしが、今も、今後も、それをただ黙って維持していけるだけの財力には欠くことは目に見えている。
“家”はもともと人のためのものだから、空箱に近い状態の家に命を吹き込んで再生させるには、やっぱり人が集う空間にしなくっちゃいけないよなあ……。
じゃ、貸すか?
近所の不動産屋さんを訪ねてまわったのだけれど、あんまりいい答えは戻ってこなかった。
『そのあたりはダブついているから、そのままの状態で借り手が現れるかどうか……』
だからといって、何千万という借金を背負ってアパートを作るにはリスクが大きすぎるし、そこで生まれ育ったあたしとしてもまだ使える家をそのために潰すのは、あまりにも忍びなかった。
友達に相談した。
『じゃ、君が前から言っていた、カフェ&ギャラリーをやっちゃえば?』
そっか!それは夢があるし、楽しそうだし、いいかもなあ……。
ちなみに実家は、東京の一番はずれの、しかも駅から15分もかかる閑静な住宅街にある。
あたしがそんなことを口走り始めた時、周りは反対しない人は誰もいなかった。
『あんな人通りがない、しかも駅から離れた場所でやるのは、ちょいと無謀じゃないかい?』
それはもっともなアドバイスだった。
あたしが逆の立場でもおそらくそう言ったと思う。
だから。
あたしはモジモジ、ウジウジと考えに考え続けていた。
じゃ、その代案があるか?それもなし。けれど、解決しなければいけないのだけは、目に見えている。
モジモジしたまま、4月にアフリカへ行った。
何もない大地で、さっぱりした気分でもう一度考えた。
(誰もが止めた方がいいと言ってくれることを、やる価値があるか?)
確かに。場所は悪い。
けれど。実家にはかなり素敵なお庭があった。
そして近くに大学があるから、大学生は結構通る。
二年ほど前まで最寄りの駅の駅前には、チェーン系の飲み屋さんは一軒もなかった。
それも需要がないと思われていたからなかったらしいのだけれど、できたらできたでまあまあお客さんも入っていた。ということはダメだと思われていることも、実は需要が自分が作っていくもの、という見方だってできる。
どうしようかなあ……。
もう一つ。重要なことがあった。
あたしの今の仕事は、メインがフォトエッセイスト業。それにカフェのオーナー業がくわわって、何か困ることはあるか? 特になし。というよりも、逆に、世界各国に直接行って仕入れて来たお酒やお菓子などを、置いて来訪してくれた人達と楽しめる広い場所があったらいいなと思っていたのは、事実だった。
じゃ、リスクは? お店にするためには、資金がかかる。
けれど、それも、今あたしが住んでいる家のように、また友達のアドバイスを聞きながら自力で作ってしまえば、おそらく業者さんにフルにお願いするのの5分の1くらいで済む、はず。
なんでそんなに怖がるのかな? 自分にきいた。
やったことがない分野だから、単純にコワイ。
それに、もちろん成功する確率だってあるけれど、同時に失敗する確率だって半分はある。
じゃ、失敗した時に失うものは? ……これが……ない。資金だけがリスクといえばリスクだけれど、そんなものは、自力でやって高級車一台買ったくらいで済むんだったら、そんなに悩む必要はないんじゃないか。
よくよく自分の気持ちを見つめてみると、自分にとってやったことがないことをやろうとしているところで、未知のものに対する恐怖心を抱いているだけなのかもしれなかった。
じゃ。もしやるとなったら。
4つの条件が必ず必要になるはずだった。
家のリノベーションを自力できる、健康なあたし。それと、お店にするためにアドバイスをしてくれる、経験ありの友達。あたしが自力でできない部分だけを話を聞いて協力してくれる工務店。そしてお店にした時にあたしが海外にいっている間も、常駐してマネージメントをしてくれるスタッフ。
考えてみたら、この4つのうち、3つは既に揃っていた。
アフリカの大地を見ながら、腹を括った。
決断に至る最後の瞬間、こう思った。
『例え、やって、失敗しても元に戻ればいいだけじゃん!!』
これまで世界各国を歩いてきたけれど、結局のところ“楽園”はどこかにあるものじゃなくて、自分が創っていくしかないということに気付いた時期も重なっているのかもしれなかった。
そんなわけで、おじいちゃんの代から続いて来た家の大改装が、仕事の合間をぬって始まった。
今、目指しているのは、“ガーデンテラス・カフェギャラリー”。
ひっそりとした住宅街に、いきなり場違い的に出没予定のお店。
大失敗する可能性だって秘めているんだけれど、もしそうなったらそうなったで、『いい経験になったなー』と自分を大笑いしてあげようと思っている。
思えば……。大陸横断バスの時だってそうだった。
最初の一回目は、大失敗。でもそれがその後のあたしの仕事を形作ったのだから、失敗して良かったと思う。
失敗するのがコワイと思っていたら、何もできない。けれど、失敗から何かを学ぶってことだって、きっとある。
そんなことを書きながら、コワさと戦って自分に発破をかけていることにハタと気付く今日この頃。
オープンの予定は、順調にいけば、来夏。
あたしの気持ちが前向きになってきたと同時に、これが不思議なことに周りの反応も変わって来た。
前は“ダメになる理由”を探してくれていた友達が、なぜか“成功する理由”を口にしてくれるようになった。
要は自分の気持ちの姿勢が前向きか後ろ向きかで、成功と失敗を分けるのかなあとも思ったり。
このコラムで、随時、その中間報告をしようと思っている。
実現できたら、是非、いらして下さい。
そして。失敗したら、大笑いをして下さい(笑)。