

ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2003-02-07 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
南米縦断バスは、チリ・パタゴニアまで南下してきた。
チリと言えば、南米大陸にある細長い国。縦は4600kmくらいあるというのに、横はたったの300km。棒のような形をした国に、いつも地図を見ながら、どうしてこんな形になってしまったのだろうと不思議に思っていたのだけれど、来てみて理由がわかった。

パタゴニアのプエルト・プユアピというフィヨルドで、釣りに挑戦。釣り道具は、「缶」に巻いた釣り糸だけ。
それでやり始めて20分、こんなに大きな魚が釣れると寒さも吹き飛ぶ。
地元のお兄さんが持っている魚は、コングリオと呼ばれている1m以上にもなる巨大魚。
スープにして体を温めるぞっと。↑Click
西側は海。でも東側はアンデス山脈。
海や川、渓谷や山という自然の壁が多くの国の国境を作ってきたけれど、ここもまた、アンデス山脈という巨大な壁が国の境を引いたらしい。
私達のバスは、エクアドルをスタートしてから、ペルー・ボリビアでアンデス山脈の山中に入り、それから海岸側に抜けてチリに入り、アンデス山脈に沿うようにして、山脈の東側を走り続けている。
12月、1月といえば、日本では真冬。でも私達は南半球をさらに南に下っているので、計算上は移動を続ければ続けるほど、真夏に入っていくことになる。
日本が真冬の寒さに震えている今、南半球のこちらは、夏真っ盛り。12月から3月までの短い夏を、地元の人はみな思う存分楽しんでいる。
日が落ちるのは、夜の10時近く。
そして町が活動を始めるのは、昼の12時過ぎ。
だから、レストランに7時に行ってもお客さんは誰もいなくて、盛り上がるのは夜の0時過ぎ。
ある日訪ねたレストランの週末の営業時間は、夜の21時から朝の5時。
日本でみんないそいそと家路に向かう時間が、こちらのナイトライフがスタートする時間。
日本で育った私からすれば、夜空に星が見えてきた頃に、友達と飲み会に繰り出すのが皮膚感覚の中に染みついているというのに、ここでは日本の昼の15時か16時くらいの明るさの中で仕事を終えて遊びに出掛けるのだから、私の時間感覚はいつも混乱をきたす。
まだ夕方16時くらいだろうと思って散歩を続けていると、もう夜の22時。
まだ夜の20時くらいだろうと思って地元の人たちと飲みながら、時計を見るともう夜中の2時。
だから一日が異常に長く感じられる。
夜の21時はまだ昼間の15時くらいの感覚でみんな活動をしているから、全くこちらの調子が狂ってしまうのだ。
調子が狂うといえば、真夏感覚の違いもそうだった。
日本がゼロ度近くの寒さでブルブル震えている今、南半球のこちらはとりあえず、夏真っ盛り。
と書くと、ギラギラした太陽と、その下で海水浴を楽しむ人々、冷たいビールなんぞが連想されるのだけれど、ここは違う。
私は今、厚手のセーターにダウンジャケットを着込み、寝袋に潜り込みながら、これを書いている。
夏。なのに、雨の日は吐く息が白いほどに寒い。
パタゴニアは、まともに立っていられないほどの強風が吹き付ける地域。
だから木も、風の向きに従ってひょろりと曲がってしまっているのだけれど、宿の窓の隙間から入ってくる風はフンボルト寒流の影響で日本の12月の風のように冷たい。
そしてパタゴニアは雨が多い。
真夏、だというのに、日本の梅雨のように冷たい雨がしとしとと降り続ける日も多い。
背中を丸めて町を歩いている人々は、暖炉が入っている喫茶店に吸い寄せられるように入っていき、毛糸の手袋に毛糸の帽子、そしてダウンジャケットを脱いでしばしの間くつろぐ。
これがパタゴニアの真夏。
町を見渡せば、パステルカラーに塗られた木造の家々の暖炉の煙突から、もくもくと煙が上がっている。
この光景は絶対に冬だ!と私の感覚は訴えるのに、やっぱりそれでもこちらは今、真夏、なのだ。
雪をかぶった山々がそびえ、氷河は真っ青な氷を海に湛え、湖に手を入れると凍りそうなくらいに冷たい。
外は今日も雨が降っている。
相変わらず吐く息は真っ白。
それでも「真夏」。人々は暖炉の周りに集まって手をかざしている。
地球には実にいろんな種類の夏があるんだなあと、氷河の氷をかじりながら思った次第……。