

ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2002-11-15 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
なんだか随分と自然派志向の人たちなのかなあ……。それが最初の印象だった。
市場へ行くとアロエやマーガレットの花、それに薬用人参みたいなものまでが山と積み上げられている。そしてスーパーマーケットでごくごく普通の紅茶を探すのだけれど、それがない。代わりにここではナントカハーブミックスみたいなお茶ばかりが、スーパーの陳列棚一列全てを埋め尽くすほど、揃えられている。

「南米版バイアグラ」は、超天然食材だけを使用した体に優しいオクスリなのだ。一杯約130円。↑Click
市場の生ジュース屋さんもなんとも健康的だった。もちろんコカコーラの類の炭酸飲料もあるのだけれど、人々はむしろそれよりもミキサーで絞りたての生ジュースを好んで飲んでいる模様。ずらりと並べられたガラスの器に彩り豊かなジュースが並べられ、人々は好みでそれらの中から二、三種類を選び、ミキサーにかけて撹拌したものを大ジョッキに入れてもらって美味しそうに飲んでいる。
その中に、興味深い看板を見つけた。
紙には落ち込んでいる人が、ハートマークを携えて元気になる、という図。これはもしや、スペイン語学校のガブリエラ先生が言っていた「南米版のバイアグラ」ではないかということに気付き、早速試してみることにした。
お店のおばさんは、生オレンジジュースをミキサーにドバッと入れると、その後ウィスキー少々、蜂蜜、それに黒砂糖の固まりを入れ、最後にうずらの卵を「殻のまま」入れた。そして最後に、私に目配せするように、焦げ茶色のねっとりした固まりをスプーンで取り上げた。
「それは何?」覚えたてのスペイン語で訊ねると、おばさんはココナツの形のような、メロンの形のような、茶色いぐちゃっと潰れた果実を私に見せた。味噌のようにとろけた果実の中には、白い種がいくつも見える。頭にはミカンのヘソのようなものがあり、周囲の皮付近は白っぽくフワフワした毛のようなものに包まれていた。
「何かな?」と顔を近づけた私は仰天した。びっしりと生えた毛は全部カビだった。異臭を通り越した酸っぱさが鼻を突き、刺激臭が眼の涙腺を刺激した。
そう、エクアドルで「元気が出る素」と言われている茶色い果物は完全に腐っていた。腐りすぎていて、ハエも近寄れないような状態だった。どうやら元は緑色をしているらしいのだけれど、すぐに腐る性質の果物で、名前はBOROJOというのだと。でも腐った後のエキスこそが人間に「元気を与えてくれる」効能があるらしく、これで特にお腹を壊すようなことはないというのだから、私はなんだか好奇心がそそられた。
飲んでみた。こってりしたジュースは、独特の苦みと酸っぱさが入り交じった大人の味。
すぐに体がほかほかと温かくなってきたのだけれど、これがBOROJOの効能か。いやそんなに早く効き目が現れるわけがない。これはきっとウィスキーのせいだ。
時々舌に交じるじゃりじゃりした卵の殻は、これもカルシウムになるんだと思って一気にごくりと呑み込んだ。
大ジョッキ一杯を飲み干せば、もう夕食はいらないくらいにお腹が一杯。栄養価はかなり高いような気がした。
他にも、お店にはいろんなジュースが並んでいた。トマトや人参、アルファルファ(グリーン野菜)からココナッツ、クランベリーまで。親切なお店のおばさんになると、相手の様子を聞き、それによって混ぜるジュースをどれにしたら良いかアドバイスしてくれるのだから、ちょっとした健康相談所、みたいなものなのかもしれない。
エクアドルには、今だにシャーマンだけに頼って生活している人も山奥に数多くいる。ごく普通の人々まで、このハーブは何によく効く、この果物とあの果物を一緒に食べると皮膚がつやつやになる、この花をこう煎じて飲むと、どういう病気に良く効くと、なんだかこちらがびっくりするくらいによく知っている。
さすがにインカ帝国以前からの歴史だなあ……。長年かけて培ってきた人間の知恵は凄いなあと、妙に感心してしまった。思えばジャガイモだって、唐辛子だって、南米が原産。ニンゲン達は今のように医療技術が発達していない時代でも、そうやって自然の産物をうまく利用してなんとか生き延びてきたのだ。
インディヘナの人々が培ってきた知恵が今なお生きる生ジュース屋さん。
ここを支配下に入れたスペイン人も、さぞかし彼らの知恵に助けられた部分は多かったんだろうなあ……。
首都キトにあるサンタクララ市場にその片鱗を見ながら、南米の歴史の重みをいたく感じさせられたのだった。
(次回に続く)