

ネパール留学中、大陸をまたぐ"国際路線バス"を企画立案。1994年『ユーラシア大陸横断バス』、1998年『アフリカ大陸縦断トラック』を実現。2002年には『南米大陸縦断バス』を実現予定。
2002-11-08 号
白川 由紀(紀行フォトエッセイスト)
ここへやってきて三週間ほどが経った。
本当は、エクアドルはこんなところというのを表現する簡単な一言が見つかればよいのだけれど、ここにいればいるほど雑多な人種と文化が入り交じっているのを見せられ、どうも歯痒い思いをしている。

左からPEPIYA、TUNA(サボテンの実)、そして一番のお気に入りPITAHAYA。
それぞれどれも一個50円ほど。↑Click
道を歩けば、東洋人的な顔立ちをした褐色のインディヘナの人々が山高帽に可愛らしいスカートで身を包んでいるのに出会い、昔はかなりいい暮らしをしていたことを感じさせるスペイン系白人の人々が高級スーパーに出入りするのを見、そして私が昔アフリカで出会ったような身長のある黒人系の人々が、今は強制労働ではなく普通のお店の店員をしているのに出会う。そんな風景の比較からいくと、自分がいた日本という国は、どちらかというとかなり統一色のある不思議な国なんだなあという認識を新たにする。
地理的に見ても、日本の3/4ほどの国土の国に、標高3000mのアンデスの町から、東部は熱帯雨林、そして西部は海岸地帯と、実に様々な気候帯がホールインワンになっているのにびっくりする。ここ首都のキトではスペイン語が使われているのだけれど、一度アマゾンの奥に足を向ければ、外界と接触を持たない民族がひっそりと暮らし、また山岳部の村を訪ねれば家族間の会話はケチュア語だというインディオの人々が生活し、港方面にいけば交易でしょっちゅう北米との間を行き来しているという国際性豊かな人々が商売を営んでいる。
ここのカルメンおばさんの話によれば、昔はスペイン人と現地住民の結婚は禁止されていたものの、そこはやっぱり人間のいる世界、この300年ほどの間にどんどん人種の交配が進み、昔は絶対的優位にたっていた白人という構図は完全に崩れ、メスティソ(白人とインディヘナの混血)という第三の文化を持つ人々がかなりの力を持っているらしい。私がアフリカにいた時には、白人社会と黒人社会の深い溝をよく感じたものだったけれど、どうやらここではもはや血のルーツを語ることはあまり重要なことではないらしく、人がメルティングポットになって融け合ってしまった後の不思議な開放感さえあるように感じる。
市場へ行った。エクアドルバナナで育った私は、バナナばかりがてんこ盛りになっているのだと思っていたら、実際は全く違った。私が一つのお店で数えただけで、果物の種類はざっと26種類。寒いところで採れるリンゴと南国のトロピカルフルーツが仲良く並んでいるのが、エクアドルの気候帯の豊かさを象徴しているようでとても楽しい。見たこともないフルーツ達を端から購入してみた。
ピンポン玉を楕円形にしたような不細工なフルーツ「TUNA」はサボテンの実。皮を剥くとまるでオクラを切った時のようにネバネバした液が長く伸び、オレンジ色の果肉が顔を出す。ぐちゅっとした実にブツブツと並ぶ固い種のまわりには図太い繊維が絡みつき、ちょうど干し柿にトロピカルな味を加えたような感じ。水分が少なく、果肉をしゃぶるように頂くサボテンの実は、ちょっといちじくにも似ているような……。標高の高い山肌にへばりつくように根をはってきたサボテンの実は、栄養がここにだけきゅっと詰まっている感じがして、ちょっとした高級菓子を食べているような食感だった。
次に挑戦してみたのは、PEPIYAと呼ばれるスイカに似た模様のフルーツ。スイカに似ているとはいっても、大きさは小ぶりのプリンスメロンほどで、つるつるっとした表皮。なんとなく固そうだったので、恐る恐るナイフを入れてみると、キュウリに包丁を入れた時のように刃がすーっと気持ちよく通る。そうか、ウリ科のフルーツなんだもんなあと思って口に含んでみたら、これが実に不思議な味がした。メロンとキュウリを足して二で割ったような味なのである。つまりプリンスメロンのようにあっさりとした甘みと一緒に、スズムシが喜びそうな青臭さが鼻の奥底にじわ〜んと広がるのだ。キュウリに蜂蜜をかけて食べるとメロンの味になるというけれど、メロンとキュウリを一緒に口に放り込むとこんな味になるんだろうなあというのを証明するような摩訶不思議な食べ物。ウリ科の実が大好きで、いつもメロンを皮まで食べるという人にならオススメだけれど、メロンとキュウリはやっぱり分けて食べたいと思う私には、2in1のPEPIYAは、どうもリンスinシャンプーと同類の気がして好きになれなかった。
そして。ここ一番の私のお気に入りは、PITAHAYAと言われる実に奇妙な見かけのフルーツ。SF映画に出てきそうな甲殻類系の身なりをしたPITAHAYAに、私はしばらくの間その感触を手に握って楽しんだ。棘とも言えぬ、ウロコとも言えぬ、にょきにょきした固い皮に実が守られているあたり、未知の昆虫を想像させ、ナイフを入れる手に思わず力が入る。えいっ。開けてみると、なんともジューシーな果実が姿を現したではないか。つぶつぶに散らばった種は歯触りのいいゴマのようでもあり、無色透明のゼリー状の実はプルルンと甘く艶めかしい。透明部分に筋状の白い繊維が縦横無尽に走っているのを見るのは、神様が熱帯地方に悪戯で作った芸術のようでもあった。ニンゲンも外見が怖い人ほど実は優しいと言うけれど、このフルーツはまさにそんな感じ。ねっとりとしているのに後に引かない甘さが極上のデザートを食べているようで、私はすっかりPITAHAYAの虜になってしまった。
他にも、市場のフルーツ達はみんな、甘い匂いを発して人々を惹きつけていた。リンゴにブドウ、桃にミカン、オレンジからイチゴ、クランベリー、ラズベリー、梨、パパイヤ、マンゴ、パイナップル、ココナツ。そして本場のバナナに至っては……料理用とそのまま食べる用、およそ数種類が並んでいたのだから、恐れ入った。
熱帯雨林アマゾンからアンデス山脈、海抜ゼロの海岸線まで、多種多様な地理を持つエクアドルという国。フルーツだけとってみても、その全部を説明できないほどの豊富さなのだから、メルティングポット文化の底の深さに思わず頭が垂れる……そんな場所が、エクアドルだ!と言えば、少しはわかってもらえるかなあ……。
(次回に続く)