2002-04-10 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
初めて海外旅行をしたのは10年前。クイズ番組の商品で当たったのが台湾旅行。
初めての海外、初めての台湾。そこで僕がもっともカルチャーショックを受けたもの、それは国立古宮博物院、世界中のVIPが会食する円山大飯店、ではなく、日本のどこにでもある『変當勞』(マクドナルド)だった。マックフライポテトが、なぜか割り箸くらいの長さなのだ。なんでこんなにポテロングなんだ? そして一口食べて、その長さの秘密が一挙氷解した。「こ、これは、サツマイ?!」。

そして、さらに驚いたのが、マクドナルドの周りをぐるりと囲む屋台。どれも屋台のハンバーガー屋だ。ハンバーガーショップの四周をハンバーガーの屋台が囲んでいるとは、なんとシュールな光景。屋台のおっさんが鉄板で焼くハンバーガーは、見た目こそ小汚いが、値段が安く、アツアツの手製ミートパテから肉汁がしたたり落ち、それはそれはンマかった。そして、そのンマさは外資本を庶民が駆逐してゆくおそるべきバイタリティを、僕の喉に舌に叩きつけるように知らしめた。
2回目の海外旅行はハワイだった。ハワイでもっとも強く印象に残っている光景。これもまた、老朽化したビルが建ち並ぶコワめの街のはずれにあったマクドナルド。店員が接客中にもかかわらずガムを噛んでいる。マクドナルドといえば「スマイル0円」。そして店員はみな「タダのもんなんぞ、誰がくれてやるもんか」とばかりに、こっちが笑ってしまうくらい徹底して無愛想だった。トイレが壊れていて店内中に異臭を放っていたが、誰もそれを直そうとしない。そんな荒れ果てた空間で食べるハンバーガーは、厚ぼったく武骨で包装も雑で、そして意外にも絶品だった。ハンバーガーが本来ヤンキー・カルチャーのものであることを改めて教えられた。
わざわざ外国へ行って、わざわざマクドナルドに感動してるなんて、バカ? と思われるだろう。しかし、その国の文化、人々の考え方を知るには世界中どこにでもあるもので比較するほうがわかりよいのかもしれない。こう考える人は、実は僕だけではないのだ。
『ビッグマックプリーズ!!』は、世界20ケ国を旅して比較文化論を実践する小屋一平さんが、世界中のマクドナルドを食べ歩いた奇特な(モノズキな)文化紀行書。
いやいや、「世界のどこで食べても同じ味」を供することをモットーとするマクドナルドなハズなのに、お国柄を反映して、メニュー、接客がこうも違うとは!
韓国では豚ミンチのプルコギ(焼き肉ふう)バーガーがあり、これはのちに「豚肉はプルコギとは言わない!」と韓国の公正取引委員会が是正を求める騒ぎが起きた。日本でも一時期「牛なべバーガー」という商品があったが「パンではさんで、どこが牛なべなんだ!」と怒った人などいない。独自の食文化を大切にする韓国ならではのエピソードである。そしてフランスでは、なんと店内で食べるとサービス税が加算され値段が高くなる。これもまたカフェでの会話で文化を成熟させてきたフランスならでは。
ほかにもビールやガスパッチョ(冷たい野菜スープ)が当たり前にメニューにあるスペイン、鶏肉メニューの充実したインドネシアやタイ、青唐辛子たっぷりのハラペーニョが調味料として駆使されたメキシコ。そして極めつけはインドとロシアだ。牛肉どころか宗派によっては肉食そのものが禁じられているインドと、共産圏ロシアに突如現れた自由主義経済のシンボルとも言えるマクドナルド、果たしてどんなことが待ち受けているのか! ……それは、この本を読んでいただくことにしよう。かなりビックリしますから。
その国の文化を、あえて珍しくもないファーストフードチェーンで知る。酔狂なことに見えるしれないが、食文化とはワールドスタンダードをもぐらつかせるほど深く、アツいものだということを、こういう方法で知ることもできるのだな。
と、日本で月見バーガーやテリヤキバーガーを頬張りながら感心する次第。