2002-01-09 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
いまの高校生にとって、漫画家の本宮ひろ志って、いったいどういう存在なのだろう。自分たちよりずっと上の世代のサラリーマンが読む漫画家?(実際、氏の目下のヒット作は『サラリーマン金太郎』だ)それとも人気も出ないのにひたすら三国志などの歴史漫画を描く作家?皆さんの目に氏がどういうふうに映っているのか、ひじょうに興味がある。
僕の小学生時分を振り返ると、週刊漫画雑誌は『少年マガジン』と『少年サンデー』の2誌のみがメジャーで、後続する『少年ジャンプ』『少年チャンピオン』、そして今は亡き『少年キング』の3誌は、かなりマイナーな存在だった。なかでも『少年ジャンプ』のマイナーぶりは極端に抜きんでていた。
有名な漫画家がひとりもいない。絵も汚く、内容も下品。どれもこれも学級新聞の連載漫画レベル。僕は食堂に行って、店に置いてあるマンガを読むのが大好きな小学生だったが、少年ジャンプだけは読まなかった。メシがマズくなるからである。
特に本宮ひろ志という新人漫画家の『男一匹ガキ大将』という作品は受けつけなかった。荒々しすぎる描線。暴力シーンの連続。直上的な上昇指向。全国の番長に喧嘩を売り、最後に敵が10万人にまで膨れ上がるという「ありえなさ」。そもそも「番長」ってなんだよ。うちの学校に、そんな奴ぁいねえよ! とにかく体質的に受けつけなかった。そして、そんな漫画が載ってる少年ジャンプも大嫌いだった。
ところが、中学生時代にフト手に取った『月刊少年ジャンプ』の『硬派銀次郎』を読んで、印象が一転。『男一匹〜』で全国制覇を目指した戸川万吉と違い、銀次郎は単なるいち中学校のチビの暴れん坊。月刊連載ということもあってか季節感がふんだんに盛り込まれ、なにより下町情緒がある。主人公がひとり暮らしをしているため孤独を知っている。本人は硬派を謳っているのに、世話焼きの女の子に追いかけまわされるという設定が愛らしい。エピソードも感情移入しやすい秀逸な人情話ばかり。
「銀次郎みたいな同級生がいたら、楽しいだろうな」。そう思った。
「あれ、俺、本宮ひろ志、好きかも」。本宮ひろ志って、こんなに情感の豊かな作家だったっけ。食わず嫌いしていた僕はコミックスで『男一匹〜』も読み返してみた。すると、これが面白い! 小学生時分には汚いだけに見えた画風だったが、中学生になって読み返すと、ホワイト(白絵の具)を吹きつけて迫力を出したり、登場人物が叫ぶ時に口が異様に大きくなるなどなど、今では定番な技法が、この漫画で初めて試されていたことがわかる。実に画期的な作品だったのだ。絵が汚いなんて思っていたのは、新しいムーブメントを許容できなかった僕の方に問題があった。マイナーだった少年ジャンプを大メジャーに牽引した理由は、充分すぎるほどあったのに気がつかなかった。

それに、内容がとてもいい。タイトルにある『男一匹』の「一匹」にある寂しさ、やりきれなさが後になってようやくわかった。戸川万吉の明日をも知れず喧嘩に明け暮れる日々は、上昇指向どころか自滅指向だ。それにやっと気がついた。どこに向かって走っているのかもわからず、やみくもに目前の敵と戦い続ける戸川万吉は、いわゆる「思春期」と呼ばれる不安といらだちで一杯の季節を迎えんとする僕に、シンパシーを感じさせてならなかった。
不思議だった。『男一匹〜』の戸川万吉は、孤独がゆえに喧嘩によって連帯を求めた。方や『硬派銀次郎』は、誰とも徒党を組まず、自立を求めた。銀次郎は実は争いを好まず、本当は静かに暮らしたかっただけだ。もしも、このふたつの漫画が合体したら、果たして銀次郎は戸川万吉の軍門に下ることがあっただろうか。あるいは敵対しただろうか。おそらく、どちらも「自分とは世界が違う」と意にも介さなかったにちがいない。同じ不良を描きながら、このふたつの作品の世界は対極にあるのだ。いったい作者の本宮ひろ志に、どういった心境の変化があったのだろう。
そして遂に、作者自身の口から作品の裏話が語られることになった。氏の自叙伝&セルフ作品解説『天然まんが家』だ。
連載中に猛烈な失恋を経験し、精神に支障をきたす状態で荒れ狂いながら描いた『男一匹〜』(しかも編集部に無断で最終回原稿を描き、失踪!)。そして、結婚後に奥さんである少女漫画家のもりたじゅんさんと供作していた『硬派銀次郎』。あまりにも作品が描かれていた状況が違っていたのだ。僕らは本宮ひろ志の等身大の人生をすでに漫画で味わっていた。ふたりの魅力的な主人公は、すべて氏の歴史の中でつながっていたわけだ。
僕らは作家の青春をリアルタイムで味わっていた、これは幸福なこと。それだけではない。お色気満載の『俺の空』執筆時には浮気に明け暮れ、お色気ナシの『サラリーマン金太郎』の現在は、再び「漫画」に振り返っている。なんて「天然」な、ウソのつけない作家だろう。
この本、娘さんのayumiさんの挿画もとてもイイので、こちらも見どころである。
<NEWS>
●吉村智樹事務所プレゼンツ・イベント
『生でVOWでんがな! 路上観察で初詣』
毎年恒例の爆笑!!路上観察スライド上映会。来年はいきなり1月の決行します!
『VOWでんがな』(宝島社)を彩ったアノ写真コノ写真が、すべてカラー&生トークで甦る。
新作多数、ヴィンテージ傑作選、電波系ルポなど200枚以上の写真を連続写撃で連続笑殺。
今回はいつもと違い写真持ち込みの飛び入り大歓迎。
笑いを誘ったVOWネタにはプレゼント進呈。
初笑いはVOWでどうぞ。
日時:1月10日(木)
開場 夜6時半 開演 夜7時半
出演:吉村智樹 他
場所:新宿 歌舞伎町 「ロフトプラスワン」
歌舞伎町1−14−7 林ビルB2
(JR新宿駅から徒歩4分。新宿コマ劇場横)
入場料:無料! (但し飲食は別途)
問い合わせ:03−3205−6864 同店
皆さん、来てな〜
Eメール:tomoki@mri.biglobe.ne.jp
掲示板:http://hc.iruka.ne.jp/cgi-bin/n1/iruka.cgi?06243