2001-09-19 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
あんまり勉強してなかったのにテストの点数が思いのほか良かった! 好きだった女の子がお付き合いをOKしてくれた! 跳び箱8段飛べた! 喜び勇んで家に帰ったら「痛!」、思わずタンスの角で小指をぶつけてしまった……あのなんとも言えないみじめな痛み。それまではしゃいでいた気持ちが水泡に帰してしまうあのガッカリ感、なんなんだろう、あの「悲しいとき」は。
「悲しいとき」は、ふいにやって来る。バイトでクタクタになり、さぁ帰ろうと自転車に乗ったらパンクしてたときの無常感。電車の中で服を裏返しに着ているのに気付いたのに、今さら降りることもできない焦燥感。牛乳を飲もうとしてパックを開けたら、誤って反対側を開いてしまい、牛乳がピシャっと顔にかかったときの侘しさ。修学旅行バスの席順で、隣の席に決まった女子が露骨にイヤな顔をしたときの孤独感。美容室で「木村拓哉みたいな髪型にしてくれ」って言ったのに、木村太郎みたいなコッテリしたヘアスタイルにされてしまったときの後戻りできない情けなさ。嗚呼、悲しいなぁ。
僕も最近「悲しいとき」があった。真夜中、事務所で仕事をしていたら、ものすごくお腹が減ってきた。けっこう遠いところにあるコンビニで美味しそうなカレーを見つけたので、レンジで温めてもらった。事務所に戻ってホカホカのカレーを「さー食べよー」と思ったら、備えつけのプラスチックスプーンまでホカホカに溶けてて、仕方なく事務所にあった割り箸でカレーを食べた。あのカレーは人生の味がした……。

『悲しいとき』は、そんな生活の些細な悲しさを、見ているだけで涙が出てくる情けないイラストとともに列挙した悲しさカタログ。著者はお笑いコンビの「いつもここから」。ミルクコーヒーのCMで「がぶ飲みしたいとき〜」と叫んでいた、あのふたりだ。
悲しいとき 「仲がいいと思っていた友達がほかの人と班を組んだとき」「学校を休んだ次の日、何で昨日休んだのって誰も聞いてくれなかったとき」「家に遊びに来た友達がじゅうたんで手を拭いているのを見たとき」「一緒に遊んでいる友達が、あくびを我慢しているのを見たとき」「スーパーのお菓子売り場に刺し身が置いてあったとき」。うわー、悲しい悲しい。悲しいよー!
この本に並んだ悲しさは、ほんとうに些細なことばかりだけど、人間は心にヒダがたくさんある人ほど、いろんなことが悲しい。だから「悲しい」と感じることはとても大事で、悲しいどころか喜ぶべきことなんだ、きっと。この本は感受性の試験紙。
試してみてはいかが?