2001-08-29 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
みんな自分専用の部屋、ありますか? 僕は団地育ち。狭い家に家族4人で暮らしていたから勉強部屋は弟と共同だった。部屋にはベランダがあり、洗濯物を干したり取り込んだり、鉢植えの水やりなどするため頻繁に母親が通る。夏休みの宿題もせずに漫画をむさぼり読んでる姿をぜんぶ見られてしまう。「引きこもり」たい盛りの時期、家の中で落ちつける場所はトイレのなかだけだった。
しかし今こうして高校時代にあれほど夢見たひとり暮らし生活を手に入れたのに(恥ずかしながら僕はバツイチ)「部屋に誰もいない」ことの寂しさにうちひしがれているのだから皮肉なもの。家族がひとつ屋根の下で暮らすのは、時にウザいけど、やはり素晴らしいことだ。そしてこの本に出会って、さらに家族という集いの温かみと、今の自分の暮らしの寒さを改めて噛みしめざるをえなかった。

その本とは『9坪ハウス狂騒曲』。たった9坪!(29.7平方メートル)という驚異的に狭いせまーい家を建て、そこで暮らす4人家族のセルフリポートである。
著者の萩原百合さんは、アパート暮らしのごく平凡な主婦だった。広いリビングのある一軒家に引っ越したい。娘さんふたりも思春期にさしかかるので個別の勉強部屋を与えたい、と考えていた。ところが!
旦那さんが突然「家を建てたい」と言い出した。喜んだのも束の間、その家というのがこれまた突拍子もないもの。物資の乏しい戦後間もなく建てられた、たった9坪のシンプル極まりない家「増沢邸」。建築展でこの家を見た旦那さんが惚れ込んでしまったのである。9坪といえばアパートより狭い。そもそも増沢邸は書斎として造られたもので生活の場ではない。モチロン著者の萩原さんは猛反対。しかし目を輝かせっぱなしの旦那さんを前に遂に折れ、前代未聞の9坪ハウス建築のため、まさに「狂騒曲」の日々を送ることに。
できた家は固定概念を覆しまくり。まず家を囲む塀がない。そのうえ玄関がない!(窓から出入りする)。収納できないため雨戸もない。個人の部屋など当然ありえず、2階に家族4人の机がズラリ一列に並ぶのみ。
ところが、これがとても楽しそうなのだ。塀がないので、窓から見渡す風景のすべてが自分の家だ。そして子供部屋が与えられなかった娘さんたちは、それぞれの方法でプライバシーを確保。家族が「自治」してゆくので「与えられない」という不満が出ない。
タイムマシンに乗って「家が狭い」と文句ばかり言って自分では何もしなかった高校時代の僕に読ませたい気持ちでいっぱいだ。