2001-08-08 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
駅の名前は面白い。僕の住んでる東京にも魅力的な駅名がたくさんある。
一番好きなのが都営三田線の「蓮根」駅。「れ、れんこんーッ?」、駅名がいきなり野菜の名前なので驚いたが、さにあらず。これは「はすね」と読む。大字上蓮沼と根葉という地名が合体して「蓮根」になったのだ。しかし由来を知らなければ、誰しも頭の中に「♪穴のあいたレンコンさん」が頭に浮かぶわけで、なんとも素朴でいいじゃないか。せっかくだから「人参」だとか「大根」「馬鈴薯」「戸的」「部六個里伊」なんてベジタブル駅名をずらりと並べてほしかったな。
ほかにも、ちょっと意味シンな「恋ケ窪」、なにやらワケがありそうな「軍畑(いくさばた)」、カタギになるのか「洗足」、なんかカワイイ「鳩ノ巣」(お隣の埼玉に入ると「御花畑」というこれまたおメルヘンな駅名も)、思わず入学願書を出したくなる「学芸大学」「都立大学」(実はそこにはそんな大学はない)、東京に居ながらにして異国情緒が味わえる「東長崎」などなど、東京ひとつ取ってもストレンジな駅名は多々ある。「普段は何の気なしに利用している駅だけど、言われてみればそうだな」と思ったでしょ? 駅は単なる電車の乗降口にはとどまらない。想像の始発駅なのだ。ぼんやりプラットホームに立っているのがもったいないな。
東京ですらこうなのだから、アイヌ語を漢字に当てはめた北海道の駅名など、由来以前に正確に読むことすらかなわない。「雄信内(おのっぷない)」「占冠(しむかっぷ)」「安足間(あんたろま)」などなど、駅名がそのまま、その土地の地理や歴史を知るキーワードになっている。この夏に北海道旅行を計画されている方は、ぜひ「駅名探索」も旅の目的のひとつに加えてみてはいかがだろう。

『駅名の謎』は、こういった難読駅名から、さらに深く「新宿西口」駅の「口」って何? という言われなきゃ気が付かない疑問にまで踏み込んだ「駅名ミステリー」とも呼ぶべきスリル溢れる本。他都市では「新大阪」「新横浜」など“新”を頭につけるのに、北陸地方だけ「金山新」のように下に付けるのはなぜか。阪急と阪神のふたつの「御影」駅にまつわる血で血を洗うような攻防戦など、駅名にひそむ人間模様に溜め息つかせられる。
日本で一番好きな駅名は、島根県の「湖遊館新駅」駅だ。北陸独特の“おしりに新”も入っているうえに、駅名の中にすでに「駅」という字が入っている。実に味わい深い(ていうかヤヤコシイ)。逆に「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅のように“日本一長い駅名狙いの駅”は、あんまり好きじゃないな。