2001-07-11 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
暑ッいですね、しかし。皆さん、いかがおすごしですか。僕はもう夏バテと夏風邪のW攻撃でへろんへろん。ずるずる(コンビニで買った冷やしうどんを食べる音)、ズルズル(鼻水をすする音)。「こんな瞼を持ち上げるだけでもやっとな茹だるような熱帯夜に本なんか読んでられっか」。お怒り、ごもっとも。でも暑い日こそアツアツに煮えたチゲ鍋が身体にいいように、熱気溢れる本を読んで気力を注入するというテもありますよ。そこでお薦めなのが、書名もいかにもアツ苦しい『男気万字固め』。

これは、俳優の山城新伍、元ボクシング世界ライト級チャンピオンで現俳優(!)のガッツ石松、プロ野球史上初の3000本安打を達成した現野球評論家の張本勲、音楽科の小林亜星、漫画(劇画)家のさいとう・たかを、という個性漲るオッサンたちをたっぷり質問攻めにした脂ギッシュな一冊。
5人ともそれぞれの世界で一時代を築いた人々だけあって回答も豪快極まりない。「英雄色を好む」というが、当然エッチな話や学生時代にワルをしたエピソードの数々が噴出。それらは「高校生向けの書評欄で紹介してよいのか。教育上どーなんだ」と突き上げ食らいそうなほど強烈。イケナイと思いつつも爆笑してしまう逸話満載だ。が、そうやって修羅場をくぐり抜けてきた男たちが皆、思わず膝を打つ素敵なアイデアを導き出していることをこそ読みとっていただきたい。
ここでは『ゴルゴ13』で知られる漫画家のさいとう・たかお氏の項を紹介しよう。さいとう氏は戦後の紙がない時代に、どうしても絵が描きたくて、砲弾を包む白い紙を拾いに進駐軍の倉庫までほふく前進で通ったというほど根っからの漫画少年。だが同世代の漫画家では唯一、手塚治虫の絵柄の影響をまったく受けていなかった。それどころか手塚調の丸い絵一辺倒の時代にデビューし「時流に合わせて描くのに苦労した」そう(誤解なきように言っておくと、さいとう氏は手塚治虫を尊敬している)。つまりさいとうさんは「誰にも影響を受けていない、自分の中から沸き上がる絵」がすでにあったのである。
その後さいとう氏は漫画界初の「合作制」を導入。アイデアを考える人、マシンを描くのがうまい人、動物を描く人など分担して一本の漫画を作る工房を作った。誰しも得手不得手がある。どこか欠けていても、何かに秀でた人が集まれば、きっと良いものができる。それを「個性」と呼ぶのでは、と考えたのだ。
僕はこれは素晴らしいことだと思う。何事にも、たとえ中庸であってもまんべんなくクリアすることを求めようとする現代。それはつまり「個性を殺す」ということなのだから。