2001-06-27 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
僕は仕事に煮詰まると銭湯に行く。銭湯、大好きなんだ〜。
広々とした浴槽。換気口から降り注ぐやわらかな外光。コーン、カーンと響き渡る「ケロリン桶」のぶつかる音。ひたひたの熱ッいお湯に、顔を真っ赤っ赤にしてつかったあと脱衣場ですごすけだる〜い解放感。湯気でしわくちゃになった漫画を読みながら、聴こえてくるテレビの大相撲中継。小さな中庭からそよぐ夕方の風。なぜか腰に手を当てて飲んでしまう瓶入りコーヒー牛乳のうまさ。どれもこれもおもむきがあってエエもんです。家風呂ではこうはいきませんよ旦那。
僕が東京は杉並区高円寺に事務所を選んだのも、街に銭湯が異様に多いから。唐破風の屋根に富士山のペンキ絵なんてレトロなものもあれば、最近はやりの「スーパー銭湯」と呼ばれるサウナ、ジャグジー、露天風呂、果てはプールまで完備している一大アミューズメント風呂もある。「牛乳風呂」がウリの美容にいいお店もある。僕なんかに美容の効果があってもしょーがないんだが、その日の「煮詰まり方」にしたがって、気分で使い分けている(で、リフレッシュしすぎて結局その日は原稿書かなかったりするんだケド)。
とはいえここ10年間、年平均60軒もの銭湯が廃業している。かつてピーク期には2678軒あった銭湯は、現在はその半分以下の1300軒。大阪では年間40〜50軒が廃業し、現在約1200軒。経営不振や店主の高齢化、広い敷地を持つあまりマンションに建て替えられてしまうなど様々な要因があるんだけど、こりゃモッタイナイ。清潔なお湯が贅沢に溢れ、たった400円たらずで身体や心の垢が洗い流せる気分サッパリ施設が街の至る所にあるなんて、日本だけなのに。

TBS報道制作局ディレクターであり、「自転車ツーキニスト(自転車通勤愛好家)」として知られる疋田智さんの『銭湯の時間』は、自転車徘徊でめぐり合った東京の珍しい銭湯を紹介したエッセイ。オッシャレ〜な南青山にぽっこり現れる銭湯、東京湾岸の本物の温泉が沸く銭湯(お湯は真っ黒ケ)、築70年という勇壮な建築の超老舗銭湯など、街のくぼみに隠れたパラダイスをレビュー。湯舟の中で浮かんでくるほろ苦い青春時代の回想も、湯気のようにゆらゆら、泡のように浮かんでははかなく消え、そのたよんない文体も実に銭湯ムード。銭湯博士の町田忍さんの解説も楽しくてタメになる。
さぁ、これ読んで、ひとっ風呂浴びて、明日に向かって銭湯、いや戦闘開始だ!