2001-06-20 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
いま「少年法」が揺れ動いている。未成年者たちの凶悪犯罪が、あまりにもたて続けに起きるからだ。「欧米のように12歳以上は実名報道し、成年と同じ刑罰を与えるべきだ」。そんな声が盛んになってきている。
しかし、だからこそ冷静にならねば。少年法改正派も、「未来ある少年たちはおしなべて保護されるべき」という人権擁護派も、どちらも今こそ冷静にならなければならない。
昨年6月に、ひじょうに奇妙な少年犯罪が起きた。「岡山・金属バット母親殺害事件」だ。実の母親を金属バットで殴り殺したこの17歳の少年は、その後、自転車で逃走。10日以上経って、なんと1200キロ(!)も離れた秋田県で保護された。なぜこんなに長い逃走時間と経路がありながら彼は捕まらなかったか。それは少年法あるがゆえ指名手配できなかったからだ。名前も顔の特徴も伝えられないため新聞やテレビは彼が乗っていた自転車の種類を伝え続けた。自転車の写真ばっかりニュース番組に映されるという、なんだかよくわからない報道である。秋田で保護された彼の所持品は、ほとんど手をつけていない逃走資金と、鞄いっぱいのポケモンカード。少年というより、まるで子供だ。それにしても、たった10日あまりで岡山から秋田まで自転車で走破したとは。殺人さえ犯していなければ、いっそ美談である……。
彼の母親はしつけに厳しかったが、決して教育ママではなかった。一家はとても仲が良く、家族がもめている光景を見た人は誰もいない。代々続く農家で育った彼は、収穫の手伝いも率先してやった。なぜ、こんなことになったのか、誰にもわからない。そして地元では実の母親を殺したとんでもない事件の容疑者としては異例ともいえる「嘆願署名」をし、刑期を終えた彼を温かく迎え見守ろうと申し合わせた。少年法あるがゆえに保護が遅れ、未来あるべき少年だからこそ地元の人々が彼の更生を助けようとする。少年法が抱える二律背反が、みごとに対峙した事件だった。

社会派ロッカー泉谷しげるが事件の現場に足を踏み入れ、関係者に話を聞いた熱血ルポルタージュ『とぎすまされた六感』は、栃木で起きた悽惨なリンチ事件と、この岡山の事件のふたつを相対させている(泉谷は岡山の少年が走った経路を自分も自転車で走行! 途中でバテる)。ただ年齢が未成年であるという以外は凶悪なヤクザの手口となんら変わりない栃木の事件と、あきらかに「少年期の過ち」である岡山の事件が同じ法でくくられる矛盾を、この本はズバズバ解明してゆく。
少年法は、あるべきだ。しかしそれは容疑者が「本当に少年なのか」を見極めたうえでのハナシである。