2001-06-06 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
あるひとりの平凡な女の子がいた。多くの人がそうするように、彼女は大学を卒業して、OLになり、ルーチンな日々を送っていた。
ところがある日、彼女は突如「脳みそがガツンと殴られるような体験がしたい」という想いが頭に渦巻きはじめ、会社を辞めた。そして大胆にもユーラシア大陸をバスで横断。続いてトルコから南アフリカまで14ケ国をトラックで縦断してしまうのだ!
白川由紀31歳。彼女の今の肩書きは、およそ国内では類を見ない女性「大陸横断家」。
そんな彼女の初の紀行フォトエッセイ集『世界ノホホン珍商売』は、タイトルのほんわか加減に反して埃と泥と汗と畜糞にまみれた過激かつ爆笑の騒動記。全編ニオってくる。

バンコクでは自分の体重ほどあるニシキヘビを身体に巻つけられ見せ物料をせびられ、トルコではレンタカーならぬワガママな「レンタロバ」にもて遊ばれ、イランでは車にガソリンを入れるためだけに3日間もの行列に巻き込まれ、ナミビアでは「美容のため」と内容物不明な泥を身体中に塗られ全身が腫れ上がる。ウイグルでは「雑巾のようなものが浮いた野良猫100万匹の匂いがするスープ」を飲まされるし、インドではネズミを崇拝する寺院で膨大な数のネズミに囲まれた。読んでいて「この人、病気にならないのか」と心配になるが、そういった環境に順応するうち、無菌状態の日本に帰ってくると、あまりの息苦しさに下痢をするようになったという。
この本はタイトルが「珍商売」になっているが、実際はほとんど物乞いとの出会いの記録である。完全に猿になりきって観光客から金を集めるサル男。突然「耳掃除をさせてくれ」と詰め寄る男。これ以上ないほど悲痛な顔でお金が欲しいと懇願し、もらった途端に涼しい顔になる修行僧。世界は物乞いと珍商売のギリギリの境界で生きる人々で溢れている。なかにはタチの悪い詐欺同然の者もいる。
しかし彼女は物乞いたちを「かわいそう」だなんて決して考えない。彼らを「生きることのプロフェッショナル」であると心から尊敬し、自らそうありたいと考える。
読後、ふと思った。生きるということは、すなわち「売って暮らす」ということだ。時にそれは珍奇な芸や技術や話術。地球は、他人に一瞬でも喜んでもらえる「売れるもの」がある人間しか生き残れない。いま私たちに「私のこれ、ここを買っていただきたい!」と胸張って言えるものがあるだろうか。