2001-05-30 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
僕らライターの世界には、以前はミュージシャンやアイドルだった人がたくさんいる。
たとえば黒田利博さんは元ウルフルズのジョン・B・チョッパー。音楽ライターの島田奈央子さんは、超人気アイドルの島田奈美。おニャン子クラブの吉沢秋絵さんも一時期インテリア・ライターをやっていたな。
しかし、逆にライターからミュージシャン・俳優に転身して成功した人は、ひとりしかいない。哀川翔だ。映画やVシネマなど、気合い入りまくりのヤクザ役で人気の高い哀川翔がデスクワークをやっていたなんて意外!
哀川翔は80年代、女子高生のバイブルと呼ばれた『ポップティーン』を大部数にのしあげた立役者のひとり。そして彼は、この仕事をきっかけに伝説の原宿ストリートパフォーマンス集団『一世風靡』の旗揚げに参加することになる。そんな哀川翔が語りおろした『俺、不良品』は、往時の東京に勃発した数々のアツいシーンを振り返る青春グラフィティ。読んでいてワクワク胸が踊る、自分も何かはじめたくてたまらなくなる起爆剤だ。
鹿児島で生まれ育った哀川翔は、体育教師を目指すも担任の手違いで推薦入学を受けられず、茫然自失のまま上京。友人の勧めで出版社に出入りするようになった彼は、まったく未経験ながらライターの仕事をはじめる。
高校時代、不良でならした彼の文体は、今で言う「ストリート感覚」に溢れたスリリングなもので、メキメキ頭角を現す。当時の彼は、見る人がのけぞる大砲のような巨大なリーゼント(単に散髪に行くお金がなかったからなのだが)。新宿を縄張りにしていたリーゼント族からも一目置かれる存在だった。

ある日、哀川は取材で「原宿を若者の街にしたい」と、歩行者天国で路上パフォーマンスを演じていた同い年の大戸天童と出会い意気投合。一世風靡に参加(一世風靡には俳優の柳葉敏郎や中野英雄、傘下集団には羽賀健二、勝俣州和らもいた)。まだパフォーマンスなる言葉も一般的でない、原宿にラ・フォーレができたばかりの頃。新しい何かが始まろうとしていた。そして大ヒット曲『前略 道の上より』に至るのである。
捻挫や骨折は日常茶飯事、メンバー間の殴り合いも毎日のこと、激情の塊のような日々を送った哀川翔は現在も俳優として闘い続けている。だからこの本は単なる青春回顧録ではない。ライターの世界からこんなスゴイ人が出てくるなんて。よし、僕も身体を鍛えて来たるべき日に備えよう!(もう遅いって!)