2001-05-23 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
皆さんはお休みの日はなにをして過ごしてる? せっかくいい天気だけど、友達は予定詰まってる。ひとりで遊びに行ってもなー。そんなときは日ごろ利用しない経路の路線バスに乗ってワンデイトリップ、はいかが?。
バスはおもしろい。大通りを疾走したかと思えば、えっ、と驚くような狭路を神業とも言えるハンドルさばきでキリキリ切り返す。車窓から見える景色は、まさに普段着の街。あんなところに、あんな可愛いカフェが。あのお家の庭のガーデニングは素晴らしいな。お、あんなところで駄菓子屋さんが。けっこう近所なのに知らなかったな。あ、海だ。と新鮮な驚きでいっぱい。近所をバスでまわってるだけだけど、これはもう「旅」と呼んで差し支えない。
ときに道が悪く、おしりにゴトゴト響くけれど、その「ゴトゴトリズム」が、ゆったりとしたグルーブになって、想像が膨らんでゆく。そのまま考え事に没頭するもよし。買ったままだった文庫本を読みきってしまうもよし。乗り合わせた可愛い女の子に見とれるもよし。そのままうたた寝モードに入ってもよし。たった何枚かの小銭でくつろぐくつろぐ。

最近、紀行書を連発しているエッセイスト、泉麻人さんの新刊『バスで、田舎へ行く』は、そんなのんびり気分に浸れるやさしい本。生活に密着した路線バスは観光バスではないから、名だたる景勝地を通らずして走ることもある。窓から見えるのは「充実した退屈」。
たとえば長崎の路線バス旅行は、あえてハウステンボスはハズして、棚田の広がる地元の人しか知らない教会の街を訪ねる。もちろん、街はさびれている。しかしこの荒涼とした光景の方が、往時の隠れキリシタンたちの心情がよりリアルに伝わってくる。泉さんは、そんな風景により愛おしさを覚えるのだ。僕も京都の舞鶴を路線バスを乗り継いで旅した時は、車窓から見える海沿いの赤れんが倉庫の並びに感動したものだ。これらはかつて軍用庫だったんだな……。路線バスは、観光バスでは味わえない街の歴史も見せてくれる。
長野に行けば昆虫採集。青森へ行けば一戸から九戸まで「戸」のつくバス停を制覇。「人面」というバス停見たさに新潟へ。泉さんは路線バスに乗るたびに好奇心旺盛な少年時代に還ってゆく。路線バスにはタイムマシン的な性能があるのかもね。
この本、読むのに一番いいシチュエーションがある。そう、バスに乗りながら読むのだ。