2001-05-16 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
サザエさん一家と、じゃりん子チエ一家、あなたならどっちに憧れる?
親子三代、仲睦じく暮らすサザエさん一家と、まだ小学生の娘を働かせて父親はバクチ三昧。そのうえ娘が父親を「アホ」と罵り、おばあちゃんが放蕩息子をほうきでブン殴るじゃりん子チエ一家。後者は確実に悲惨なのに、僕はなぜかチエちゃん一家のほうに憧れる。毎日がスリリングで楽しそうだ。「あれはアニメだから面白いのであって、実際にあんな家族がいたら、とてもじゃないが笑ってはいられない」
そんな声もあるだろう。しかし、チエちゃん一家を凌駕したデンジャラス家族は実在する! 東京立川市に居を構える板谷一家だ。

「タイ怪人紀行」「ベトナム怪人紀行」などアジア諸国の秘境探険ルポでお馴染みのライター、ゲッツ板谷氏の最新刊『板谷バカ三代』は、アジアでもっとも危険な地帯、最後の秘境である「我が家」に踏み込んだ問題作。
とにかく全編、自分の祖母、父親、弟がいかにバカであるかが「証明写真付き」で書き貫かれているのだ(ゲッツ氏曰く"家族暴露本")。巻頭に載った「ヨメのパンストをかぶってる祖母の写真」には、確かに爆笑ののちに戦慄を憶えさせられる。
「オレが所属している一族は頭が悪い奴、それと本格的なバカだけで構成されている」
というおそるべき冒頭から、ジェットコースターが駆け降りるが如く、怒濤のスピードで描き出される家族のバカエピソードの数々。着替えるのを忘れてパジャマのままで自動車教習所に行ったかと思えば、庭の雑草を火炎放射器で焼くうちに家を全焼させてしまう父親。ビデオデッキを新型トースターだと思いこみ、食パンを突っ込んで壊してしまう祖母。大型トレーラーを運転しているにもかかわらず車幅を考えずに狭路に突入し、当然身動き取れなくなりJAFが来るまでの2時間ひたすらカラオケを歌い続けた弟(もちろんその間、大渋滞)。ナンバリングすれば500ではきかない数の壮絶なバカエピソードがこれでもかと繰り出され、笑いすぎて何度腸捻転になりかけたことか。
板谷バカ三代が同居するこの一家は、とにかく毎日なんらかのキョーレツな事件が起きる「逆サザエさん」。しかし読んだあと、なぜか「あぁ、こんな家に生まれたかった」と憧れてしまう。誰に遠慮するわけでなく、それぞれが自己アピールを全開フルスロットルし、家族を気兼ねなく「バカ」と呼んでしまえるこの一家には、昨今叫ばれる「家庭崩壊」を食い止めるヒントが実はふんだんにあるのではないだろうか。