2001-04-25 号
吉村 智樹(ライター・放送作家)
ここ数年、台湾ではオッソロシイ病気が蔓延している。その病気の名は「哈日(ハーリー)症」。哈日とはニッポン中毒という意味。この病気にひとたびかかってしまうと、とにかく日本が好きで好きでたまらなくなり、日本製の商品が買いたい、日本の若者のファッションが着たい、日本のアーティストの音楽が聴きたい、日本の食べ物が食べたい(和食という意味ではナイ)、日本のテレビが観たい、日本に行きたい、日本に住みたい、日本人になりたーい! と、とにかく日本に恋い焦がれ、脳が日本への憧れで占領されてしまうのだ。そして、この病気にかかった患者たちを「哈日族」と呼ぶ。
このウイルス、いや流行の源となったのが台湾在住の漫画家・エッセイストの哈日杏子さん。ペンネームにニッポン中毒を冠するだけあって、彼女の日本びいきはすさまじいのひとこと。
きっかけは14歳の時、クラスメイトから当時はまだご禁制であった日本製のミュージックテープを借りたことから始まる。このテープの歌手は松田聖子。ジャケットの聖子ちゃん(当時は、ね)の愛くるしい笑顔を見た瞬間、「頭が真っ白になり、杏子は宇宙まで吹き飛ばされてしまいました」(すごいでしょ?)。
それから彼女は松田聖子のことがもっと知りたくて、ひいては日本のことがもっともっと知りたくて、日本語を勉強し、着つけや踊りを習い、留学資金を作るためひたすらバイトをし、ついに念願の日本上陸を果たす。以来、来訪歴25回以上。語学留学に至っては3回もしているのだ。それでも彼女の日本熱は未だ冷めやらない。

そんな彼女の珍道中『哈日杏子のニッポン中毒』(小学館)が発売された。この本は台湾に猛威を振るった哈日症のきっかけとなった大ベストセラー『我得了哈日症』『我要去東京』の翻訳で、もうどのページも笑えるったらナイ。原宿キディランドでバービー人形を買いすぎてタクシー代がなくなり、背よりも高い人形の山を担いで帰ったり、買い物しすぎて食べるお金もなくなり「うまい棒」でしのいだり、うっかりアダルトビデオショップに紛れ込んでしまったり、「なにやってんだよッ」と思わずツッコミたくなるエピソード満載。でも念願だった松田聖子との邂逅シーン(ほんの数十秒だけど)には胸が熱くなったな。まさに『あなたに会いたくて』。
面白い。でも読んでてフクザツな気分なんだ。僕らは杏子さんみたいに胸張って「日本って素晴らしい!」って、果たして言えるだろうか。なんか彼女を、そして台湾の若者たちを騙しているみたいで申し訳ない気持ちになる。この本はきっと日本人が矜持を正すための「鏡」なんだろうな。