2003-01-14 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
先週の金曜日、北朝鮮が危険な賭けに踏み出しました。イラク問題の重要性もさることながら、北朝鮮問題は日本の安全保障に直接関わってきます。今週は緊急にこの問題を取り上げます。
北朝鮮は昨年末から、核開発凍結解除の動きを加速させてきました。そしてついに先週金曜日、NPT=核拡散防止条約からの脱退を宣言したのです。しかも、駐中国大使は「ミサイル発射実験の凍結解除もありうる」と発言しました。
日本にとって北朝鮮のミサイルはまさに脅威です。もし核弾頭や、核物質を積んだミサイルが日本に落ちたらどうなるでしょうか?98年に発射実験が行われたミサイル(テポドン1号)は、実害はなかったものの日本上空を通過していたことがわかり、日本人の安全保障に対する意識を大きく変化させるきっかけになりました。
もちろん国境を接する韓国、ロシアや中国も、北朝鮮の核開発によって、日本以上に核汚染の脅威にさらされることになります。なんとしても北朝鮮に核兵器開発を停止してもらわなくては困るのですが、当の北朝鮮は、「交渉の相手としてアメリカ以外ありえない」と言っているのです。
というのも、北朝鮮は、アメリカこそが、NPT(核拡散防止条約)やIAEA(国連核査察機構)を舞台に、「世界の“核”を管理している」と見なしているからです。
イラクへの核査察を見ても分かるように、アメリカは確かに、核や兵器のルールに多大な影響力を持っています。しかし他の大国、たとえば国連安全保障理事会(安保理)の常任理事国などは、アメリカの思うままにさせまいと、常に牽制しています。
それでも北朝鮮は、「アメリカが相手だ」と言い張っています。実は北朝鮮は過去に、アメリカを核開発で脅して、支援を手に入れたという経緯があるのです。北朝鮮は、あの時とまったくおなじやり方で、同じ“目的”を遂げようとしています。
発端は92年、北朝鮮が核兵器製造につながるプルトニウム抽出に成功したことが明らかになり、北朝鮮は核開発を取引材料に、アメリカを交渉の舞台にひき出しました。
“NPT脱退を留保”し、アメリカから“武力行使しない保証”を得た93年には共同声明を出し、94年には「枠組み合意」を取り付け、日・韓も含めた“電源開発支援の枠組み”と、“重油の供給”を手に入れたのです。
今回も、北朝鮮の“目的”は、体制の維持のため「アメリカの先制攻撃の可能性を排除すること」、さらには経済危機を乗り切るため「エネルギー・経済支援を、アメリカを中心とする日・韓・ロシア・中国など関係諸国から引き出すこと」でしょう。
まさに北朝鮮の“取引”の進め方は、93年〜94年の時と同じです。NPTからの脱退宣言も、アメリカとの直接対話を要求も、「制裁は宣戦布告と見なす」という政府高官の発言もそのままなのです。
おそらく北朝鮮は当時の成功体験から、今回も同じステップを踏んで、アメリカに核の危機を示せば、自分たちの要求を飲ませることができる、と考えているのでしょう。しかし、今度も同じようにうまくいくでしょうか?
決定的に当時と異なるのは、アメリカは現在ブッシュ政権である、ということでしょう。そして、これこそが北朝鮮の賭けが裏目に出る可能性の、最大の要因となるかもしれません。
ブッシュ政権は、北朝鮮を“悪の枢軸国”のテロ国家とみなし、前クリントン政権のとった関与政策を批判しています。さらには、経済的・政治的に「北朝鮮を孤立させること」が、核開発断念にもっとも効果的だと考えているのです。
これは、日本や韓国にとっても、最悪の結果をもたらしかねない政策です。アメリカは、「北朝鮮はすでに核兵器を保有している」と言明までしているというのに、もし経済危機にある北朝鮮が、孤立して追い詰められたら、どんな行動に出るかわかりません。
そして、北朝鮮に国際社会のコントロールからはずれた“核”があるということは、北東アジアの安定を大きく揺るがすことになります。それは、“核”を持たないアメリカの同盟国である日本や韓国にとって、死活問題となるのです。
そもそも、米朝枠組み合意があるにもかかわらず、再び核開発に動いた北朝鮮に問題があります。しかし、日韓両国が“危機”を回避するためには、アメリカに対し、まずは北朝鮮が望むとおりに交渉にあたるよう仕向けることしかなさそうです。