2002-12-24 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
先週は、帰国した拉致被害者の取材で新潟へ行ってきました。ご存知のように5人は、そもそも一人で帰国した曽我さんを励まそうと、再会を計画しました。そして、2ヶ月ぶりに5人が集まることを契機に「北朝鮮へは戻らず日本で子供たちとの再会を待つ」というお互いの意思を確認し合い、世の中に向けて発表したのです。
「北朝鮮へは戻らない」「日本人としての自覚を認識した」蓮池さんや地村さんの口から、決別宣言ともいうべき言葉が、とまどいのないはっきりした調子で述べられました。
なにより私が驚いたのは、5人の変化の大きさです。およそ2ヶ月前、東京のホテルで行われた帰国直後の会見に私も出席しましたが、今回見た5人は、あの時とまるで違っていました。
表情も言葉も豊かで、2ヶ月前よりずっと素直に、感情が表れているようでした。思い切り笑った笑顔や、ためらいなく自分の言葉を口にする様子がとても印象的でした。こんなにも人間は変わるものだということを、私はまた改めて目の当たりにしたのです。
日本に留まることを決めた理由を問われ、蓮池さんは「故郷に抱かれたというか・・・」と答えました。故郷の自然、懐かしい場所、政府をはじめとする周囲のサポート、そして何より、旧友、家族の「何としてもこのまま北朝鮮には帰さない」という必死の思いがなければ、劇的な変化はありえなかったのでしょう。その変化の大きさに、私は家族の思いの強さを見た気がしました。
しかし一方で、5人が北朝鮮に残してきた家族への思いもあるでしょう。蓮池薫さんは会見で「親と一緒にいて、親にとって自分がなんであるか・・・命以上のもの、自分たちが自分の子供を考える以上のもの(だと感じた)」と語っていました。しかし、親が自分を思う気持ちと、自分が親として子を思う気持ちは、本来同列に比べられるものではないと思います。きっとあの言葉の裏に、現状では口に出来ない複雑な気持ちが隠されているのではないでしょうか。
そして、もうひとつ、人から生き生きとした表情を奪ってしまう北朝鮮は、いったいどういう国なのかと、改めて恐ろしく思いました。2ヶ月たって、そもそも5人はこういう顔をして笑う人だったんだな、ということがわかったからこそ、なおさら報道で垣間見る北朝鮮身の異常さが、強く感じられたのです。
現体制が維持される限り、北朝鮮の人々は、監視による統制社会の中で感情を押し込め、飢えと寒さのために人間らしい表情を奪われたまま、人生を送るのではないでしょうか。そんな政権は一刻も早くなくなってしまったほうがいいと、私は思います。
核開発の再開や難民の流出を考えても、もはや現政権の崩壊は北朝鮮の未来を考える上で前提でしょう。しかし、当の金政権はいまだに体制の維持を目的と考えていて、そのために、日本にすりよったりアメリカに強く出たりという外交を展開しているのです。
もし崩壊が前提とわかれば、金政権が暴走しないとも限りません。安全保障上でも、寒さと飢えで亡くなっていく人たちのことを考えても、一刻も早く、日韓米が現政権にどのような形で引導を突きつけるのか、そのプロセスについての合意が必要だと思うのです。
一方で日本の政府にもまだ、政権の崩壊を前提として、どのようなプロセスが望ましいのか、はっきりとした考えがあるようにはみえません。政府は、5人の家族や、行方不明とされている拉致被害者の早期帰国実現に向け、努力することに加え、アメリカがイラク戦争に気を取られていても、自分たちの安全保障の問題として、朝鮮半島の未来について望むプロセスを見極め、働きかけをしておく必要があるのではないでしょうか。