2002-11-05 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
今週の金曜日は、「朝まで生テレビ!」が放送されます。今回のテーマは先月に引き続き、対北朝鮮および対アメリカの日本の外交についてです。日本の同盟国であるアメリカが、北朝鮮をイラクと同じ「悪の枢軸」の一角と見なしていることから、日本は、イラク攻撃も含めたアメリカの世界戦略を考えに入れつつ、北朝鮮との交渉を進めなくてはなりません。
さらに、拉致被害者の一人、曽我ひとみさんの日本永住には、アメリカの協力が必要になります。元アメリカ兵の夫が朝鮮戦争中に軍を脱走したことについて、アメリカからの恩赦が必要になるためです。日本は、アメリカの意図を量りながら、行動の予測がつかない北朝鮮と、外交交渉を進めなくてはならない難しい状況にあります。
その日本の外交について、「朝まで生テレビ!」の討論を聞く前に、今回は私自身が気になっていることを、みなさんにもお話しておきたいと思います。
帰国した拉致被害者が、北朝鮮へ戻る予定だった先月27日を目前にして、日本政府は5人の滞在延長を決めました。滞在期間は今のところ期限を切っておらず、永住帰国に向けた準備も始まっています。
この滞在延期がなぜ決まったのかを考えてみると、何より拉致被害者の家族たちの希望が強く働き、そこに日本政府の意思、そして少なからぬ国民感情の後押しがあったのではないか、と思います。
では、拉致被害者本人は、滞在延期や永住帰国を、いったいどのくらいの強さで希望しているのでしょうか?会見やマスコミ報道を通して見る限り、希望しているようでもあり、迷っているようでもあり、私達はその本心を知る由もありません。
ただ、曽我ひとみさんははっきりと「北朝鮮に住む家族に早く会いたい」と話しています。子供たちを置いてきた地村さん、蓮池さん両夫妻にしても、まずは子供たちと会って家族のこれからのことをじっくり話し合いたい、という気持ちを持っていることでしょう。
そして家族に会って自分たちで決める、ということは、曽我さんや地村さん、蓮池さん達の権利でもあると思います。北朝鮮であれ日本であれ、拉致被害者の人たちがどこでどのように生活を送るか、ということを“強制”できるものではありません。
しかし、北朝鮮はまさに拉致という犯罪によって、その人権を24年ものあいだ拉致被害者の人たちから奪ってきたわけです。そしていまだに“拉致被害者と家族の連絡をとらせない”という形でその“権利”を奪っています。
ところが、家族と連絡が取れず、いつ会えるかもわからないまま、“国家間の交渉に命運を委ねざるを得ない”という現在の状況もまた、選ぶ権利が本人たちの元にない、ということでは北朝鮮にいるのと同じ状況です。
まさか、拉致被害者たち“本人の意思”が無視されている、などと思いたくはありませんし、そうではないことを願います。ただ、日本は国として、死亡したとされる拉致被害者の正確な安否情報を得るために、また核開発の停止を引き出すために、簡単に譲歩するわけにはいかない、という事情があって、それが“本人の意思”より優先されているのではないか、という懸念は残ります。
本人たちが家族とともに北朝鮮を離れなければ、心の奥底の意思を表に出せない、という拉致被害者の親たちの考えももっともです。それならばなおいっそう、北朝鮮との駆け引きの中で、現在日本にいる拉致被害者が、北朝鮮に住む家族と顔をあわせて、じっくりと自分たちの将来について話し合い、“自由に選択”できる状況が実現することを、私は願って止みません。