2002-10-15 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
いよいよ今日10月15日、北朝鮮の拉致被害者のうち5人が一時帰国します。私は被害者が家族と2日間を過ごす東京のホテルから、中継で状況を伝えることになっています。
今回の再会を目の当たりにすると、私の考えは、ひょっとしたら変わってしまうのかもしれませんが、今のところ私は、日朝国交正常化交渉を速やかに再開すべきだと考えます。
拉致後、亡くなったとされる8人についての真相解明をめぐって、「予定通り今月中に交渉を再開すべきだ」、そして「交渉再開を遅らせるべきだ」と、世論は真っ二つに分かれており、10月初めの新聞の世論調査では、後者の意見のほうがやや多くなっています。
この結果には、北朝鮮が提示した拉致被害者の死亡原因等に対する国民の怒りが表れているようです。北朝鮮の回答には、事実とは考えにくい部分が多々あり、もし実際に虚偽の内容があるとしたら、私達は当然怒るべきでしょう。「まずは拉致被害の真相解明が、国交正常化より先だ」という世論の感情も至極自然なものだと思います。
しかし、北朝鮮が国家としていったん提示した“事実”を、あえて覆すような捜査にすぐさま応じるか?というと、立場を置き換えて考えても、まず難しいし、国家の面子を重んじる北朝鮮なら、なおのこと答えはNOでしょう。
それに、たとえ北朝鮮が国際的なルールを守る“まともな”国になったとしても、私達日本に強制捜査する権利が与えられるわけではありません。
因みに、国際刑事警察機構(ICPO)に加盟にしている国々は、お互いに情報交換したり捜査の協力をしたりはしますが、相手国に強制捜査権や逮捕権を認めてはいるわけではありません。
相手国に乗り込んでまで捜査が出来るかどうか?は、あくまで交渉次第、もちろん相手国の同意がなければ不可能です。
“すべては交渉次第”となれば、国交があろうがなかろうが結果は同じだ、と思う人もいるかもしれません。更には、北朝鮮が国際的なルールを守る“まともな”国になるはずがない、と考えている人たちもいるようです。
そのような考え方に従って、“まともな”国にならない北朝鮮から“真実”を得ようとすれば、私達は、現状の体制を維持している限り、北朝鮮国家の崩壊を待つか、アメリカによる武力攻撃など、武力による強制を望むしかないでしょう。
しかし、それは望ましいことでしょうか?どんな国に住む人々にとっても、戦争は望ましくないことだし、戦争や難民の発生によって、日本の安全保障が一時的に大きく脅かされる可能性もあります。できればそうした形をとることなく、真実を知りたいところです。
私が思うに、もっとも望ましい方法は、実際に拉致の被害にあった人たちに、“真実”を話してもらうことではないでしょうか?もちろんこれも、時間がかかるし、容易ではない手段ではあります。
拉致被害者の方たちは20年以上を北朝鮮で過ごし、しかも今回は子供など家族を残しての帰国です。長年の生活の中で、マインドコントロールを受けているかもしれないし、家族の安否を考えれば口に出来ない事もあるでしょう。
でも、そうした障害を取り除き、自由に話しを出来る環境を作ることができるなら、それが、最も早く穏やかに“真実”に近づく方法ではないかと思うのです。
拉致被害者が実際に北朝鮮で過ごしてしまった20数年の時間を、ただちに消去することはできません。その間に得た子供ら家族の存在を前提にして、自由に日本へ往来し、望めば日本での生活を再開できるよう、国交を正常化しておけば、きっと早い段階でマインドコントロールも解け、彼らの口から真実が明らかにされるだろう、と私は思うのです。
来週のコラムでは、会見場での家族の表情など、私が見たこと、感じたことをお伝えしようと思っています。取材をしていく中で私の考えに変化があれば、その過程もみなさんに伝えていこうと考えています。みなさんもぜひ一緒に考えてみてください。