2002-04-23 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
先週まで、いわゆるメディア規制3法案についてお話をしてきましたが、今の国会ではもう一つ、国民の徹底した議論を必要とする“3法案”があります。日本という国のあり方を変えるかもしれない、この“3法案”とは、一体どんなものなのでしょうか。
突然ですが、みなさんは、自分の住んでいる街が、テロリストに襲撃されたり、他の国の軍隊から攻撃されたらどうしよう、と考えたことがありますか?
昨年9月におきたアメリカのテロ事件の時に考えたことがある、という人もいるかもしれません。そういう緊急事態での対応を国レベルで考えた法律・制度のことを“有事法制”といいます。
そして、小泉内閣が今年4月17日、国会に提出したのが「有事法制関連3法案」。日本の安全保障の歴史を大きく動かす3つの法案です。
一つの新法案と二つの法改正案からなる、この「有事法制関連3法案」は、“有事”といわれる国の緊急事態に、政府や国民がどう対処すべきかを定めています。
この法案の存在は、メディア規制3法案と同じく、“政治家とカネ”をめぐるスキャンダルの影に隠れていましたが、これを国会に提出したことが、実は大変な出来事なのです。
というのも日本には、“有事”を想定することさえタブー、という時代が戦後長く続いてきました。先の大戦中に、国家総動員法で無理やり戦争に協力させられた、と感じた国民も多かったこと、また、戦後できた憲法が戦争の放棄を掲げていることなどから、日本人は長い間、戦争や武力攻撃の可能性や対処について、議論することすら避けてきたのです。
昭和40年、自衛隊が朝鮮半島有事について想定した極秘リポート「三矢研究」は、大きな政治問題になりました。戦後30年以上たった昭和52年になって、立法化を前提としない形で、防衛庁の有事法制研究が始まりました。
それでも21世紀になるまで、政治家が立法化を口にすることさえ憚られるような、世論の空気が存在していたのです。
ですから、小泉総理が昨年9月から年末にかけて、あれよあれよという間に法制化への準備を推し進めた、その展開の速さには、多くの国民があっけに取られたことでしょう。
憲法9条をめぐるイデオロギーの対立が激しかった、米ソ冷戦時代だったら、内閣が潰れてしまってもおかしくないくらいの行動です。
ではなぜ、小泉内閣になってから、法制化への動きが可能になったのでしょうか。アメリカのテロ事件と、昨年12月の不審船銃撃事件(奄美大島沖で海上保安庁の巡視船が、国籍不明の不審船と激しい銃撃戦となり、その後不審船が沈没した事件)が、国民にショックを与え”有事”を身近に感じさせた、という専門家もいます。
総理も法案提出の際、談話の中でこの二つの事件に触れ、これを受けて法制化に乗り出したと述べています。
冷戦時代の秩序が崩壊した中で、“テロ”や“不審船”という新たな脅威が出現したという認識が、世論の空気を変えたのかもしれません。それならば、1998年の北朝鮮によるテポドン・ミサイル発射も、法制化へのステップに挙げられるでしょう。
また、戦後50年以上たって、国民の中に戦争を体験した人たちが少なくなり、“憲法9条”についても議論が出来るようになってきました。教科書問題などで、戦争の歴史を見直そうという動きもあります。
しかし、環境が整えば議論が終わるわけではありません。“有事”をどう見定めるか?自衛隊の作戦行動はどういうものが認められるのか?総理の権限はどうするのか?そして憲法9条との整合性は…?
運用によって簡単に戦争への道が開かれる恐れのある法律なら、国民の多くにとって、受け入れがたいものとなるでしょう。
今週、金曜深夜放送の「朝まで生テレビ!」でも、このテーマを取り上げます。来週からは、具体的に法案の中身を見ていきましょう。