2002-04-09 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
4月になって、テレビ局でも新しい番組編成が動き始めました。といっても、私は担当番組に変化なし。生活も今まで通り・・・のはずだったのですが、年度の初めというのは、何かしら用事が多くて慌しいものです。朝夕の冷え込みもあって、風邪を引く人が周りに多いのですが、みなさんは大丈夫ですか?
さて今週も、3月の朝まで生テレビで取り上げた、いわゆる“メディア規制3法案”についてお話しましょう。メディア規制3法案というのは、テレビや新聞などのメディアを規制する意図があるのではないか、と言われている「個人情報保護法案」「人権擁護法案」「青少年有害環境対策法案」の3つです。
個人情報を保護する、あるいは人権を擁護すると言うと、いいことに思えますが、いったい法案の何が問題なのでしょうか。まず今週は、みなさんの生活にももっともかかわりの深い、個人情報保護法案から見ていきましょう。
個人情報保護の動きは、そもそも、コンピューターによる個人データの集積や一元的管理に対応するものとして始まりました。1990年代に入って、多くの会社や役所などが、個人情報をコンピューターによって大量に管理するようになりました。
その一方で、インターネットを通じた不正なアクセスや、記憶媒体(CDロムやフロッピーディスク等)による持ち出しが容易になりました。そこで、法律での規制が必要だと言われるようになったのです。
実際、電話会社の社員によるデータの漏えい事件などもあり、政府は検討部会や専門委員会を設けて、検討を重ねてきました。そして、これまでの法律では対応していなかった、民間部門が持っている情報を対象にした法案が、去年の春、国会に提出されたのです。
確かに、現在の様な状況では、個人データが、他者が利益を得るための情報として勝手に利用されたり、犯罪に悪用されたりしないよう保護することは、ぜひとも必要です。また、知られたくないことを知られずにすむのは、プライバシー保護であり、人権が守られることに他なりません。
しかし、この法案には注目すべき点が、いくつかあります。まず、個人の情報を、どのような目的・手段で手に入れ、どのように取り扱ったかを、本人の要求によって明らかにし、求めに応じて訂正する義務を事業者が負う、としていることです。これを、私がかかわっているメディアに当てはめると、どうなるでしょうか。
たとえば、関係者の内部告発を受けて、政治家の不正疑惑を取材する場合(外務省と鈴木宗男議員の疑惑があてはまるでしょうか)を考えてみてください。疑惑を追及されている政治家は、この法律をたてに、情報入手の手段を明らかにせよ、と訴えを起こすことが出来ます。法廷に出なくてはならなくなったら、密かな告発は成立しませんし、メディアも情報提供者を守ることが出来ません。
さらにこの法案では、個人情報の処理の仕方について、国が苦情を受け付け、必要な調査を行うことが認められています。ということは、たとえば「報道機関の取材を受け、実際の報道を見てみたら、取材の時に聞いていた趣旨とは違う形で自分のコメントが紹介されていた」というような苦情を受けて、国が報道機関に調査に入ることがありえるのです。
出版や放送の前に国が内容をチェックすることは、「事前の検閲」といって憲法で禁止されています。ですから、国が調査するのは、出版や放送の後で、取材された情報がどのように処理されてその報道に結びついたか、という経緯になるでしょう。しかし、そもそも取材したものをどのように報道するかは、「表現の自由」として憲法で保障されているのです。
報道に国家権力が介入することは、最高法規である憲法が認めていません。にもかかわらず、この法案はそれを認めようとする恐れがあるものなのです。
「個人情報保護法案」が、使い方によっては、メディアの手足を縛るものであることが、分かってもらえたでしょうか。すなわち、それは私たち国民の「知る権利」が侵害されることにほかなりません。この法案の“落とし穴”は、メディアの負っている社会的な責任と義務、そのために与えられた権利を考慮せずに埋めることは出来ないのです。
来週は、人権保護法案についての話をしましょう。