2002-02-12 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
先週の市場は円・株・債権が同時に値下がりしました。いわゆる「トリプル安」という状態で、国民の間には「日本経済の信頼度が下がったためではないか」と心配する声が広がっています。円・株・債権が同時に下がると、日本経済は信頼できなくなってしまうのでしょうか? 今日は、「トリプル安」と今後の日本経済について、考えてみましょう。
不良債権処理を進めようとする銀行にとって、株と債権が値下がりすることは、ダブルの痛手です。ただでさえ株安のところへ加えて債券価格が下落すれば、その分の損失を計上しなければならず、銀行が不良債権処理に充てられる原資は、ますます少なくなってしまいます。まして、不良債権処理の損に加えて、株や債券が価格下落した分の損を加えることになれば、赤字幅は広がり、銀行の株はますます値下がりするでしょう。
株安と債券価格の下落で、銀行の資本不足が心配されていますが、そんな中、3月には“ペイオフ”が解禁されます。金融機関が破綻したときに、これまでは預金額が全額保証されていた(預金者の手元に戻ってきた)のですが、3月以降は1千万円(と利子)までという上限が設けられることになります。
問題は、これを機会に預金者がより破綻の危険性が少ない金融機関を選別し、“安全でない”とみなされた金融機関から、資金が急速に逃げていく恐れがあることなのです。ただでさえ資本不足で体力が落ちている銀行は、ちょっとした資金逃避でも簡単に破綻してしまう可能性が高いのです。
次々と金融機関が破綻するようなことになれば、日本の金融システムは信用を失い、円も株も債券も大暴落してしまうかもしれません。田中外務大臣更迭に端を発したトリプル安は、このような金融危機の引き金ともなりうる現象なのです。
先週末に開かれたG7(主要7カ国)財務大臣・中央銀行総裁会議で、日本の塩川財務大臣は、日本発の金融危機を回避するため、デフレ対策、つまり株や債券の価格下落を食い止める政策を行う決意を示し、総合的なデフレ対策を策定する方針を各国に説明しました。
注目されるのは、銀行への公的資金注入の検討を示唆したことでしょう。“公的資金”というのはつまり私たちの税金です。不良債権処理を進める銀行の資本不足を補って、金融システムを安定させるために、これまで、金額にして9兆円近くの公的資金注入が行われてきました。
しかし結果として不良債権は減らず、金融庁が行った注入の方法や総合的な政策に問題があったのではないかと議論されてきたのです。
金融庁は、9兆円の公的資金で不良債権を減らせなかった責任を回避するために、再度の公的資金注入を躊躇している、と言われてきました。それが、ここにきて、これまで避けてきた公的資金注入に政府が踏み込んだということは、いよいよ日本経済の危機が深刻だと判断したからではないでしょうか。
「なんとしてもデフレを阻止する」という日本政府の決意とは裏腹に、不良債権処理などの小泉総理が掲げる構造改革は、デフレを加速させるものです。しかし、構造改革が遅れれば、日本経済の長期的な回復に対する期待が薄れ、円や株や債券の価格を下落させることになってしまいます。それゆえ、深刻な危機を前にしても、総理は構造改革をすすめざるをえません。
デフレを止めながら改革をいかに進めるのか、公的資金を投入するとすれば、今度こそ本当に効果的に行われるのか、今週中にも発表される政府の総合デフレ対策は、崖っぷちにたつ日本経済を救うための、まさに“鍵”になりそうです。