2002-01-15 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
新しい年になって半月が経ちました。今日、円とドルの為替レートはいくらになっているでしょうか。去年の年末と比べてみて下さい。去年12月は平均して1$=127円くらい、11月は1$=122円くらいでした。同じ1$でも、今日の方が、ドルの値段が高くなっていませんか? これは、その分だけ(基軸通貨であるドルに対して相対的に)円の値打ちが下がっている、つまり、一ヶ月前より“円安”になっている、ということなんです。
円安あるいは円高は、景気に大きな影響を与えます。貿易を抜きにして日本の経済を考えることはできないからです。そして、現在の円は、ほぼ3年ぶりの円安水準です。「円安=円の値打ちが下がる」と聞くと、良くないイメージを持つかも知れませんが、悪いことばかりではありません。例えば、輸出産業にとっては、円安はメリットです。日本から輸出するモノはドルに換算すれば安くなり、それだけ市場での価格競争に強くなります(貿易や、海外との金融取引の多くは、ドル建てで決済されています)。
日本はこれまで何度も、輸出産業の力で不況からの脱出をはかり、経済成長を実現してきました。いま、円安にしておけば、輸出産業が競争力を取り戻し、経済が回復するきっかけになるかも知れません。
さらに、円安で輸入品の価格が上がれば、物価全体の下落(デフレ)をくい止められる可能性もあります。デフレは不良債権を抱える企業の負担を増やすことになるため、政府はなんとか食い止めたいと考えています。こうなると円安は、政府にとって願ってもない状況と言えそうです。
しかし、円安が本当に望ましいかどうかは、もう少しよく状況を考えてみなくてはなりません。今の経済の状態を考えると、今回の円安は、日本経済崩壊のきっかけになる可能性もないとはいえないのです。
いま日本は、巨額の不良債権を抱える企業や体力を失った銀行が、いつばたばたと倒産してもおかしくない状況です。このボロボロの日本経済が「もう持ちこたえられない」と判断されれば、投資家は、損をする前に円を売って、他の通貨に換えようとするので、円安になります。ですから円安は、“一部の投資家の間に「日本経済は崩壊する」という判断が広がっている”、というシグナルとして、世界から判断される可能性があるのです。
すると具体的な根拠が見あたらなくても、「円安になってきた」という理由で、さらに多くの投資家が円を売ろうとするでしょう。一斉に売り浴びせられた円は、大暴落します。そうなれば、私達が円建てで持っている貯金や、企業が国内に持っている資産などは、実質的な価値をほとんど失ってしまうでしょう。もちろん、日本の経済自体が信用を失うので、企業の株価も大幅に下がって、不良債権の処理どころか経営も危うくなるでしょう。そして十分に日本の資産や株が安くなったところで、アメリカを中心とする海外の企業がそれらを買い漁る、ということも考えられます。
今回の円安が、誰かの意図によって実現したのかどうかはわかりませんが、日本政府もアメリカ政府も市場に介入せず、むしろこの程度の円安を容認する姿勢を示しています。アメリカだけをとってみると、この円安は、二つの点で望ましいのです。円安を嫌った投資家が、円を売ってドルを買えば、その資金がアメリカに流れ込むし、円が安くなればなるほど、日本の資産がお買い得になります。
このため、アメリカ企業が“日本買い”するためにまず“円売り”をやって、そのせいでいま円安になっているのではないか、という憶測すらあるのです。(アメリカ企業が円安によって割得で手に入れた日本の資産は、いづれ経済が回復してきたら、日本企業が買い戻そうとするでしょう。すると日本の企業は、安く売って高く買うので、損をすることになってしまいます。)
日本にとっては、経済回復のきっかけとなる可能性もある一方で、日本経済の崩壊をまねくおそれもある今回の円安。アメリカと一緒になって円安を支持していると、気付いたときには、大切な資産を失っていたということにもなりかねません。十分に警戒心を持っておく必要がありそうです。