2001-10-23 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
上海で行われたAPECで、小泉総理とブッシュ大統領が、テロ後2回目の会談を行いました。小泉総理が、テロ特別措置法の成立が近いことを述べたのに対し、ブッシュ大統領はタリバンが崩壊した後のアフガニスタンの復興に、日本の協力を期待したい、と答えました。
日本に本当に期待されている貢献策は、いったいなんでしょうか。今回は、テロ事件直後に日本が示した、テロとの戦いへの貢献策、自衛隊の派遣について考えます。
今回のテロ事件への対応で、政府はまず自衛隊派遣を先に決めたあと、法律を作りました。小泉総理が会見で「自衛隊を派遣するための措置を講じる」と明言したのは、テロ事件の8日後のことであり、さらにその6日後に行われたブッシュ大統領との会談でも派遣を約束しました。
実質的にこれが、アメリカ、さらには世界に対する日本の“公約”になりました。そして、テロ事件の約1ヶ月後に、法案の審議が始まったのです。
普通に考えれば、順序は逆です。ましてや、日本の安全保障に関わる重要な方針転換を、国会で審議もされていない状態で世界に対して公約する。これは、よほどの緊急事態でもない限りあり得ません。
テロとの戦争に対し、これまでにない“迅速”かつ“踏み込んだ”対応をとったことについて、日本政府は、今回の事態が、これまででは考えられなかったことだから、と説明しています。
それゆえ、対応も“緊急事態なみ”ということでしょうが、自国の領土が侵略を受けるような戦争状態に突入したわけではないし、“今回の事態が特別だから”という理由だけでは、理由になりません。
実は、日本政府にとっては、自衛隊を派遣することそのものが、切迫した課題だったようです。自衛隊派遣を焦った背景には、「湾岸戦争のトラウマ」や「ショー・ザ・フラッグ」などと象徴される、“アメリカの意向”への過剰な意識があったと言われています。
1991年に起きた湾岸戦争は、イラクのクウェート侵攻に対して、国連が武力行使を決議し、多国籍軍による空爆をきっかけに始まりました。
日本はこの時、アメリカから自衛隊による支援を要請されましたが、憲法上の問題で国会が紛糾し、結局、自衛隊派遣を拒否する一方で、総額130億ドルの資金援助を行いました。この行動で日本は「金が出すが、血は流さない」と言われることになり、また、こうしたことをアメリカは「トゥー・リトル、トゥー・レイト」(too little, too late=少なすぎる、遅すぎる)と批判したのです。
多額の資金援助にも関わらずアメリカから評価されなかったことに、当時の日本政府や外務省はショックを受け、以後、アメリカを中心とする世界平和への貢献は、「カネ」ではなく「ヒト」などの、目に見える貢献を、速やかに行わなくてはいけない、という考えにとらわれるようになりました。これを世間では「湾岸戦争のトラウマ」と呼んでいます。
さらに今回、アメリカのアーミテージ国務副長官が日本の柳井駐米大使との会談において、「ショー・ザ・フラッグ」と語ったとされたことが、政府や外務省の希望を後押ししました。
「ショー・ザ・フラッグ」は、「日の丸を見せて欲しい」と訳され、これが事実上、アメリカからの自衛隊派遣要請と解釈されました。「やはり、アメリカは自衛隊派遣を求めているのだ」と、日本政府は色めき立ち、なかばフライングするような形で、現行の憲法解釈では不可能とされている「平時での米艦船の護衛」を決行しました。
さらに、民間機ならもっと費用をかけず短時間で出来る、人道支援物資の輸送に、わざわざ自衛隊機を使用したのです。
ところが後に、言葉の真意が、自衛隊派遣の要請そのものではなかったことが明らかになりました。「日の丸を見せて欲しい」という和訳は、アメリカの意向を先読みした政府や外務省の、意図的な操作だったのではないか、とも言われています。
アメリカが本当に自衛隊派遣を求めているのかどうか、その真意は、明らかではありません。しかし日本政府は、過剰なまで敏感に、“アメリカの意向”に反応しています。
今回の日本の支援が、自由と民主主義への挑戦に対するものというより、実質的にはアメリカに対する支援だ、と言われても仕方がないかもしれません。テロ対策特別措置法にしても、法案が出来上がった当初は「米軍などの活動支援法」という名称でした。
しかし、アメリカの自衛戦争に、日本の自衛隊を派遣することになると、集団的自衛権の行使に触れるおそれが出てきます。日本は、アメリカの言うことなら憲法違反の恐れがあっても応じるのか、という批判にもつながります。
そこで、日本政府は、今回の支援は前述のように、アメリカに対するものではなく、「テロリズムの防止、根絶のための国際的な取り組みに、積極的、主体的に寄与するものだ」と強調しているのです。
この実態は、まるでアメリカというお父さんに誉められたい、一人前と認めて欲しいばかりに、背伸びをしている子供のように思えてきます。
自衛隊派遣に用いられているロジックの危うさは、他にもまだまだあります。来週もしつこく続けます。