2001-10-16 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
アメリカを中心とするテロ報復攻撃は、先週の月曜日以降、毎日続けられています。タリバン側は、空爆による民間人の死者が100人以上出ていると発表していますが、アメリカが攻撃を止める様子はありません。ブッシュ大統領は、「1ヶ月、1年、10年かかろうとも、忍耐をもって戦う」と語っており、残念ながら戦争は長引きそうです。
そんな中、日本では、自衛隊を派遣するための新法成立に向けて、国会での与野党の協議がまとまりました。与党3党は、10月20日のAPECでの日米首脳会談に間に合うよう、法案の成立を目指しています。法案の審議が始まったのが、10月10日ですから、予定通り法案が成立すれば、たった10日間しか審議されなかったことになります。しかしこの新しい法案は、自衛隊を「戦時」に「他国の領域へ」派遣する道を開く法律として、多くの問題をはらんでいるのです。
そもそも、日本が、自衛隊の派遣や武力行使について、自らに制限を課すのは、かつての戦争で、日本が“自衛”や“在留邦人(海外にいる日本人)の保護”や“同盟国の援助”を理由に、中国や韓国を始めとするアジア諸国に出兵し、戦争を引き起こしてしまった反省に基づいています。
日本の武力行使に関する制限は、憲法9条に規定されています。「武力による威嚇、または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と書かれた憲法9条を、政府は次のように解釈しています。
・「個別的自衛権に基づく武力行使は認められるが、必要最低限にとどまるべきである」
・「集団的自衛権はあるが、それに基づく武力行使は認めない」
自衛隊の海外派遣を認める二つの法律、PKO協力法と周辺事態法は、この憲法解釈に従う形で、自衛隊を派遣する理由、範囲、武器使用の制限などについて、細かく決めています。
湾岸戦争後に作られたPKO協力法では、「紛争当事者間の停戦合意がある場合」にのみ、国連平和維持活動への参加、もしくは国連の専門機関などの要請に基づく人道支援が認められており、武器使用については、個々の隊員が「自己、または自己と共に現場に所在する他の隊員の生命・身体を防衛するため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合」に、ピストルなどの小火器を使うことが認められています。
日米安保条約に基づく新ガイドラインに関連して作られた周辺事態法では、「放置すれば武力攻撃に至る恐れのある事態など、我が国周辺地域における平和・安全に重要な影響を与える事態(周辺事態)」において、「現に戦闘が行われておらず、そこでの活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる日本周辺の公海とその上空」に範囲を限定して、アメリカ軍の後方支援が行えることになっています。武器を使用できるのは、自分自身や、自分と一緒に職務についている人を守る場合だけです。
つまり、現行法に従えば、自衛隊は、武力行使につながるような、武器の使用が予想される他国の領域には、派遣できません。
しかし今回政府は、アメリカ中枢を襲ったテロ、そして“テロに対する戦争”という、いままでにはあり得なかった事態に、現行法を踏み越えてでも、自衛隊を派遣して協力する必要があると判断しました。これまでの法律では対応できない派遣を実現するため、政府は、あくまで憲法に違反しない範囲で、新しい法律を作ることにしたのです。
新しい法律では、アメリカの攻撃を後方支援するために、自衛隊をパキスタンまで派遣することが想定されています。パキスタンはどう考えても、日本の周辺ではない他国の領土です。しかも、いつ戦闘地域になるかもわかりません。
パキスタンではいまのところ、戦闘は起きていませんが、すでにアメリカの攻撃に対して、全国で死者を出すような過激な反発デモが起こっています。攻撃を受けているタリバン政権とは、人種的にも歴史的にもつながりの深い地域で、いつテロや戦闘行為が起こってもおかしくありません。小泉総理も国会の答弁で「どこで戦闘が起きるかわからない」と語っています。
はたして、これだけのことが予想されていて、新しい法律が憲法に違反しないのかどうか、小泉総理ですら、「一貫性、明確性を問われれば、答弁に窮する」と答えています。憲法の精神までも揺るがしかねない自衛隊の派遣が、これほどまで早急に行われようとしている理由は、なんでしょうか。来週に続きます。