2001-09-25 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
アメリカが、テロへの報復攻撃に向けて着々と準備を進めています。報復の対象になっているのは、今回のテロ事件の首謀者と目されているオサマ・ビンラディン氏。ソ連のアフガニスタン侵攻の際、ゲリラとして戦ったサウジアラビア人で、現在アフガニスタンの9割を支配しているタリバン政権が、彼をかくまっているといわれています。
ところがアメリカは、彼が今回のテロの首謀者であるという、明白な証拠を挙げていません。果たして、ビンラディン氏への報復が正しいのかどうか、あるいは、ビンラディン氏と彼のテロ組織を攻撃することが、世界中で頻発しているテロの撲滅につながるのかどうか、報復攻撃にはいくつかの疑問が残されているのです。
しかしアメリカは、十分な議論のないまま、怒りにまかせて戦争へと突き進んでいるように見えます。日本もまた、集団的自衛権と憲法についての議論を飛び越えて、自衛隊をインド洋に派遣しようとしています。アメリカ・日本とも、この非常事態に冷静さを失い、なし崩し的に取り返しのつかない事態へと向かっているのではないでしょうか。
今週金曜日の朝まで生テレビでは、いま挙げたような、アメリカの報復攻撃をめぐる問題を中心に討論する予定です。
さて今回は、テロ事件のために先延ばしになっていた株の話です。株が下がるとなぜ困ったことになるのか? について2週間前は、一般的な企業の場合で考えました。(もう忘れてしまった!という方、バックナンバーを読み返してみて下さいね。)今度は、“不良債権処理”という難題を抱えた、日本の銀行の場合を考えます。
不良債権を処理する、というのは、返済されるかどうか分からない貸付金(この時点では債権という)を、返済されないものと見なし、損として計上するということです。
損した分に見合うだけのお金を積み立てておかなければ、赤字になってしまいますから、銀行は、利益の中から引当金(ひきあてきん)という名目で、お金を取り置いています。
ところが、不良債権を大量に処理するとなると、引当金だけでは足りなくなるので、これまでは、資産として持っている、企業の株を売って、その分に充ててきました。しかし、株価が下がってしまったために、それでは充当できず、自分たちの株主に配当を出せないか、或いは赤字を出すことになってしまいます。信用第一の銀行としては、なんとしてもこれを避けたいので、処理する不良債権の量を減らします。つまり、それだけ不良債権の処理が滞ることになります。
さらにこの9月の中間決算から、時価会計が導入され、株価についての処理方法が変わりました。これまで株価は、買ったときの値段で計算していましたが、この9月からは、現時点での株価で計算しなければならなくなったのです。もし買ったときより安くなっていた場合は、その差額(含み損)の約6割を、株主に配当する資金や自己資本の中から差し引かなくてはならなくなりました。しかも銀行は「自己資本規制」といって、資産の中で、他人に返す必要のない、純粋に自分たちの手元においておける資本の割合を一定に保たなければならい、という国際基準を満たすよう義務づけられています。配当もして、自己資本も一定に保つ、となると、銀行は、ますます不良債権の処理に手を着けにくくなります。
配当、自己資本規制、不良債権処理などに充てる原資をなるべく確保しておきたい銀行は、企業にお金を貸さずに、自分の手元に置いておこうとします。これが「貸し渋り」です。そうすると、企業は資金調達が困難になり、経営が厳しくなって、給料の引き下げやリストラをせざるを得なくなります。なかには倒産するところも出てくるでしょう。そうすると、従業員たちは当然消費を抑えますから、モノが売れなくなり、企業の経営がさらに悪化するという悪循環になるのです。
株価が下がるということは、不良債権が減らしにくくなるということなのです。日本経済にのしかかる“重荷”、不良債権については、次回以降、またの機会にお話します。