2001-09-18 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
この1週間、気が付けばニュース番組を探して、テレビの前に呆然と座っていました。アメリカを襲った史上最悪のテロ事件は、遠く太平洋を隔てた島国に住む私達にも、大きなショックを与えました。
行方不明者のうち、どうか一人でも多くの命が救われますように。そして、ハイジャックされた飛行機に乗っていた人たち、世界貿易センタービルにいた人たち、国防総省にいた人たち、すべての命を失った人たちのご冥福を祈ります。また、家族を失った人たちの悲しみが一日も早く癒されますように…。
今週は予定を少し変更して、今回の米国同時多発テロ事件が、日本をはじめ世界の経済に与えた影響を含めたお話です。
ハイジャックされた民間機が激突した世界貿易センタービルは、世界の金融の中心地であるウォール・ストリートのすぐそばにありました。この事件のため、ウォールストリート周辺は完全に機能を失い、アメリカの金融市場は麻痺しました。
ニューヨーク株式市場は週明けまで取引をストップしましたが、これだけ長期の市場閉鎖は、世界大恐慌末期の1933年以来です。このため、ニューヨークでの株取引によってドルを得ようとする世界の企業や投資家が、その手段を失いました。
日本企業も、もちろん例外ではありません。アメリカの非常事態に、投資家が投資を手控えることも予測され、企業のアメリカでの資金調達は、ますます難しくなるでしょう。
金融の面だけではありません。アメリカは日本にとって最大の貿易相手国ですが、事件のため航空便による輸出入が3日間ストップし、貿易が滞りました。再開後も通常の運行状態に戻るまで時間がかかっており、ほとんどが飛行機によって輸出されていたIT(情報産業)関連部品は、とりわけ大きな打撃を被っています。
今後アメリカ国民が、戦争などの危機的状況に備えて消費を抑える可能性もあり、アメリカ市場の需要が減退することも予測されます。そうなると、アメリカへの輸出が頼りだった日本経済は、さらに大きな影響を受けるでしょう。
こうした予測をもとに、事件翌日の日本の平均株価は、あっさりと1万円を割り込みました。そもそも、不良債権処理や構造改革の遅れ、不景気などによる将来への不安から、国内需要が伸び悩み、(みんながモノを買わなくなり、企業は儲からず)株価はいつ1万円を割ってもおかしくないような状況だったのです。
ぎりぎりのところで日本経済を支えていたもの、その一つが輸出でした。その輸出でさえ、アメリカの景気後退のため(アメリカの需要が減り、日本からの輸出が減って)貿易黒字が減少していたのですが、そこへ、今回のテロ事件が起きてしまったのです。
株価下落の要因を目前にした投資家は、株価が下がらないうちに株を手放して、損を被らないようにしようと考えます。こうして、いっせいに株が売られ、平均株価が300円以上も値下がりし、1万円を割る事態になってしまった、と言われています。
週明けの東京株式市場の株価は、9504円41銭。またバブル崩壊後の最安値を更新しました。
いま見てきたように、株価は世界市場と連動して変化しています。日本固有のファンダメンタルズ(経済変動の根本的要因)に加えて、世界の経済、政治、天災などが、日本の株価に影響を与えているのです。
日本に限らず、先進国において、国家や地域の経済を左右するような企業は世界を舞台に商いをしており、とりわけ金融(事業のための資金を手に入れたり、運用したりすること)においてはグローバル化が進んでいるため、世界の国々がお互いの経済に、大きな影響を与え合うようになってきています。
今回のテロ事件を契機として、アメリカの経済が縮小すれば、世界経済危機の恐れが一段と強まります。今後アメリカがどのようにテロへの報復を行うのか、それらがどのように世界の政治的緊張を高めるのかなどによって、世界の株価が変動してくるでしょう。
今回のテロ事件は、遠く離れた国で、テレビを通して見ているだけの私達にも、悲しみや悔しさや怒りをもたらしました。そればかりか、この事件は今後も、政治や経済を通して、私達の生活に影響を与えます。たとえ自分に直接被害がなかったとしても、あなたにとって無関係ではないのです。
次回は、日本の株価が上がらない理由の一つと言われる「不良債権処理」の問題について、話そうと思います。