2001-08-07 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
参議院選挙が終わって、9月末に予定されていた自民党の総裁選挙は、行われない見通しが強くなっています。8月9日までに複数の立候補者が無い場合、選挙そのものが行われませんが、おそらく小泉さん以外には立候補者がいないと予想されるので、8月10日には、小泉さんの、この先2年間の自民党総裁続投が事実上決まります。
改革に向かっていよいよ磐石(ばんじゃく)といいたいところですが、参院選直後に浮上したのが、小泉総理の靖国神社参拝問題と、外務省人事をめぐる田中眞紀子外務大臣VS官房長官のバトルです。いつもより1週おくれて、8月3日の深夜に放送された「朝まで生テレビ」では、前者の「靖国神社参拝問題」をとりあげました。
4月の自民党総裁選挙のとき、すでに小泉総理は「靖国神社に参拝する」と言っていました。前に話した“新しい歴史教科書”の問題と合わせて、中国や韓国の政府から反発の声があがっていましたが、先日ASEAN(東南アジア諸国連合)の会議に行った田中眞紀子外務大臣が、中国や韓国の外務大臣と会談し、その際の両国の発言を受けて「(小泉総理は参拝に)行かないでいただきたい」と反対の意思を示し、論争が激しくなりました。
どうして、神社にお参りするのがそんなに問題になるんだろう? って思うでしょう。一つは、靖国神社というのは、みんなの町にある普通の神社とはちょっとちがう、特別な歴史があるからなんです。(その歴史は、このあと説明します。)それともう一つ、日本は政治と宗教を分ける“政教分離”というルールを憲法で決めています。小泉さんが総理大臣という立場で、宗教施設である神社をお参りすることは、その“政教分離”に違反する疑いがあるのです。大きく分けてこの二つが、問題になる理由です。
靖国神社は、いまは普通の神社と同じ民間の宗教法人ですが、かつては国の神社として特別な歴史を歩んできました。明治維新の頃、明治天皇が戊辰戦争(崩壊する江戸幕府と、維新政府の間に起きた最後の戦い)で亡くなった人たちを慰霊するために作り、以降、太平洋戦争まで、国のために殉難(国家・宗教や公共の利益のために一身を犠牲にすること)・戦死した人たちが祀(まつ)られてきたのです。軍隊に所属していた人が中心ですが、戦地で亡くなった日本赤十字の看護婦さんたちや、沖縄の「ひめゆり部隊」の人たちなども含まれます。戦争中は軍隊の管理下にあり、名簿におさめられた戦死者、戦病死没者などの人達は、靖国神社の“神様(御祭神)”として祀られました。戦地に赴く人たちの中には「死んで靖国神社で会おう」という言葉を残した人もいて、そういう人達にとって靖国神社は、国のために(というより、当時は天皇陛下のために)戦うことの精神的な支えだったのです。
そういう特別な場所としての歴史があるうえ、1978年、A級戦犯も祀られるようになったことで、総理大臣の靖国神社参拝は、中国や韓国の強い反発を招くようになりました。“A級戦犯”は、太平洋戦争の終戦後、日本との戦いに勝った連合国が、戦争の罪を裁くために行った極東国際軍事裁判、いわゆる“東京裁判”において、一番重い罪があるという判決を受けた人たちです。“A級戦犯”が祀られるということは、日本の侵略によって大きな被害を受けた中国や韓国からすれば、一番憎い敵が、神様になって祀られたようなものです。そこへ、国の代表としての総理大臣がお参りに行くのは許せない、と思う感情は、立場を置き換えてみれば、理解できるような気がするよね。でも、“東京裁判”については、戦後50年以上たったいまでも見方が分かれていて、日本の戦争と戦後の歴史をとらえるとき、必ず論争になります。戦後の歴史観の象徴である“東京裁判”について考えることは、この先日本がどのように世界の中で生きていくか、を考えることにもなるのです。
次回はこの“東京裁判”と“A級戦犯のとらえかたをみてみよう!