2001-07-31 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
参議院選挙から一夜明けた月曜日の新聞紙面には、「自民大勝」の文字が踊りました。改革を掲げる小泉総理が誕生するまでは、今回の選挙で自民党は大きく負け(議席を大幅に減らし)て、改選議席の61を割り込むだろう、と予測されていました。しかし、自民党単独では選挙の対象となった議席(改選議席)数を3つ上回り、小泉さんで選挙を乗りきろうとした自民党の狙い通りになったのです。
与党3党では、目標としていた63議席を越えて、78議席を獲得し、与党3党で参議院の過半数を維持しました。とはいっても、選挙前の議席より1つ増えただけ。同じ与党の中でも、公明党は選挙前と変わらず、また、保守党は逆に2つ減らし、扇千景党首の当選も危ぶまれるほどでした。言ってみれば、自民党の一人勝ち。小泉人気の恩恵を受けたのは、自民党の候補者だけだったことが分かります。
よくよく考えてみると、与党3党が掲げた目標は、森内閣当時のもの。小泉総理の人気の高さを考えれば、もっとたくさん議席がとれることも予想できたのに、目標設定は低いままでした。自民党が単独で参議院の過半数を占めたのならまだしも、低い目標をクリアし、単独で3議席、与党3党でもたった1議席増やしたことをもって、新聞をはじめとするマスコミが「大勝」と表現することには、どうにも違和感をおぼえます。
一方の野党は、選挙前と比べて民主党が4つ、自由党が3つ増やしていて、社民党が4つ、共産党が3つ減らしています。自由連合や二院クラブが全く議席を取れなかったので、野党全体の勢力としては1つ減らしたことになります(民主党は目標をプラス8としていたので、4つ増えても“勝った”とはいいません)。
ここで各党が選挙戦で訴えていたことを考えてみましょう! 民主党と自由党は、「小泉さんの掲げる構造改革は支持するが、やり方がだめだ」と主張していました。社民党と共産党は、「小泉さんの改革をやったら痛みが大きすぎるからだめだ」といいました。構造改革を明確に支持した政党が勝ち、反対を訴えた政党が負けました。それだけ、政党に関わらず、有権者が“改革”を熱望しているということでしょう。裏返せば、小泉人気が“改革”への支持だということが、より鮮明になったわけです。
あらためて与野党の議席配分を、改選議席と非改選議席を合わせて、みてみましょう。与党139議席、野党101議席、無所属6議席。選挙前と比べて、1議席が野党から与党へ動いただけです(ただし今回定数の削減があったので占める割合でいうと、与党が2%多くなりましたが)。 小泉内閣が高い支持率であっても、与党としては微増だったことを考えると、投票した人たちは、「改革は支持するが、選挙後に先送りされている具体策が実行されてみないことには、評価出来ない」というふうに判断したのではないでしょうか。
もう一つ気になるのが、投票率の低さです。予測では60%を越えるといわれていた投票率(投票の権利を持っている有権者のうち、投票した人の割合)が、56.44%と3年前の参議院選挙を下回りました。これだけ政治に関心が高まっているのに、過去の投票率と比べて、高いとはいえません。「小泉さんは支持したいけど、自民党に投票したら逆効果になるかも知れない」という懸念があることを前回お話ししましたが、そう考えた人たちが様子見を決めこみ、投票率が低くなったのかもしれません。あるいは、小泉さんが改革の具体的な中身を語らないことや、靖国問題についての言動をみて、“小泉さんに投票するにはためらいがあった、とはいえ、野党には投票したい候補がおらず、棄権してしまった”とも考えられます。
実際のところ、これからが、小泉総理の戦いの始まりです。既得権益を引き剥がして、改革を進めるには、ものすごい抵抗が予想され、一番の抵抗勢力は、小泉総理の身内である自民党の中にあると、総理自身も口にしています。選挙に勝ったことで自民党内は、現状維持の小泉改革支持で一致していますが、景気が悪くなると反対の声は強くなることでしょう。参議院選挙翌日の株価は、バブル崩壊後の最安値をつけ、9月にはかつてないほどの経済危機も予測される厳しい状況の中、たくさんの失業者や倒産が伴うことが予測されている改革をどう進めていくのかは、ますます難しい課題です。選挙によって“改革”への支持がより鮮明になったことで、かえって小泉内閣は、改革への道のりを後戻りできないところまで追いこまれたといえるかも知れません。
ちなみに、話題のタレント候補の影響ですが、一部の政党にとってはやはり有利に働きました。が、むしろこの非拘束名簿式という仕組みでは、知名度だけでなく人気も高い候補か、組織(労働組合や業界団体)の集票力がある候補でなければ、当選できないということが、はっきりしました。これが国政にどのような影響を与えるのかは、今後の各議員の活動をみて判断することになりそうです。
ひとまず、改革路線への支持が固まったところで、今後の政治の焦点は小泉総理の靖国神社参拝問題へ移ることになります。8月3日の「朝まで生テレビ」では、この靖国問題をテーマに取り上げます!