2001-06-12 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
5月の朝まで生テレビでは、歴史教科書の問題を取り上げました。「新しい歴史教科書を作る会」が来年4月からの採用を目指して作った中学生向けの「新しい歴史教科書」が、論議を呼んでいるからです。インターネットで実に2000件を越える意見が集まった程のこのテーマは、小泉総理が口にしている「靖国神社公式参拝」も併せて、日本とアジア、とりわけ中国・韓国との関係を考える上で避けて通れない問題です。
日本と中国や韓国との関係が重要なのは、いうまでもありません。地図帳を開いて、二つの国が日本とどういう位置関係にあるか見てみると、たとえば北九州と韓国の首都ソウルとの距離は、日本の首都東京よりも短いことがわかります。物理的に近い、ということは、日本の安全保障、つまり国の安全を守る上で、また人や物資の移動など経済の面において重要な意味を持っています。実際二つの国との結びつきは深く、歴史をさかのぼれば、漢字や仏教などの文化、また焼き物などの技術が、中国大陸や朝鮮半島から伝えられ、人も多く日本列島に渡ってきました。いまだって、野菜や洋服などたくさんのものを中国から輸入しているし、韓国とは来年のワールドカップを一緒に開催します。
しかし中国・韓国と日本との関係は、とても微妙で複雑です。なぜなら、日本は明治維新以降、太平洋戦争終結に至るまで、中国や韓国への干渉・侵略行為を行い、多くの被害を与え、いまだにそれらの被害の実態がどれほどのものだったか、という認識において、両国と日本との間で決着がついていない部分があるからです。実際に起きた事実は一つだ、と思うかも知れないけれど、一つの事実でも視点がちがえば、歴史の見方は異なってきます。たとえば、日本に被害を与えられた人たちは、日本がどれほどひどい事をしたかを語るでしょう。しかし、被害を与えた方は、いかにそれが正当な理由で行われ、あるいは仕方がなかったかを語るかも知れません。視点を変えれば、自衛のための進出も略奪のための出兵だった、ということだってあるかも…歴史は当事者によって語られたとしても、一方だけを取り上げて真実とすることはできないんじゃないかなぁ?
小泉総理が明言している靖国神社公式参拝の問題も、同じような側面をはらんでいます。靖国神社は、明治維新以降、天皇の軍隊として戦争にいき、亡くなった人たちを祀っています。その中には、太平洋戦争後に行われた東京裁判で、侵略戦争の計画・実行者として有罪判決を受けたA級戦犯も祀られています。そこに総理大臣が公式参拝するのは「侵略戦争を正当化することになる」として、中国・韓国はもちろん、日本国内にも反対する声がある一方で、終戦の日に、国のために戦って命を落とした人たちの魂を慰めるのは、総理大臣として当然のことだという意見もあります。この論議の背景には、生前に罪を犯していようと、死者は皆同じ神様や仏様になるという、日本人の民族性としての死生観も含まれているのです。
中国や韓国を含めたアジア諸国の感情を考え、信頼関係の維持を重視するのか、それとも、国内の声を重視するのか。日本の対中・対韓外交政策は、大きく分けてその二つの視点の間で、常に揺れ動いてきました。歴史教科書の中で、それらがどう扱われてきたのかを、次回から見ていきましょう!