2005-07-26 号
丸川 珠代 (テレビ朝日アナウンサー)
北朝鮮をめぐる問題を話し合う六カ国協議が、北京で始まりました。協議の開始を前に、日・米・韓の3カ国で、北朝鮮に求めていく内容のすり合わせが行なわれ、同時に北朝鮮の外務次官とアメリカの国務次官補も会談を行ないました。
1年1ヶ月ぶりに、北朝鮮が協議のテーブルについたことは、まず歓迎するべきことでしょう。北朝鮮の求めに応じて、アメリカが期間中の二国間協議の実施を約束したことも、今回の協議実現につながったと言われています。しかし日本にとっては、手放しで喜べることばかりではありません。
関係国の最大の関心事は核問題であり、北朝鮮の最大の望みは、アメリカの先制攻撃回避と、金正日体制の維持です。アメリカは今回の協議に当たって、北朝鮮の核放棄が現実に動き出せば、関係正常化も可能であるという立場を示しています。正常化するというのですから、当然、現体制を何らかの形で認めることが含まれるでしょう。
そうすると、拉致問題の解決はますます難しくなりそうです。金正日政権は、拉致問題はすでに解決したという立場をとっていますし、アメリカや韓国から経済支援を得られれば、彼らが日本との関係を良好にする動機も失われます。
万が一にも金正日政権が国際社会から認められれば、拉致という国家犯罪に対する我々の怒りは行き場を失って、北朝鮮への反感が一気に高まることも考えられます。けれど、まだあの国で生きているかもしれない拉致被害者の人たちのことを思うと、むしろ我々は、北朝鮮を一気に国際社会の枠組みの中に引きずり込む、という方法も考えておかなければならないかもしれません。
国際社会の一員になれば、当然、国際社会の法や秩序に従わなくてはなりません。北朝鮮は、自分たちが真っ当な法治国家であることを示すため、日本のみならず、国際社会の基準にかなった、申し開きなり証拠なりを提示する必要に迫られるでしょう。仮に現体制を維持するというのなら、彼らが国際社会に加わったという自覚を持たせ、国家のあり方を改める方向へと、関係国で導いていくべきでしょう。
もちろん、それは究極の理想に過ぎません。実際のところ、まず彼らが核査察をスムーズに受け入れるかどうかさえ、危ぶまれているのですから、現実ははるかに遠く、国際社会の入り口あたりでうろうろしているようなものです。けれども、もし彼らが経済支援だけを手に入れて、核放棄はしたけれど、国際社会から孤立を続ける、というのならば、体制維持は危険かもしれません。結局のところ、核問題だけが解決し、周辺国、特に我々日本にとっての問題は、積み残されてしまう可能性があるからです。
ただ、国境を接する韓国や中国にとって、現体制の瓦解は、大量の難民発生など、様々な問題に直結します。アメリカにとって、日本がいかに同盟国といえども、北朝鮮の隣国の意向を無視して協議を進めることは困難でしょう。実際アメリカは、前回協議まで現体制の維持を否定し続けていましたが、今回は態度を変えてきています。北朝鮮の体制維持という問題において、日本は苦しい立場にあるといえるかもしれません。
一方で国際社会には、金正日体制が国際社会や世界経済に取り込まれれば、彼らの内側から変化が起き、不可逆で本質的な解決をもたらす、という考え方もあります。6カ国協議の枠組み外では、ヨーロッパの国々が北朝鮮と国交を結び、中にはそのシナリオの現実味を探りながら外交活動を行っている国もあるのです。
たとえ北朝鮮の現体制が維持されても、私達の国が、拉致問題の解決を厳しく求めていくことに、変わりはないでしょう。けれども、その手法はいかにあるべきか。この六カ国協議はその問いに対する検討を、我々に迫っているような気がしています。