

1965年愛知県生れ。ノンフィクション作家。主な著書に『17歳の殺人者』(ワニブックス)『学校的日常を生き抜け』 (教育資料出版会)『美しき少年の理由なき自殺』(メディアファクトリー)など。
2003-09-29 号
藤井 誠二(ノンフィクション作家)
マスコミで働くこと、マスかインディペンデント関係なくメディアに携わって生活していきたいという若い方に『編集者の学校』(講談社・講談社WEB現代編)は一押しです。マスコミ就職についての指南本の類はいろいろあるけど、この本はダントツにおすすめです。インターネット時代ではメディアにマスとかミニとかそういった区分けをすること自体が意味がなくなってきているので、広い意味でメディアに関わりたいと思っている人たちに読んでほしい。とくに、匿名ではなく署名で表現活動をしたいという方にはうってつけの本です。が、くれぐれも言っておきますが、この本はマスコミ就職のためのハウトゥーも、入社試験概要も書いてません。

『編集者の学校』
タイトルだけを見ると、「編集者になるためにはどうしたらいいか」というイメージを抱くと思いますが、中身はそれだけではありません。メディアの中で社会性の高い仕事を積み重ね、第一線で活躍している編集者やジャーナリスト、写真家などの「人生訓」とでも言いたくなるような濃密なアドバイスが詰まっています。登場人物30十数名のうち3分の1ほどの方(先達の方々)はお会いしたことが会ったり、お仕事をいっしょにさせていただいたりしたことがあるのですが、あらためて読み入ってしまいました。
編集は『週刊現代』や『フライデー』の編集長をつとめた元木昌彦氏なのでその人脈がフルに活用されている。こんな贅沢な本はないです。メディアの自己実現を果たし、社会性を持った濃密な仕事をしていくための先輩からのアドバイスが詰まっているのです。
本書の構成は、「カリスマ編集者に聞く」、「作家から見た『いい編集者』『悪い編集者』」「取材する側の技術」「電子出版の周辺」の4章で構成されていて、各章にそうそうたる顔ぶれが並んでいます。ここに登場している方々の名前を知らなかったら、もぐりでしょうね。
マスコミに就職することが「メディアで働くこと」ではありません。マスコミに就職することを目標にして、何がやりたいのかという動機が感じられない若者によく出合いますが、そういうひと
たちに読んでもらいたい。だってこの本に登場する大半の方々はフリーランスや、インディペンデントな会社の編集者、あるいは組織の中でも唯我独尊的な立場を通してきた方にしぼられています。「世界」を向こうに回して、一人でいっちょうやってやろうという気概の固まりのような先達たちばかりが並んでいるのです。
そして、この本は編集者などのマスコミ志望以外の若者にも読んでほしいのです。例えば次のような、元『週刊文春』編集長の花田紀凱氏と前出の元木氏の対話が収録されてます。
花田--今の若い人はもっと人に会うということを大事にしてほしいんです。ぼくらのほうが人に会ってるんですよ。それでは困るんです。編集者やデスクはほかにも雑務があるし、いろいろやることがたくさんあるわけですから。若い人たちがどんどん外にいって、人に会わなきゃだめですよ。
そして、いろいろな面白い話を持ってこなければならない。活字になったようなものはたいていこちらも知っているわけですからね。ぼくらの知らないことを教えてほしい。
元木 我々の入社したときはコピーやファックスがないので、ほしい資料は大宅文庫にいって、調べて、手書きで写しました。今はコピーやファックスがあるのは当たり前ですし、インターネットまであという時代です。
これは恥ずかしい話ですが、『週刊現代』である作家の連載を長期にわたってやっていたとき、その間に担当編集者は何人も入れかわりました。そのときの担当者に「担当になって一年以上になるけど、ご本人に会ったことがあるのか?」ときくと、電話で一回話しただけなんです。原稿はファックスで送ってもらって、お礼状もファックスで送っていました。今の編集者はそういうことが平気になってしまっているんです。
このテの話はぼくも何度か経験したことがありますが、たしかに一度も会わないで、電話で話しもしないでEメールだけで原稿のやりとりをしてしまうこともあります。かつてのように新宿ゴールデン街などのマスコミ業界人が集まる盛り場で書き手と編集者が朝方まで呑んで、気に入らない作家の誰々を殴ってやったとか、そういうくだらない武勇伝を滔々としゃべり続けるような文化はぼくはもう流行らないと思いますが、やはり通信ツールだけでのやりとりだけでは濃密な人間関係はつくることはできません。顔と顔をつきあわせることが第一歩、というのは当たり前のことです。でもそれが当たり前ではなくなっています。
これは書き手と編集者との関係だけではなく、一般的な人間関係にもあてはまることがわかるでしょう。この本にはある程度のマスコミ内(とくに活字系)での経験を積まないとピンとこない箇所もありますが、大半はこれから社会に泳ぎでようとしている世代が活用・応用できる「訓」がこれでもかというぐらいに詰まってます。本書でどんな顔ぶれが揃っているかはお楽しみということにして、これで2800円はかなりお得だと思います。